【特集】プラチナは8月高値の節目に迫るが、景気後退懸念が重石に <コモディティ特集>
MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
ただ、今夜の米FOMCでは75ベーシスポイント(bp)の大幅利上げが見込まれている。12月の利上げペース減速の見方が示されればドル安となってプラチナの支援要因になるとみられるが、高インフレによる景気後退懸念もあって上値は抑えられるだろう。戻り高値更新でテクニカル要因の買いが入ったとしても1000ドルの節目を突破し、上値を伸ばすのは難しいとみられる。
英国ではトラス政権の大規模な経済対策を受けて財政不安が高まり、ポンドや英国債が急落した。英中銀による国債買い入れ介入や英政権の経済対策見直しが発表されたが、トラス英首相の支持回復にはつながらず辞任することになった。スナク元財務相が新首相に就任すると市場に安心感が戻った。英政府は10月31日に予定していた中期財政計画の発表を11月17日に延期しており、内容を確認したい。
一方、米ウォール・ストリート・ジャーナルの報道をきっかけに12月の米FOMCでの利上げペース減速の見方が強まっている。経済指標で米住宅市場の低迷や消費者心理の悪化が示されており、利上げペース減速の見方の根拠となっている。ただ、高インフレを抑制するため、フェデラルランド(FF)金利の誘導目標水準を現在の3.00~3.25%から4.50%まで引き上げる必要があるとみられており、今回は実際に12月の利上げペース減速が示唆されるかどうかが焦点である。
●中国の景気の先行き懸念とウクライナの穀物輸出減少の可能性
中国共産党の第20期中央委員会で習近平総書記の3期目続投が正式決定された。習近平一強体制が確立するなか、ゼロコロナ政策が維持されることで景気の先行き懸念が出ている。第3四半期の中国の国内総生産(GDP)は前年同期比3.9%増と前四半期の0.4%増から持ち直したが、ゼロコロナ政策により、第4四半期のGDPは減速するとみられている。10月の中国の購買担当者景気指数(PMI)は製造業・非製造業ともに50の節目を割り込んでおり、新型コロナウイルスの感染者の行方と経済指標を確認したい。
ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)の四半期報告で中国の輸入増加が指摘されたが、今回の上昇局面では上海プラチナの出来高が減少しており、中国勢は高値での買いを見送っている。
世界的な食料危機を受け、国連の仲介で黒海経由のウクライナ産の穀物輸出が7月22日に締結された。しかし、ロシアは10月29日、ウクライナがクリミア半島にドローン攻撃を仕掛けたことを理由に輸出合意への参加を停止した。フランスが陸路によるウクライナからの穀物輸出拡大を欧州連合(EU)各国と協議しているが、ウクライナ産の穀物輸出が減少するようなら、穀物価格が上昇し、再びインフレ要因になる可能性がある。
10月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)速報値は前年比10.7%上昇と前月の9.9%上昇を上回って再び過去最高となった。エネルギー問題に加え、ウクライナ産の穀物輸出が再び混乱するようなら高インフレが続くとみられる。欧州中央銀行(ECB)は10月27日の理事会で75bpの大幅利上げを決定したが、ラガルド総裁の発言を受けて今後の利上げペース減速の見方が出た。大幅利上げが続くようなら、ユーロ圏の景気後退懸念が強まることになりそうだ。
●NYプラチナの大口投機家の買い越しが拡大
プラチナETF(上場投信)残高は10月28日の米国で33.99トン(9月末33.00トン)、27日の英国で13.85トン(同13.87トン)、28日の南アフリカで9.60トン(同10.08トン)となった。安値から持ち直したことを受けて米国で投資資金が戻ったが、景気後退懸念が残り、英国と南アで減少した。
一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、10月25日時点のニューヨーク・プラチナの大口投機家の買い越しは1万1381枚(前週8494枚)に拡大した。9月6日時点の6751枚売り越しから買い戻されて買い方に転じると、新規買いも入り、3月29日以来の高水準となった。先物市場での買いであり、レンジ上限を突破できずに目先の高値をつけたとの見方が強まれば、利食い売り主導で調整局面を迎えるとみられる。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース