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【特集】大乱調モード米国株、「リーマン再来予兆」からのサバイバル戦略 <株探トップ特集>

米国株市場の乱高下が目立っている。5日にはNYダウが一時1400ドル近い暴落に見舞われた。リーマン・ショックの再来を指摘する声も出始めた。

―FRBによる“超金融引き締め”で思惑錯綜、空売りとAIアルゴに翻弄される市場―

 6日の東京株式市場は朝方に売り優勢で始まったものの、その後は押し目買いに切り返す展開となった。この日はゴールデンウイーク後半の3連休明けであると同時に週末ということもあって、売り買いともに気迷いムードが漂うなか、日経平均株価は前営業日(2日)の終値を挟み強弱観を対立させる格好となった。朝方は安かったものの、その後は買い戻す動きが活発化し、結局185円高の2万7003円で引けた。しかし、来週9日以降の株式市場の動向に不安心理が拭えない状況に置かれている。

●米株市場は一夜にして景色様変わり

 米国株市場が大乱調の様相を呈している。いうまでもなく、東京市場も米株市場の大蛇がのたうつような激しい動きに振り回され、先行きに極めて不透明感が強い局面にある。米国では、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に対する投資家の関心が最高潮に達しているといっても過言ではない。今週4日に、連邦公開市場委員会(FOMC)の政策発表とパウエルFRB議長の記者会見が行われたが、これを受けて米株市場は、いったんは大きく買い優勢に傾き、NYダウが一時1000ドル近い大幅高(大引けは932ドル高)を演じ、ナスダック総合株価指数も400ポイント超の急騰をみせた。

 ところが、その余韻にひたる間もなく翌5日にはマーケットの雰囲気が一変、前日に上げた分をすべて吐き出して更に下値を探るという、ジェットコースターさながらの乱高下をみせている。5日は終値ベースでNYダウが1063ドル安、ナスダック指数は647ポイント安となり、ナスダック指数の下落率はほぼ5%に達した。

●電撃が走るレベルの引き締め強化だが

 米国のみならず世界の耳目を集めた今回のFOMC。躊躇なくFRBは0.5%の利上げを決定したが、これはITバブルが形成された2000年5月以来、実に22年ぶりとなる。通常は1回につき0.25%の利上げが定石であるが、今回は想定以上のインフレに対応して引き締めを急ぐ構えをみせた。また、FRBのバランスシートを縮小する作業、いわゆる量的引き締め(QT)についても6月スタートを決めた。これに加えて、政策金利の引き上げ幅については、特例ともいえる0.5%を5月だけでなく6月と7月も行い、都合3回続けて行う方針を示した。「前振りがない状態で普通に考えれば、株式市場にとって電撃が走るレベルのタカ派姿勢」(中堅証券ストラテジスト)であり、株価へのネガティブインパクトも大きいはずであった。

 しかし、この超タカ派に傾斜したFRBの決定をマーケットは半ば織り込んでいた。視点は別の部分に向いていたのである。それは、6月の利上げ幅が0.5%ではなく0.75%に達するとの思惑だった。FOMC後の記者会見で、パウエル議長は3回連続の0.5%利上げを示唆する一方で、0.75%の利上げについては、「活発な議論の対象とはなっていない」と述べた。これが一度はマーケットに安堵感をもたらすことになる。「FRBは思っていたほどはタカ派ではなかった」という見方が、広範囲に買い戻しを誘発する形となり、NYダウをはじめとする主要株価指数の急騰につながった。

●ソフトランディングは困難との見方

 だが、このFOMCに対するファーストインプレッションが必ずしもマーケットの方向性を決めるものではないことは、これまでの経緯でも証明されている。特に今年はFRBとマーケットの対話はうまくいっていない。とりわけ、今回はそれが鮮烈だった。翌5日の米株市場のベクトルの向きは真逆に向いた。NYダウの下げ幅は一時1370ドルを超え、ナスダック指数は780ポイントあまりの暴落をみせる場面に遭遇するなど、前日の上昇は何であったのかと言わせるほどのリスクオフの洗礼を浴びた。新たな悪材料が噴出したのであれば話は変わるが、そういった形跡はなく、わずか1日の間になぜこれほどまでに地合いが変わるのか、人間の思考回路ではおよそ理解できない動きだ。

 下げの理由として挙げられていたのは、「0.75%の利上げの線は遠のいたが、冷静に考えればインフレ懸念が払拭されたわけではなく、FRBの金融引き締め政策によって、パウエル議長が目指す米経済のソフトランディングは現実問題として困難であろう」という見解だった。つまり、今度は政策金利の目先的な引き上げ幅という近視眼的なポイントから、米国の中期的なリセッションの可能性にマーケットの視点が移ったとの解釈である。この解釈には、一夜明けて、機関投資家など運用担当者が冷静になったというニュアンスが漂う。

●材料なき乱高下はリーマン前夜の匂い

 これについて市場では「日ごとに変わる地合いに理由をつけても、今はとても追いつかない。FOMC直後の上昇はショートスクイーズ(狼狽的な空売り買い戻し)の典型。そしてその反動が翌日に出たということ。これはAIアルゴリズムの仕掛けによる部分が大きい」(ネット証券アナリスト)という声が聞かれた。先物を絡めた一方通行の売り注文もしくは買い注文に、厳密にはマーケットではなく、それに携わる“人間”が翻弄されている。

 そして、乱高下によって足もとでは相場の方向感が見えにくくなっているが、「このボラティリティの高さは08年のリーマン・ショック前の状況と似通った動き」(同)と指摘する。当時は米国サブプライムローン問題から派生した信用リスクが、投資銀行大手リーマン・ブラザーズの破綻で顕在化し未曽有の暴落に発展したが、今回はこのサブプライムローン問題に匹敵するような金融リスクの連鎖は想定しにくい。しかしながら、中国不動産バブルの崩壊やウクライナ問題(ロシア制裁の影響)、世界的なインフレとその延長線上にあるスタグフレーション懸念など、複合的に悪材料が折り重なっている。これら潜伏する悪材料がどういう形で引火するかは、炎が上がってからでないと分からない怖さがある。

●AIアルゴと空売りが波乱を演出

 もっとも、相場の強弱は表裏一体である。米株市場の値動きが証明するように、一夜にして解釈が入れ替わる。極論すれば、今後もその連続であろう。これは需給的な要素に委ねられている部分が多い。ニュースヘッドラインにコンマ秒単位で反応するAIアルゴリズムの存在と、空売り勢力の台頭が波乱を助長しているが、その代わりに坂道を一気に転げ落ちるような下げはなく、短期的なリバウンドも想定以上に大きくなりやすい。東京市場の展望も米株市場と基本的に同じ時間軸で考えておいて間違いはない。

 「ただし、相対的には円安の進行によりドル建てベースの日経平均の割安感が際立っており、ここに注目する海外マネーも少なくない。直近では岸田首相が英国シティーで日本株への投資を呼びかけたこともプラスに働く。基本はFRBによるQTの裏返しで、機関投資家は株式から債券へのシフトを進めるため、大勢トレンドは覆せないとしても、短期値幅取りのパフォーマンスを狙うのであれば東京市場が有利」(準大手証券ストラテジスト)という見方も示されていた。

 そして、こう続ける。「基本戦略は反動を利用することと、長期で資金を寝かせず、一定の時間が経過したら資金を回収すること」(同)とする。つまり、急速な下げがあれば高い確率で戻り局面が訪れる。そのリバウンドを狙う。だが、長く資金を寝かせておくのはリスクが大きい。思惑を外した場合に塩漬けにするのではなく、時間軸を設定してロスカットであっても機械的に持ち株をキャッシュ化(資金を回収)するということだ。

●FRBが手綱を緩めた時がチャンス

 中期波動は日米ともに残念ながら下向きであり、これが上向きに変わるタイミングを探すとするならば、FRBの金融政策スタンスに着目しておくところである。経済のオーバーキルを避けるために、ある程度のインフレを許容してもFRBが引き締め姿勢を緩める時。これが次の大勢トレンド転換のシグナルとなる。

 FRBは極めて難しい舵取りを強いられている。米経済の軟着陸は可能という見解をパウエル議長は示しているが、行き過ぎた過剰流動性によって加速した状態にあって、今は右にハンドルを切っても、左にハンドルを切ってもドリフトして壁に激突してしまうようなリスキーな局面にある。とりあえずはインフレ抑止を優先し、給与所得の伸び率が、CPIやPCEコアデフレーターの伸び率を上回っているうちに何とかしたいという思惑が垣間見える。

 言い換えれば期待インフレ率を引き下げるために、株式市場の逆資産効果を利用することも厭(いと)わない。しかし、当然ながら過度な引き締めは本意ではなく、ある程度までインフレの抑止が効けば柔軟に政策スタンスを変える用意もあるはずだ。投資する側にとっては、このターニングポイント、すなわちFRBが逆方向にハンドルを切り直すタイミングをしっかりと見極めるのが、長期ポジションを組むうえでの要諦となる。

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