【特集】武者陵司「2022年の市場展望」(後編) <新春特別企画>
武者陵司(株式会社武者リサーチ代表)
※武者陵司「2022年の市場展望」(前編)から続く
(2)NEXT GAFAMの資格を持つ日本企業群
●日本産業の主役交代が急速に進んでいる
今や日本経済を代表する企業は、経団連や経済同友会などに集う、昭和時代からの銀行、重厚長大産業(鉄鋼・化学・重電・重工)、自動車、電機企業などのエリート企業群ではない。GAFAM(アルファベット<GOOGL>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、メタ・プラットフォームズ<FB>:旧社名フェイスブック、アップル<AAPL>、マイクロソフト<MSFT>)にも対抗できるビジネスモデルを持つ新興大企業が、日本を代表するプレイヤーになっていることは、うれしい驚きである。時価総額ランキングの推移でみると、急激に日本の担い手企業が変わっている。それらは将来、GAFAMにも匹敵する潜在力を持ってくるかもしれない。
日本は米国と異なり、リーディングカンパニーの新陳代謝が長らく起きなかった。しかし、コロナ危機を挟んだ数年間のうちに、日本の将来を託するのに十分な資格を持つ企業群が台頭している。
武者リサーチが勝手に(恣意的に)格付けしたNEXT GAFAM時代の日本のリーディング企業をみると、2015年までは時価総額上位20社中2社程度であったものが、2021年12月末では12社(ソニーグループ <6758> 、キーエンス <6861> 、リクルートホールディングス <6098> 、東京エレクトロン <8035> 、ソフトバンクグループ <9984> 、信越化学工業 <4063> 、日本電産 <6594> 、ダイキン工業 <6367> 、任天堂 <7974> 、ファーストリテイリング <9983> 、HOYA <7741> 、村田製作所 <6981> )と急増していることがわかる。
旧態依然たる大企業の停滞・没落と新興中堅企業の台頭という図式は10数年前から進行し、それはTOPIXの規模別株価パフォーマンスに如実に表れていた。その花形役者の交代がいよいよ、ひのき舞台で起きつつあるのである。
●GAFAMの既存ビジネスは収穫逓増期から収穫逓減期への過渡期にある
いま世界ではGAFAMが飛ぶ鳥をも落とす勢いで繁栄し、米国株価もそれにより突出したパフォーマンスを続けている。それはGAFAMが支配するインターネットプラットフォーム産業が収穫逓増期にあるからである。
商品や産業は、1.収穫逓増期、2.収穫逓減期、3.衰退期、4.安定期(or絶滅期)というライフサイクルを持っている。
これをビールの飲酒量と効用の関係で考えてみよう。最初のミニグラスでは到底満足できないが、大ジョッキで一気に乾いたのどを潤す時に大いなる満足が得られる。ここまでが収穫逓増期であり、飲めば飲むほど、最初の一杯よりも次の一杯の方が大きな満足が得られる。しかし、さらに飲み進めると、徐々に快感が薄れる限界収穫逓減期に入る。そして、さらに飲み進むと悪酔いが始まり、快感は不快感に変わり、ついにはビールを飲むことを止める、これが減衰期である。
農業の歴史を振り返ると、原始採集経済段階にあった人類が、農耕を始め飛躍的に生産力を高めた紀元前4000年以降、日本では紀元後200年頃が収穫逓増期であり、超過リターンが人口増と、ピラミッド・古墳などの巨大構築物をもたらした。しかし、古典派経済学が農業を分析の対象にした中世末期、近代初期には収穫逓減期に入り、産業革命とともに衰退期に入り、いまようやく安定期に入っている。
●次のフロンティアを模索するGAFAM
インターネットが一般に普及して20数年が経過した。この間、米国にはグーグルやアップル、フェイスブック(メタ)、アマゾンといった超巨大ハイテク企業が誕生し、米国の株式市場は我が世の春を謳歌してきた。しかし、その勢いもいよいよ鈍化する時期に入りつつあるのではないか。収穫逓増の時期を過ぎ、収穫逓減期に入っていくものと思われる。たとえば、音楽や動画ストリーミングのジャンルでは多くの企業が参入して価格競争が起こり、収益性が悪化している。
GAFAMはインターネットとサイバーの世界で多くの利便性を開拓して圧倒的ユーザーを獲得し、その独占的強みを活用してさまざまな外部のコンテンツメーカーを支配してきた。しかし、スマホの新モデルに追加される新機能に対する驚きは小さくなってきた。機能の差がなくなったスマホメーカーが競争して価格が下がっていく時代に入り、プラットフォーマーの役割はさまざまなコンテンツを右から左に流すだけの単なる土管になっていくものと思われる。今後、付加価値を生み出すのは、土管ではなく、その土管を通して提供されるコンテンツになっていくのではないか。
また、GAFAMなどの巨大なプラットフォーマーは、独占性を利用してネットアプリプロバイダーやコンテンツメーカーを支配し買収しコングロマリット化しているが、いずれ独占禁止法違反に問われるかも知れない。
フェイスブックが社名をメタに変更し、 メタバースと呼ばれる仮想空間の開発を強化する方針を打ち出した。現在のプラットフォームビジネスが収益的に厳しくなる恐れが強まってきたなかで、新しい収益源を、さらなるバーチャルの世界に求めたのである。しかし、メタバースのような仮想空間はより臨場感を高めるだろうが、これまでほどの熱狂を生み出すだろうか。メタバースには膨大なデータ処理のためのコストが必要なるが、コストパフォーマンスは低下していくのではないだろうか。
サイバーの世界のもう一つの新しいフロンティアが、仮想通貨などブロックチェーンの世界であるが、それはデータの分散管理であり、プラットフォーマーが支配しにくい領域である。
●次のフロンティア、(I)サイバーとフィジカルの統合(cyber physical interface)
むしろ、これから注目されるフロンティアは、サイバーの世界の深掘りではなく、現実社会における課題解決に向けて、ハイテクをどう活かしていくか、であろう。
いま進行するIoTは、モノがネットワークでつながるということであり、まさにサイバーと現実との融合そのものである。「SoftBank World2021」でソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が「スマボの時代がやってくる」というテーマの基調講演を行った。AI(人工知能)で自ら学習し、柔軟に、臨機応変に動くロボットのことを「スマボ」、つまりスマートロボットと言っているのだが、このスマボを1億台、日本に導入すれば、労働人口にして10億人相当の国に生まれ変わる。少子超高齢社会で労働人口が減少している日本の社会課題の解決に直結する、と主張する。
そして、このスマボに必要な要素技術は、スマボの目となる各種センサーと、スムーズな動作を可能にするアクチュエーターである。これらの要素技術において日本は世界最強のプレイヤーを擁している。 センサーの覇者ともいうべきキーエンス(日本株式時価総額ランキング3位)、世界一の高性能モーターを製造している日本電産(同10位)、高性能部品の村田製作所(同19位)、半導体製造装置の東京エレクトロン(同6位)、半導体ウエハーの信越化学(同8位)、光学ガラスのニッチトップ企業のHOYA(同17位)などは、サイバーとフィジカルを組み合わせた「サイバー・フィジカル・インターフェース」時代の世界トップクラスのプレイヤーである。
●次のフロンティア、(Ⅱ)コンテンツ
GAFAMが提供する土管が安くなっていくと、それによって運ばれるコンテンツが価値創造の主体になる。ソニーグループ(同2位)はGAFAMと一線を画すコンテンツにフォーカスした世界最大の企業ではないか。「感動を届ける」ことを企業理念としてうたい、映画・映像、音楽、 ゲームなどで世界最強の基盤を整えている。任天堂(同15位)もゲームコンテンツに特化した世界的プレイヤーである。
●世界最強の資本家、孫正義氏
そのほかでは、日本が擁する情報革命時代の世界最強の資本家孫正義氏のソフトバンクグループ(同7位)、アパレルの革命児、柳井氏率いるファーストリテイリング(同16位)、フェイスブックが登場するよりもはるか前から出会いを仲立ちするマッチングビジネスを極め続けてきたリクルートホールディングス(同4位)、環境では「空気で答えを出す会社」を標榜するダイキン工業(同12位)など、NEXT GAFAMの資格を持つビジネスモデルを確立したグローバルプレイヤーが揃っている。
高い成長が期待できる各分野で世界トップシェアを持つ日本企業は、すでに勢ぞろいしているのである。これらが正当に評価され、悲観ムードが一掃されることで、異常に割安の日本の株式市場は大きく変化していくものと期待される。
(2021年1月1日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン297号」を転載)
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