【特集】中国版リーマン・ショックはあるか、「恒大集団」問題に揺れる世界市場 <株探トップ特集>
中国不動産大手である「恒大集団」の過剰債務問題に、市場は警戒感を強めている。過去、秋には株式市場が急落した歴史があることも投資家を神経質にさせている。
―巨大債務の不履行懸念で市場は戦々恐々、中国政府の関与に向けた期待も―
秋の3連休明けとなった21日の東京市場を中国不動産大手、「恒大集団(エバーグランデ)」問題が急襲した。巨額債務を抱え資金繰り不安に揺れる同社の社債償還日が近づくなか、20日は欧米株式市場が急落し、この日の日経平均株価も大幅安となるなど世界市場はリスクオフ姿勢を強めている。市場には、「中国版リーマン・ショック」への警戒感は強い一方で「中国政府は影響を一定の範囲内にとどめ国際問題化にはさせないはず」との観測も根強い。市場を揺さぶる恒大集団問題の行方を探った。
●約30兆円規模の巨額負債を市場は懸念
21日の日経平均株価は、先週末17日に比べ660円安の2万9839円と急落し、9日ぶりに3万円台を割り込んだ。中国「恒大集団」に対する懸念で、前日のNYダウが614ドル安と大幅安となったことを受けたもので、3連休明けの東京市場は急落し取引を終えた。この急落のキッカケとなった中国の恒大集団は不動産開発大手で中国最大級の民間企業と言われる。不動産事業で急成長を遂げてきたが、近年は多角化を推進。その負債総額は約1兆9700億元(約33兆円)ともみられている。
中国は、「共同富裕(ともに豊かになる)」の理念のもと不動産市場の価格上昇抑制策などを推進。この政策の影響もあり中国の不動産市場には変調が起こっているとみられている。そんななか、膨大な負債を抱える恒大集団には今月下旬から社債の利払い日が集中し、債務不履行(デフォルト)リスクが高まっている。香港市場に上場する同社の株価は年初から8割強下落。同社株の下落と併せ、香港の不動産株などに売りが膨らんでいる。2008年に起こった米国リーマン・ショックが9月に発生したことの連想もあり、市場には「中国版リーマン・ショックが発生するのではないか」との警戒感が急速に強まっている。
●1社のみの問題かが焦点、中国景気への影響も懸念視
「不動産関連の問題企業が恒大集団だけなのか、それとも似たような状態が他にもあるかが焦点だろう」と上田ハーローの山内俊哉執行役員は指摘する。当面は、同社が社債の償還に応じられるかが注目されるが、巨額債務を抱えていても、1社にとどまれば世界の金融市場は対処が可能だ、とみられている。また、もし恒大集団が債務不履行に陥っても、融資した銀行団などが中国系にとどまれば、中国国内での問題に収めることもできる。しかし、複数の潜在的な問題企業がある場合は問題が複雑化する。また、「恒大集団の問題が中国景気へと悪影響を与えれば、結局、世界景気の悪化要因として跳ね返ってくる」と山内氏は懸念する。
●アリババ叩きなどと同様の構図、中国政府のメッセージを注視
市場には、不動産バブルの崩壊に対する警戒感もあり「中国経済は大きなターニングポイントを迎えた」との見方もある。しかし、フィリップ証券の笹木和弘リサーチ部長は、「基本的には市場の状況は、中国政府がアリババ<BABA>やディディ・グローバルADR<DIDI>、あるいは塾やゲーム産業を叩いたのと同じ構図。不動産価格の抑制策を進めるなか、“目の上のたんこぶ”的な存在だった恒大集団を一罰百戒的な形で叩いているのだろう」とみる。
このため、恒大集団の社債にはデフォルトリスクは残るが、大きな広がりはない方向に進むことも期待されている。「近く中国政府は、恒大集団の問題を他社には波及させない姿勢を示すのではないか」と笹木氏は予想する。特に同社の社債の利払い日は23日に最初のヤマ場を迎えるとみられており、これに向け、中国政府がしっかりとしたメッセージを出せば、市場は落ち着きを取り戻すとの観測は根強い。
●外国ファンドへの損失波及を警戒、日本株は押し目買いの声も
ただ、恒大集団の社債がデフォルトとなった場合、ファンドを含む投資家に損失が発生する懸念はある。今春に巨額損失が表面化したアルケゴス・キャピタルのような例は出てくるかもしれない。中国政府によるコントロールされたなかでの企業の経営破綻なら、市場に対する影響は限定的で、リーマン・ショック再来の懸念も後退するだろう。ただ、「米国のサブプライムローン問題は、まず欧州のBNPパリバでの不良債権問題として発覚し、それから1年後にリーマン・ショックとして表面化した。同じような展開はないかが心配だ」と前出の山内氏はみている。
そんななか、足もとで米国市場は軟調な値動きにあるが、「いま最も相場の環境が良いのは日本。恒大集団に対する懸念で株価が下落すれば恰好の拾い場となるだろう」と笹木氏は予想している。
株探ニュース