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【特集】流動性相場はコモディティ市場も泡立てるか?! <GW特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●ワクチン接種によって米国の景気見通しが急改善

 主要国の景気回復期待が高まっている。新型コロナウイルスのワクチン接種で先行する国ほど経済活動の正常化ペースが早く、有効な国産ワクチンを確保した国の見通しが最も良好であることに異論はないと思われる。再流行を回避している中国を除くと、ワクチン大国となった米国の見通しは急速に改善している。インフルエンザのように、ワクチンを毎年打つ必要があるとしても、供給が十分に確保されている米国の景気は安定するのではないか。

 米供給管理協会(ISM)やIHSマークイットが発表する米国の企業景況感指数は上昇を続けており、パンデミックによって深刻な経済的被害を受けたサービス業の改善も明らかである。パンデミック前にかけて長らく停滞していた耐久財受注額はコロナショックによる落ち込みを経て急拡大しており、危機を経験したことが企業を新たな方向に刺激した印象がある。mRNAワクチンが世界で初めて実用化されたことも含め、パンデミックは米国にとって悪い面ばかりではなかったのではないか。ただもちろん、コロナによる米国の累計死者数が60万人近くに達していることは忘れてはならない。

 高止まりしていた米新規失業保険申請件数は4月に入ってから改善が鮮明になっており、雇用環境の改善も明らかである。外食やエンターテインメントなどサービス業の雇用が回復せず、年初にかけては雇用指標の改善の遅れが危惧されていたが、ワクチン接種の前進によって見通しは一変した。雇用回復の本格化によって、ミシガン大学やカンファレンスボードの発表する米消費者マインドは低迷を経てようやく上向いた。

●今冬を無事に通過するまで金融緩和は続く

 米経済の回復ペースは年後半に向けて加速していくだろう。失われた雇用を取り戻し、消費者がコロナのうっぷんを晴らすのはこれからであり、景気回復とともにインフレ懸念の高まりによる金融引き締めを警戒する必要があるものの、米連邦準備制度理事会(FRB)には超緩和的な金融政策を維持する余裕があるのではないか。米金融当局者はインフレ率の加速に対して寛容な態度を示していることから、PCEコアデフレータの伸びがコロナ前のように2%水準に戻ったとしても、引き締めを急がないだろう。少なくとも年内の景気見通しが金融政策の思わぬ変更によって混乱することはなさそうだ。

 また、米ファイザーなどが開発した新型コロナワクチンの真価が最も試されるのは今年の北半球の冬であり、今冬を無事にやり過ごせるかどうかが、世界経済が乗り越えなければならない試練であるといえる。この関門を突破する前にFRBなど主要国の中銀が引き締めに向けた態度をはっきりと示すとは思えない。経済が明らかに加熱し、物価が上振れするとしても、再流行リスクに対して慎重に構えるならば、来年の春まで金融引き締めは難しい。FRBや欧州中央銀行(ECB)が資産購入ペースを減速するのは来年以降だろう。

 米国に続き、英国やユーロ圏の景気も回復していく見通しである。ブルームバーグのワクチン・トラッカーによると、人口の75%がワクチン接種を完了するまで、米国や英国はあと3ヵ月、ドイツ、イタリアは6ヵ月、フランス、スペインは7ヵ月である。接種ペースが早まれば、経済活動の正常化が前倒しで行われ、景気を押し上げるだろう。なお、日本ではようやくワクチン接種ペースが加速しているが、同じ条件を達成するのに3年以上必要である。

●コモディティ市場への資金流入も再開

 主要国の景気回復見通しを背景に、 原油や工業用の金属の需要回復期待も高まっている。一方で、中国製のワクチンに頼るブラジルやトルコ、インドネシア、チリでは接種率が拡大しても感染を抑制できておらず、世界経済全体の正常化へ障害となるだろう。特にチリでは一回目のワクチン接種率が40%超と米国並みで、2回目の接種率は32.3%とイスラエルに次ぐ高水準だが、感染者数の推移から効果はあまり認識できない。国産ワクチンを利用しているインドでは感染者数が爆発的に拡大しており、ワクチン接種をめぐり、主要国と新興国で明暗がはっきりと分かれている。心許ないワクチンしか利用できない国の景気見通しがコロナの流行に左右され続けるなら、世界経済に安定感が戻るまで時間がかかりそうだ。

 ただ、コモディティ市場では新興国に着目した悲観的な雰囲気は強まらないだろう。ワクチン先進国の前向きな動きを優先的に織り込んでいくのではないか。穀物市場はすでに急伸しているほか、非鉄市場では銅やアルミニウムが上値を伸ばしており、コモディティ市場への資金流入が再開している印象である。自動車の触媒向けの需要回復が期待されるなかで、パラジウムは過去最高値を更新しており、プラチナの上振れも近そうだ。全体として新たな強気の流れが訪れており、上げ一服後のレンジ相場が続く原油相場もいずれ高みを目指すのではないか。景気が多少過熱しても各国中銀は刺激的な金融政策を続けざるを得ず、過剰流動性はコモディティ市場を押し上げるだろう。

●金相場は冴えない展開か

 一方、 金相場は冴えない値動きが続く可能性がある。安全資産の需要が高まっていくような見通しにはなく、インフレヘッジとしての買いは強まらないだろう。世界経済がパンデミック前の状態に戻るとしても、コロナが流行する前もインフレ率は高くなく、どちらかといえば低インフレが懸念されていた。危機を経て金の魅力が高まるほど物価上昇率が加速していくとは考えられない。ただ、流動性相場のなかで行き場のない資金が金相場に流れ込む可能性はある。

 年後半にかけて主要国と新興国でワクチンを巡る明暗がよりはっきりとしそうだ。コモディティ市場でも工業用の需要回復期待が強いものとそうでないものとで値動きが分かれそうだが、少なくとも悲観的な見通しに身を寄せる場面ではない。主要国の中銀が早い段階で余計なことさえしなければ、資産バブルはさらに泡立つだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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