【特集】ストラテジスト馬渕治好氏に聞く年後半相場 <GW特集>
馬渕治好氏(ブーケ・ド・フルーレット 代表)
―日米株高シナリオに変化あり? 2021年後半の日経平均はこう動く―
米国株を中心にアフターコロナを見据えた景気回復への期待が株式市場を支えている。強気相場の拠りどころとなっているのは、各国政府の積極的な財政政策と強力な金融緩和環境の継続である。ただ、日本国内では固有の株高材料に乏しいほか、新型コロナウイルスの感染拡大に対する警戒感もくすぶる。年後半に向け、日経平均株価はどういう軌道を描くのであろうか。今回は相場観スペシャル版として、著名ストラテジストで経済や株式市場の先読みに定評のある、ブーケ・ド・フルーレット代表・馬渕治好氏に中長期展望を聞いた。
●馬渕治好氏(ブーケ・ド・フルーレット 代表)
――日経平均は3万円台になかなか復帰できない状況が続いていますが
ゴールデンウイーク明けから年央までに、日本の全体株価は一段の調整局面を迎える公算が大きい。2月半ばまでの日経平均は買われ過ぎていた。短期的にはその反動、行き過ぎた分の是正がこれから表面化してくるだろう。ただし、年央から年末にかけてはコロナ禍を脱却した主要国の景気や企業業績の回復をバネに、株価は再上昇局面に向かう可能性が高いとみている。大局的にみた実体経済と株価の方向性は、年末にかけては上向きであると考えている。
物色対象も今年2月までは歪みが生じていたといえる。世界的にグロース株偏重に買われ過ぎたため、その後はその修正がグロース売り・バリュー買いの形でいったん顕在化した。並行して米国では、NYダウなどに比べ、一時もてはやされたナスダック総合指数の劣後が生じた。日本では、NT倍率が2月半ばまで上振れを示したが、その巻き戻しがその後に生じた。これらの動きは、歪みを矯正する「正常化」のプロセスだったと捉えられる。こうした「正常化」のプロセスは、もうしばらく継続することが見込まれ、それが全体相場にも上値抑制圧力として働きそうだ。ここからの日経平均の下値リスクを考えた場合、2万7000円前後までの下落余地があると考えられる。
――米長期金利の動向が株式市場にも影響を及ぼしています
マーケットの関心は米国の長期金利の動向に向きやすい状況にあった。ただしパウエルFRB議長が市場の金利先高観を粘り強く牽制したため、注目度の高い米10年債利回りは6月までの予想レンジとして1.4~1.8%と落ち着いた推移を想定している。また、年末までのレンジでは1.5~2.0%と穏やかな上昇をみている。
一方、NYダウについては6月までの予想レンジとして3万1000~3万4500ドル、年末までのレンジは3万2000~3万5000ドルである。いずれも当初の見込みよりも上方修正したが、この背景には米国の企業・政府・中央銀行(連銀)の大胆な動きがある。
――大胆な動きというのは具体的にどういうものでしょうか
米国では外部環境にかかわらず開拓者魂を抱いて積極的な経営を行う企業が多く、コロナ禍にあっても経済における新陳代謝が進んだ。そして企業収益の急回復も確認できる状況にある。更に、バイデン政権では1兆9000億ドル規模の経済対策を既に始動させ、その後にも当初打ち出した2兆ドルの長期経済対策を4兆ドルに組み替えて4月28日に施政方針演説を行うなど、巨額の財政出動に躊躇なく舵を切っている。そして、連銀も現状の金融緩和を粘り強く長期間続けることを標榜、米国経済の「日本化」(デフレ化)を何があっても阻止する姿勢を前面に押し出している。このような米国企業・政府・中央銀行の大胆な動きは想定以上である。
――日本株市場は米国株市場に追随する局面が期待できるでしょうか
米国の状況を踏まえた東京市場の見通しについては、日経平均のレンジで6月末までの予想は2万7000円から3万円。7月から12月までのレンジでは2万8000円から3万1000円とみている。米国と比べて株価が大きく劣後しているようだが、これは日本株が、強い米国株に支えられているに過ぎないという構図が影響している。
実際に国内企業の収益見通しは、上方修正されてきてはいるが、2018年の過去ピーク水準はおろか、コロナ禍直前の水準すら回復できていないのが現実である。投資家の間でも、内需については新型コロナウイルス感染症の流行再燃、外需については日中経済関係の悪化に対する懸念が強い。このため、このところ相対的に米国株より日本株が劣っているのは自然であり、残念ながらこの彼我の差はまだしばらくは埋められないと考えている。
(聞き手・中村潤一)
<プロフィール>(まぶち・はるよし)
1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米MIT修士課程修了。米国CFA(証券アナリスト)。マスコミ出演は多数。最新の書籍は「コロナ後を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法」(金融財政事情研究会)。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。
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