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【市況】S&P500 月例レポート ― 再来した“根拠なき熱狂”と相場を決定づける2つの要因 (2) ―


●トランプ大統領と政府高官

 ○2020会計年度(2019年10月~2020年9月)の7月までの10カ月間の財政赤字は過去最高の2兆8000億ドルとなり、歳出が前年同期の3兆7300億ドルと比べて5兆6300億ドルに増加したことが影響しました。

 ○米中貿易交渉をめぐる2国間協議が開催されました。2020年1月15日に署名された貿易合意では、それぞれの政策内容と履行状況を確認するために6カ月ごとの協議実施が決められていましたが、今回の協議では、両国とも問題を先送りしたい意向が見受けられ、実質的というよりも形式的なものにとどまったとみられます。

●新型コロナウイルス関連

 ○感染状況等:

  ⇒週の新規失業保険申請件数は96万3000件となり、20週間ぶりに100万人を下回りました(3月は合計で887万人に達しました)。感染拡大が始まる前は平均で20万人台前半でした。失業保険の継続申請件数は1548万6000人となりました。感染拡大前は170万人台で推移していましたが、5月には一時2491万人に達しました。

  ⇒米国では新型コロナウイルスの累計感染者数が600万人を超え(7月は450万人)、世界の感染者数は2500万人(同1730万人)となりました。米国の死者数は18万2000人を上回り(同15万2000人)、世界全体では84万3000人となりました(同67万4000人)。

  ⇒フロリダ州が新たな感染の震源地となり、1日の感染者数が1万人を超えた一方、かつて最悪の感染状況にあったニューヨーク州では状況の改善が続いています。

  ⇒カリフォルニア州では感染者に占める17歳未満の割合が5月は2.3%でしたが、6月は6.8%、7月は8.4%に上昇したと報告されています(米国疾病対策センターによると、7月のカリフォルニア州の同数値は6.4%)。

  ⇒Walmart(WMT)、Kroger(KR)、McDonald’s(MCD)、Home Depot(HD)、Lowe’s(LOW)など、来店客にマスク着用を義務付ける国内小売企業は、列挙しきれないほどに増加し続けています。

 ○新型コロナウイルス支援策第4段階をめぐっては(「パンがないならケーキを食べればよい」的議論に見えなくもありません)、交渉の決着がつかないまま政治家は党大会に出かけ、夏季休暇明けの議会で引き続き審議されることになっています(上院は9月8日、下院は9月14日に議会が再開される予定です)。具体的な支援がないにもかかわらず、失業保険申請件数は減少し、雇用統計や経済指標は改善しています(底から見たら改善していますが、好調な時から比べると依然として悲惨な状況です)。今後は大統領選挙が政治の話題を独占し(通常であれば政策の転換はないはずです)、9月は年度予算も話題に上るでしょう(10月1日から新会計年度が始まります)。

 ○米国では経済活動の再開をめぐり意見の対立が続き、直近の争点は学校の再開に関するものでした。

  ⇒新学期のタイミングで学校を再開するかどうかが問題となっており、大都市ではオンライン授業に限定することを決めた所が増えています。国内で学校の数が最も多いニューヨーク市は、対面授業とオンライン授業を併用するとしています(9月10日に授業再開の予定)。既に授業を再開している一部の学校でも(ほとんどは9月に再開)、順調ではないようです。ほとんどの大学はオンライン授業に切り替えていますが、多くの大学が新入生のために学生寮を開ける予定です。新学期商戦では学校用品、衣料品、生活用品などの市場に活気はなく、また、大きな収益源となるはずの大学スポーツの試合が行われないため、学校や地元の小売企業にとって重要な売り上げが断たれています。とはいえ、7月の小売売上高は感染拡大前の水準を上回りました。

 ○新型コロナウイルスの治療法と夢の万能薬

  ⇒ロシアは「スプートニク5号」を打ち上げました。スプートニク1号は1957年10月に打ち上げられた世界初の人工衛星で、3週間にわたって軌道上にとどまりました。プーチン大統領の説明によれば、今回のスプートニクは新型コロナウイルスワクチンです。大々的に報道されましたが情報は限定的で(ほとんどありません)、ワクチンはまだ初期段階にあり、人に対する大規模な第三相臨床試験は終わっていないとみられます。ロシアは大規模試験を間もなく開始する予定であると表明していますが(ここでも見出しのみで詳細な情報はありません)、大半の医療関係機関は懐疑的に見ています。

  ⇒米食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルスの治療に回復期血漿を使用する緊急使用許可(EUA)を付与しました。

  ⇒ヘルスケア大手のAbbott Laboratories(ABT)はウイルスの抗原を調べる迅速簡易検査キット(機器は不要)が承認され(販売価格は5ドルの予定)、2020年10月から月間5000万回分を生産する計画です。

●各国中央銀行の動き

 ○7月28-29日開催のFOMC議事録では、金利を低水準に維持しながら経済成長を加速させるにはどうしたらよいかという点に議論が集中し、企業の成長速度が予想を下回っていること、2020年下半期の見通し、6月の家計支出の増加などが話題に上りました。

 ○FRBが毎年夏にジャクソンホールで開く年次会議はオンラインで開催され、パウエル議長は、一定期間の間、平均で2%のインフレ率を目指す新たな戦略と広義の失業データの使用が全会一致で承認されたことを明らかにしました。市場は、FRBが低金利を予想以上に長期にわたって維持する意向であると受け止めました。

●企業業績

 ○決算報告の準備に手間取っている企業と仕上げ作業(四半期報告書のチェック)を除き、第2四半期の決算発表がほぼ一巡しました。第2四半期の利益予想は既に2019年末時点から(2020年第2四半期末までの間に)47.3%引き下げられていたため、全体の82.2%に上る企業の利益が予想を上回りました。「期待していなかった」第2四半期の業績は「失望感を伴わない」結果となりました。現時点での第2四半期の業績を見ると、494銘柄が決算発表を終え、82.2%に相当する406銘柄で利益が(下方修正済みの)予想を上回りました。売上高に関しては、493銘柄中306銘柄(62.1%)が(下方修正済みの)予想を上回りました。

  ⇒今後に目を向けると、第3四半期の利益予想は引き続き上方修正されて(6月末時点から3.3%)、前期比では18.7%の増益、前年同期比では19.8%の減益となっています。

  ⇒第4四半期の利益予想は6月末からほぼ横ばい(0.8%減)で、前期比11.2%の増益、前年同期比では9.5%の減益が予想されています。

  ⇒その結果、2020年の予想EPSは27.8%の減益となり、それに基づく目下の予想PERは30.8倍となっています。

  ⇒2021年については、企業利益は大幅に増加して過去最高を更新すると予想され、2020年から44.5%の増益が見込まれています。それでも2021年の予想PERは21.3倍と引き続き高い水準となっています。

  ⇒株式数による影響は第2四半期も続き、第1四半期までに行われた自社株買いによりEPSは前年同期比で押し上げられました。2020年6月末時点で、18.1%の企業が2019年6月末と比較して4%以上株式数が減少しました(2019年6月末時点では24.2%)。企業が自社株買いを縮小しているため、今後は前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業数を見ると明らかです。

※「再来した“根拠なき熱狂”と相場を決定づける2つの要因 (3)」へ続く

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