【特集】新「量子コンピューター関連」特選株、“時空超え大相場”に夢託す6銘柄 <株探トップ特集>
量子コンピューター関連が株式市場で強力なテーマ買い対象となる可能性が高まっている。IBMが日本で同分野の研究開発を加速、これとリンクする形で産官学が力を結集する。
―次世代コンピューティングの切り札、「量子革命」は日本が本領を発揮する舞台に―
●DXが主導する「森より木を見る相場」
東京株式市場は不安定な米国株市場の動きに左右され、目先日経平均は上値の重い展開を強いられている。世界的な金融緩和環境が担保されているとはいえ、それ以外にマーケットが期待するような買い手掛かり材料は少ない。欧米などで新型コロナウイルスへの警戒感が再燃するなか、下期相場入りとなる10月以降の投資環境に若干の不安は拭えない。
しかし、今は「森よりも木を見る相場」の典型である。全体指数にとらわれず、個別株ベースでみればダイナミズムに溢れる強い株がひしめき合っている。とりわけ、菅首相の打ち出したデジタル行政の加速を錦の御旗にデジタル関連株が花盛りである。
人工知能(AI)やIoTをはじめ、次世代テクノロジーが織りなす社会は株式市場でも強く意識されている。投資テーマとしてはデジタルシフトの動き、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)に関連する銘柄が物色人気の中心軸を担っている。ただし、近未来のIT全盛時代を先導するキーテクノロジーは、デジタルに特化した領域から更に一歩先のステージを見据えた段階に差し掛かっている。
●「量子」は夢ではなく現実の覇権争いの舞台に
その最たる分野が次世代コンピューティングの切り札「量子コンピューター 」だ。これまでコンピューターの動作原理は「0もしくは1」というデジタルの普遍的ともいえるコンセプトが礎となっていた。目を見張る演算能力の進化も基本はこの「01」の積み上げによって構築されたものである。しかし、量子コンピューターは違う。このデジタルの枠から離脱し、量子力学的な性質である“重ね合わせ”や“もつれ”といった極微の世界で起こり得る物理現象によって並列コンピューティングを実現させる。「0であり、かつ1でもある」状態を示す「量子ビット」、これを新たな基準単位として従来の常識が打ち破られ、時代の先端を走るスーパーコンピューターですら千年あるいは1万年という膨大な時を要する計算を、文字通り瞬時に完結してしまう。
昨年の秋、米グーグルがスーパーコンピューターでおよそ1万年かかる計算問題を量子コンピューターによって3分あまりで解答を導く実証実験に成功、「量子超越」を実現したと発表したことはまだ我々の記憶に新しい。これは当然ながら夢物語ではなく現実の話だ。今、世界では量子コンピューターをはじめとする量子技術を深耕する動きが活発化しており、米国と中国の激しい鍔迫り合い(つばぜりあい)を筆頭にグローバル覇権争いが顕在化している。ロシアのプーチン大統領の発言で話題となった「AIを制する者が世界を牛耳る」という言葉は、2045年といわれるシンギュラリティに向け、世界がどこを目指し何を求めて覇を競うかということを如実に示した。そしてAIがソフト分野における革命の主役とするならば、ハード面でその能力を最大限に発現させるのは異次元の演算能力を有する量子コンピューターという構図が描き出される。
●量子イノベーションでは日本が勝つ
日本では行政のデジタル化に菅首相が強く言及したことによって、株式市場でもDXが強力な投資テーマとして輝きを放ったが、元来この流れは世界的に見れば周回遅れといってもよい。しかし、これは国家の中枢が保守的でITに疎く進化をためらったという、いわばソフト面の弊害であった部分もある。名誉挽回に向けて、技術立国日本が本領を発揮するとすれば、現在進行形の「量子革命」は絶好の舞台となる。
既に国内でも取り組みが本格化している。7月末には東京大学を主体とする産官学の「量子イノベーションイニシアティブ協議会」が発足した。これは世界に先駆けて日本が量子コンピューターの社会実装を目指すための第一歩ともいえ、みずほフィナンシャルグループ <8411> の佐藤康博取締役会長を協議会会長にトヨタ自動車 <7203> 、日立製作所 <6501> 、東芝 <6502> [東証2]、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> などそうそうたる10団体(上場企業は8社)が参画している。
量子イノベーションで日本が世界の主導的ポジションを獲得する可能性は決して低くない。この協議会発足に先立ってグーグルの対抗馬でもあるIBMが、日本において量子コンピューターの研究開発を積極推進する構えをみせていたこともポイントで、来年にも最先端の量子計算機を日本に導入して研究を加速させる計画だ。いよいよ産官学を巻き込んで量子革命に向けた壮大なストーリーの幕が上がろうとしている。
●変身前夜、ニューフェース6銘柄を追撃
株式市場でも量子コンピューター関連銘柄は、投資家の熱視線を浴びることが早晩必至とみられる。これまでにもこのテーマでは、いくつかの出世株が輩出された。代表的なのは量子アニーリングでカナダのDウエーブ社と早くから協業体制にあったフィックスターズ <3687> や、世界最高レベルの信号増幅装置メーカーとして量子分野の研究開発と接点を有するエヌエフ回路設計ブロック <6864> [JQ]などが挙げられる。また、AI関連の雄、ブレインパッド <3655> なども同関連株の一角として折に触れ人気を博した経緯がある。
そして今回、これからリリースされる量子コンピューター相場の第2幕で、スポットライトを浴びる可能性が高い新主役候補6銘柄をセレクトした。
◎テラスカイ <3915>
米セールスフォース・ドットコムのシステムで構築されたクラウドを中軸に導入支援ビジネスを展開、アマゾンのAWS案件などで実力を発揮している。企業の旺盛なDX投資需要を取り込むことで成長力を確保、テレワーク関連の一角としても人気素地を内包する。しかし、何といっても同社は量子コンピューター分野への踏み込みの強さがポイントとなる。量子コンピューター関連ビジネスを手掛ける子会社キューミックスを設立し、IBMと協業体制で同分野の研究開発も進めている。業績面でも目を見張る。20年3-5月期営業利益は前年同期比倍増となり、21年2月期通期計画の5億2000万円(前期比28%減)についても大幅増額が見込まれ、一転2ケタ増益への修正が濃厚。
◎スパークス・グループ <8739>
独立系資産運用会社で中小型株投資に定評があるほか、ヘッジファンドも展開する。香港などアジアにも進出し業容を広げている。最近は量子コンピューター関連としても頭角を現し始めた。量子アニーリングの権威である東北大学の大関真之准教授らと共同で量子アニーリングマシンを活用した研究開発ソリューションを提供するシグマアイを設立、コンサルやライセンシングのほか量子技術分野を扱える人材育成などにも展開し今後に期待が大きい。シグマアイはソニー <6758> と通信技術分野での量子アニーリングマシン適用可能性に関する共同研究を進めているが、この成果が国際会議に採択されるなど注目場面に入っている。このほか、トヨタから出資を受けた宇宙フロンティアファンドの運用などにも市場の関心が高い。次世代技術分野に絡む銘柄で200円台の株価は異色といえる。
◎HPCシステムズ <6597> [東証M]
同社は企業や研究機関向けに科学技術用の高性能計算システムを開発しており、AI分野も深耕している。北海道大学大学院の理学研究院と共同研究契約を結び、化学反応経路自動探索プログラムなどをスーパーコンピューター「富岳」に採用されているプロセッサ「A64FX」へ実装し研究を進めることが話題となったほか、直近では米エヌビディアのディープラーニング開発用最新ワークステーションの発売も発表している。また、量子コンピューターのアプリケーションを開発する専業ベンチャーと業務提携し、量子化学計算領域の技術開発に本腰を入れている。技術面だけでなく業績面も成長軌道に乗っており、20年6月期は営業29%増益を達成、21年6月期も6%増益と利益拡大が続く見通し。
◎シグマ光機 <7713> [JQ]
半導体や研究開発分野向けなどを中心にレーザー関連部品を手掛ける。ここ業績は減益局面にあったが、今後は世界的なデータセンター増設を背景とした半導体市況回復などを受け、高精度光学ユニットや光学素子などの収益寄与が見込まれる。量子技術はレーザー分野とも密接に関係するが、同社は量子コンピューター向けビームスリッターなどで既に実績を持つだけに要注目となる。また、航空宇宙分野でも活躍、8月には同社の光学部品を搭載したNASA火星探査機打ち上げ成功が話題となった。株価は1000~1200円の底値圏もみ合いを続けていたが、早晩上放れが期待できる。潜在的な成長力は不変で、高配当利回りでなおかつPBR0.6倍はバリュー株としても水準訂正余地が大きい。
◎長大 <9624>
建設コンサルタント会社で道路や橋梁など公共投資向けのウエートが高く、台風被害などが深刻視されるなか国土強靱化関連の一角として活躍期待が大きい。電力マネジメントでは量子コンピューターを活用した最適配電網作成にかかわる特許を取得している。これは組み合わせパターンが非常に膨大な開閉器のオンオフ制御に関して、量子アニーリングの得意分野である組み合わせ最適化問題として扱えるよう配電網の電力消費量を表すモデル式を構築したもの。同社は新事業・新技術に積極的に取り組む目的で「事業戦略推進センター」を設立しているが、量子コンピューターという最先端テクノロジー分野へのチャレンジで特許を取得したことは今後の株価上昇のエネルギーとなり得る。PER、PBRともに極めて割安な点も注目だ。9月決算企業で権利落ち前後は注意。
◎ユビキタス AIコーポレーション <3858> [JQ]
自社開発品を中心とした組み込みソフト開発を手掛け、ネットワーク対応ソフトで強みを持つ。量子革命による次世代コンピューティングは光だけでなく影の部分ももたらす。中国などによる量子コンピューターを使った暗号破りの研究などが警戒されており、カギ認証技術で先駆する同社は耐量子コンピューター暗号技術の周辺企業として注目度が高いようだ。ブロックチェーンサービスを開発・提供するラブロック(東京都港区)とは資本・業務提携関係にあり、ユビキタスAIが有するIoTサービス開発ソリューションとの融合でセキュリティーの更なる強化に取り組む。株価は25日移動平均線をサポートラインとするジリ高トレンドを形成しているが、持ち前の足の軽さが生かされる場面もありそうだ。
株探ニュース