【市況】武者陵司 「日米メガ景気、株ブームの現実を直視せよ」(後編)
武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)
※武者陵司 「日米メガ景気、株ブームの現実を直視せよ」(前編)から続く
―沖縄県知事選挙の野党勝利は円安株高要因に―
武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)
(3) 空前の高収益、空前の好労働需給、空前の低資金コストの日本
●潜在的労働者のプールは枯渇間近、2019年賃金上昇率はジャンプしそう
米国同様、日本のファンダメンタルズも好調。米国同様、戦後最長の景気拡大、失業率は2.4%と史上最低水準かつ世界最低と、労働需給は超ひっ迫の状態である。賃金も、建設、トラック、パート時給などで顕著な上昇がみられる。経団連による大企業(146社)のボーナスが今年夏は8.6%(製造業117社では6.09%)とバブル崩壊以降、最大の伸びとなった。
●不動産、食品、エネルギーと値上げ要因目白押し、円安がこれに加われば
ただ、依然として本格的賃金上昇に結びついていないのは、労働参加率の上昇により、就業数が増加しているためである。また、高給な高齢者が退職することも引き続き平均時給を引き下げている。2018年8月の正規雇用者数は前年比95万人と大きく改善した。しかし、年初来累計で就業者が109万人も増加し、労働需給ひっ迫が回避されている。まだ潜在的な労働者のプールが枯渇しておらず、それが賃金圧力を抑制している、と考えられるのである。
しかし、潜在的労働者のプールも、枯渇するのは時間の問題、その暁には、顕著な賃金上昇が顕在化することは確実であり、2019年に入りそれははっきり表れるだろう。インフレ圧力としては、すでに不動産価格の上昇、家賃の上昇が顕著になっている。また、連続的大型台風の襲来など天候不順による農産物価格の上昇、原油価格上昇が川下に影響を及ぼすことも想定される。加えて 円安進行が輸入価格を押し上げることも考えられる。2019年に入り物価は顕著な上昇を見せるのではないか。
●設備投資、特に好調
項目別では設備投資の伸びが特に顕著である。2018年4~6月実質GDPは前期比年率3.0%と急伸したが、設備投資の伸びが12.8%と突出してけん引している。人手不足とIT化による設備投資ブームが起こっている。機械受注は米中貿易戦争の影響から外需に頭打ち感がみられるが、好調の内需で十分カバーできるだろう。
●アベノミクスは見事に成功
中でも圧巻は、日本企業のビジネスモデルの確立に裏付けられた企業収益力の顕著な改善である。企業所得の大幅増加が税収を大きく押し上げていることも注目しておくべきである。2020年の東京オリンピック、2019年の新天皇即位などのイベント効果も期待できる。2019年秋の消費税増税は懸念要因であるが、加速力を強める景況改善により、2014年の時のような景気失速は回避されるのではないか。
日本経済は力強い長期拡大途上にある。デフレ脱却、アベノミクスの成功が見えてきたといっていいだろう。
(4) 沖縄県知事選挙での野党勝利の地政学的意味
●辺野古移設反対派勝利は円安株高要因に
沖縄県知事選挙における野党候補の勝利は、鳩山政権の悪夢を米国に思い起こさせたことであろう。日本は容易に対中融和派の野党が政権を獲得する可能性があること、米国の唯一最大のアジア友邦国である日本が寝返ったら米国の世界戦略は瓦解し、そうなったらアジアは中国の勢力圏に包含されること、対米同盟重視を掲げる与党政策を継続させるためには日本国民に資本主義自由経済と米国との同盟関係の恩恵を思い知らせる必要があること、という連想は容易に働くだろう。
米国指導者が無知でなければ、対日摩擦、円高圧力の強化などにより、1980年代から1990年代にかけて日本を経済国難に陥れたトラウマを再燃させてはならない、ということは、米国の対日政策の底流に流れているはずである。それを沖縄県知事選挙結果は思い知らせたのではないか。友邦と思っている日本も、経済動向と米国の対日態度次第では容易に、米国から離れ得るのである。米中対決が明白になった今、日米同盟を真に必要としているのは日本より、米国の方である。
●米国は、より日本を大事にせざるを得ない
NATO(北大西洋条約機構)における防衛費負担を問題にしているトランプ政権は、GDP比軍事費1%という主要国中最低の軽武装国家の日本に対しても批判を持っていると懸念された。しかし、対中最前線基地である沖縄を自由に使えるという恩典は、それをはるかに凌ぐことは明白である。中国が日本に秋波を送っているが、米国はそれを上回る友好の意を日本に示さねばならないだろう。その含意は円安と通商協議における対日協調である。安倍氏とトランプ氏の蜜月関係はさらに強まらざるを得ないだろう。
(2018年10月2日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン209号」を転載)
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