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【市況】武者陵司 「日米メガ景気、株ブームの現実を直視せよ」(前編)

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

―沖縄県知事選挙の野党勝利は円安株高要因に―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1) 突出した日米株式好成績、経済実態の好調をもはや無視できなくなった

●史上最高値街道を驀進の米国株式、27年ぶりの高値日本株式

 日米株式が長期上昇軌道を驀進中である。 米国株式はトランプ大統領が当選して以降一年余りで40%上昇し、2月のVIXクラッシュで12%下落したものの、8月には下落を取り戻し、史上最高記録を更新するなど、世界最高の成績である。日本株式も、米国株式に遅れたものの9月半ばに日経平均株価が節目の2万3000円をクリアして以降急伸し、9月末には2万4286円とザラ場では27年ぶりの高値を更新した。日米株式の好調さは、下落基調の中国、新興国株式、イタリアの政治不安にかく乱される欧州株式などとのコントラストを鮮明にしている。

●需給と心理の悪化が好ファンダメンタルズを拒否し続けてきた

 要因は一にも二にも好調なファンダメンタルズにある。後述するように日米経済のファンダメンタルズは極めて良好であるのに、市場は長らくそれを無視してきた。需給面・市場心理面でのネガティブ要因が誇張され、投資家のリスクテイクが長らく阻害されてきたといえる。日本株式は東証での空売り比率が8月空前の水準まで高まった。外国人の短期投機家の日本株売りは2月以降執拗であった。利上げによる米国経済失速、米中貿易戦争、新興国危機の深化などにより、世界経済が後退場面に陥るとの想定があったと思われる。

 米国においてもここ数年投信への資金流入はもっぱら債券投信であり、高値警戒感からか、株式投信への資金流入は、ほとんどなかった。しかし、2月の突然のVIXショックによっても、景気実態は全く影響されず、悲観的想定はことごとく覆された。

●悲観論の退場

 つまり、9月末の米国ダウ新高値、日経平均の27年ぶり高値更新は、劣悪な市場心理と需給の下で達成されたものである。好ファンダメンタルズに市場がとうとう抗しきれなくなったもの、といえる。
 
●米国株式は新たな繁栄の時代を織り込み始めた

 ファンダメンタルズの好調さは後述するように、史上空前、という要素があり、精査が必要である。それに先行し、株価はいち早く力強い長期トレンドを指し示しているとみられる。米国株式は新たな長期上昇の波に入っている可能性が濃厚である。筆者が30年間追い続けている実質ダウ指数では、2009年のリーマンショック以降、新たな上昇波動に入りが明白になってきた。これまで実質ダウ指数は、米国の経済レジームの盛衰を見事に表してきた。

 (1) 1929年までの上昇は金本位制の下での古典的自由主義体制の繁栄、(2) 1930年から1940年代までの下落は、世界大恐慌と第二次世界大戦による古典的自由主義の挫折(否定)、(3) 1950~1960年代は、管理通貨制度、ブレトンウッズ体制の下での、ケインズ体制の繁栄、(4) 1970年代はインフレ、双子の赤字と失業率の急伸というトリレンマの下での、ケインズ体制の挫折(否定)、(5) 1980~1990年代はレーガンの登場によって始まった規制緩和と新自由主義経済の繁栄、(6) 2000~2009年はITバブル崩壊、リーマンショックによる新自由主義経済の挫折(否定)、と推移してきた。

 この新自由主義体制挫折後の混迷が長く続くかと懸念されたが、(7) 2010年以降、新たな上昇の波が明確に始まったのである。

 これをどのような経済体制と性格づけるべきかは、はっきりしないが、歴史的技術革新、新産業革命の下で米国のインターネット・プラットフォーマーが世界を網にかけて稼ぐイノベーション時代であることは確かである。過去長期上昇の波が20年は続いてきたことを考えると、今はまだ上昇の前半といえるかもしれない。

●日本も2012年以降、長期上昇相場が続いている

 日本株式も米国とともに歴史的上昇の波の中にあるといえる。9月末に27年ぶりでバブル崩壊後の高値を更新し、アベノミクス開始以来の5年間で2.5倍(=年率20%)の長期上昇が未だ継続していることが示された。反論することがばかばかしくなるほどの、悲観論蔓延の中でのこの上昇も、日本経済の新レジームの下で繁栄を、株式市場がいよいよ無視できなくなっていることを示唆する。

 日本経済の新レジームとは、武者リサーチは、(1)脱価格競争・技術品質特化、(2)企業内国際分業体制構築、の2要因による価値創造の仕組みと考えている(「ストラテジーブレティン208号」など参照)。年率20%のこの上昇の波を延長すれば2018年末2万7000~2万8000円、2019年末には3万2000~3万3000円、2020年末には3万8000円から4万円と、史上最高値が、視野に入ってくる。

(2) 終わりが見えない、米国の歴史的経済ブーム

●空前の経済ブーム、否定される「New Normal 論」「Secular Stagnation 論」

 アメリカ経済の独り勝ち色がますます強まっている。3~4%の経済成長率が視野に入っているのは先進国の中ではアメリカだけである。失業率は4%を切り、完全雇用をほぼ実現している。低迷していた物価もFRBの目標の2%がほぼ達成された。日本と欧州は、ゼロ金利にもかかわらずインフレ率が高まらず、長期金利の低迷が続き、銀行の利ザヤが極小となり、信用創造が事実上停止する「流動性の罠」に陥ったままである。

 その中でアメリカだけは、長期金利が上昇に転じ、十分な長短利ザヤの下で銀行貸し出しが増加し、金融機関の収益体質は大きく強化されている。リーマンショック以降、低成長時代に入ったとする「ニューノーマル論」(代表的論者、モハメッド・エラリアン)、「長期停滞論」(代表論者ローレンス・サマーズ)、「繁栄終焉論」(代表論者ロバート・ゴードン)などが喧伝されたが、いずれも事実によって否定されている。

●新産業革命がもたらした好都合すぎる真実

 この好況に終わりが見えない。好況なのに物価も金利も抑制されている、だから景気を殺す金融引き締めも、バブルの崩壊も起きようがないのである。2019年6月にアメリカは10年という戦後最長の景気拡大記録を更新することはほぼ確実であろう。

 この好都合すぎる現実の根本原因は2年で2.5倍、5年で10倍、10年で100倍という半導体・通信技術の発展にある。技術進化は空前の生産性上昇を労働生産性と資本生産性の双方にもたらし、企業はそれにより膨大な富を生み出している。企業は儲かり、使い切れない資本が金利を引き下げている。また、生産性の上昇が供給力の天井を押し上げ、物価下落圧力を定着させているのである。

●適切なトランプ氏の経済政策も寄与

 ただ、資本余剰、供給力余剰が放置されれば、深刻なデフレをもたらす、という問題がある。故に余剰資本を有効需要に転換する政策が決定的に重要なのであるが、トランプ政権の積極的財政政策とFRBの市場フレンドリーな金融政策はその要請にぴったり一致している。

 30年ぶりの抜本的税制改革は5年間で1兆740億ドル、10年間で1兆4560億ドルという史上最大の減税規模である。また、その先が法人税減税(35%から21%へ)、投資減税(5年間にわたり設備投資の100%即時償却)など、企業活動支援に集中していることも際立っている。この野放図とも見られる大胆さに対して、財政赤字拡大、格差拡大を招くとの批判も大きいが、当面の経済効果は甚大である。

●未だリセッションの影は地平上には表れていない

 また、金融、エネルギー、環境などの規制緩和を実施し、起業家精神を大きく鼓舞した。オバマ政権は政治と企業との癒着を嫌い、規制を大きく強化し企業家心理を抑圧した。アメリカの企業開業率が劇的に低下し、アニマルスピリットが損なわれたが、トランプ政権下でこれが劇的に改変された。

 企業経営者の景気楽観指数がトランプ大統領当選とともに跳ね上がり、今それが史上最高水準に達していることからも、経済政策の成果がうかがわれる。トランプ政権の積極的リフレ政策は、いずれ需給ギャップを解消させ、やがて物価と金利上昇圧力を高め、景気を転換させるだろうが、その可能性は未だ地平には現れてはいない。

●米中貿易戦争の影響は限定的、米国総需要を大きく損なわない

 米中貿易戦争の影響が懸念されるが、一方的受益者であった中国は全面的譲歩を迫られるだろう。他方、米国経済に対する影響は限定的とみられる。関税引き上げは対中輸入価格の上昇をもたらすが、それは、(1)最終消費価格に転嫁される、(2)高価格となった中国から他国へ輸入先が変わる、(3)中国が輸出船積み価格を引き下げる、(4)米国の総需要が減少する、という4つの可能性を引き起こす。

 懸念されるのは(4)の需要押し下げであるが、現在の好況下では深刻にはなるまい。また物価上昇圧力が抑制されている現在の環境下では、玉突きによる消費者価格上昇の影響は大きくはない。ちなみに、対中輸入額2500億ドル×10%=250億ドルの追加関税額は、米国個人消費14兆ドルの0.18%に過ぎない。最大見積もって関税率を25%と考え625億ドルの関税引き上げがなされ、それがすべて米国消費に転嫁されたとしても、それは個人消費額14兆ドルの0.4%である。

●トランプ氏はほぼ課題を片付けた、中間選挙結果はどんな結果でも大リスクではない

 では、来る中間選挙は米国株式の懸念要因になるかといえば、それも限定的であろう。世論調査では民主党支持52%、共和党支持40%と民主党優勢(WSJ:ウォール・ストリート・ジャーナル9月24日)であるが、それでも上下両院を民主党が制することにはならないであろう。上院の改選議席数は共和党8、民主党26なので、上院の共和党優勢は揺るがない。投票に際して最も重視する項目である経済に関して、69%の有権者が満足していると回答していることは、共和党の優越要因といえる。

 最も高い可能性は上院共和党多数、下院民主党多数と、それぞれ分け合う形であるが、その場合、懸念されるトランプ弾劾は実現しない。トランプ政権の政策成立は困難になるだろうが、すでに大方の政策は実現しており、大勢影響はないだろう。経済と株価に対する大きなマイナス影響はないと思われる。

※<後編>へ続く

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