【特集】10年ぶり安値「プラチナ」に売られ過ぎ観測、上昇トリガーになるものは? <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
―ドル高・米中貿易戦争懸念などで2008年来安値も見え始めた強材料―
プラチナ(白金)の現物相場は7月、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しによるドル高や、貿易戦争に対する懸念を受け、2008年12月以来の安値793.3ドルを付けた。ただ、その後は南アフリカの鉱山会社の生産コストを割り込み、売られ過ぎの見方などを受けて下げ一服となり、値固めに転じた。850ドル付近で戻りは限られたが、南アの鉱山会社インパラ・プラチナム(インプラッツ)の鉱区閉鎖・売却計画で減産の見方などが下支えになっている。今回はプラチナの需給や見通しを確認したい。
●米中の貿易戦争に対する懸念が上値を抑える要因
米国が7月6日に340億ドル相当の中国製品に対する追加関税を発動し、中国は同規模の報復措置を取った。さらに、トランプ米政権は同月11日、2000億ドル相当の中国製品に10%の追加関税を課す方針を示し、8月1日には10%から25%への引き上げも提案した。
対して中国は8月3日、600億ドル相当の米国製品に追加関税を課す報復措置を講じる方針を発表した。当面は米国が7月6日に発動した340億ドルに対する25%の関税に続く、第2弾となる160億ドルに対する報復関税を8月23日から発動するとし、貿易戦争は激化している。
トランプ米大統領は、中国からのほぼ全ての輸入品5000億ドル相当に関税をかけることもできるとの見解を示している。米欧首脳会談で、米国と欧州連合(EU)が貿易摩擦の緩和に努めることで合意し、欧米の貿易戦争は休戦となったが、米中間では終わりが見えず、先行きへの懸念が強い。ただ、ムニューシン米財務長官と中国の劉鶴副首相の両者の代理が通商交渉再開を模索と伝えられており、水面下で交渉再開に向けた動きも出ている。米中の貿易戦争が続くと、プラチナ市場で実需筋が高値での買いを見送り、上値が抑えられるとみられる。
中国の自動車ディーラー団体、中国汽車流通協会(CADA)のデータによると、6月の中国の自動車輸入は前年同月比で87.1%急減し1万5000台となった。上半期は前年同期比22.1%減の45万1971台。中国が今年5月、7月1日から自動車および自動車部品の輸入関税を引き下げると発表し、自動車メーカーが出荷を遅らせたことが要因である。ただ、米中の貿易戦争で7月には輸入米国車の関税が40%に引き上げられており、今後の動向を確認したい。中国汽車工業協会(CAAM)によると、中国は昨年、125万台の自動車を輸入した。なお、上半期の中国の新車販売台数は前年同期比5.6%増の1406万6500台となっている。
●プラチナはファンド筋の売り越しが続く
米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、ニューヨーク・プラチナでファンド筋の売り越しが続いている。7月31日時点のファンド筋の売り越しは8183枚。6月12日時点の3561枚買い越しから売り越しに転じ、7週連続で売り越しとなった。7月17日時点の9644枚売り越しから売り越し幅を縮小したが、売り玉は過去最高を更新し続けている。
南アの鉱山会社インパラ・プラチナム(インプラッツ)は今後2年間で1万3000人の人員削減を発表した。また、閉鎖が計画されている一部の鉱区を買い手があれば売却するとした。プラチナはこれまでの価格下落で南アの鉱山会社の生産コスト834ドルを割り込み、売られ過ぎとの見方が強い。鉱山労働者建設労働組合(AMCU)はリストラ計画に対して交渉が決裂すれば何らかの対抗手段を取るとしており、ストライキが減産につながるようなら強材料視される可能性が出てくる。
当面はFRBの利上げ見通しでドル高に振れやすいが、ドル指数が7月19日に付けた1年ぶりの高値95.65に近づいており、ドルの買い過剰感も出ている。ドル高が一服すると、プラチナは買い戻し主導で上昇しやすくなる。
●コメルツ銀行は年末にかけて上昇を予想
ドイツのメガバンクであるコメルツ銀行は、今月1日に発表したレポートで、プラチナは年末にかけて900ドル前後に上昇するとの見通しを示した。また、900ドル前後で推移している パラジウムも950ドルに上昇すると予想している。プラチナは歴史的にパラジウム価格を上回っていたが、昨年の秋に価格が逆転した。ファンダメンタルズが大幅に変化し、価格に反映された。
主因は自動車触媒部門で、ディーゼル車に使用されるプラチナの需要が減少する一方、ガソリン車に使用されるパラジウムの需要が増加したことにある。独フォルクスワーゲンの排ガス不正をきっかけに欧州でディーゼル車離れが起きた。プラチナは現在、供給過剰となり、パラジウムは大幅な供給不足となっている。
ただ、現在の供給過剰の要因はプラチナ価格に織り込まれており、2019年には供給不足に転じる可能性があるという。欧州の自動車触媒需要の減少は一服しており、欧州以外、特にアジアや北米の商用車向けの需要が増加しつつある。宝飾需要も回復し、今後数年は燃料電池向けの需要が見込まれている。投資需要が堅調に推移すれば来年には供給不足になるとみられ、1000ドル台に上昇する可能性が出てくる。
一方、パラジウムは過去数カ月の調整局面から上昇に転じると予想されたが、年初に付けた史上最高値を試すのは難しいとされた。
(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース