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【特集】米中の貿易戦争が影を落とす「プラチナ」の行方 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
―9年半ぶり安値で下げ止まるか?カギ握るファンド筋の動向―

 プラチナ(白金)のドル建て現物相場は6月半ばにレンジを下放れると、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しによるドル高や、米中の制裁関税発動を7月6日に控えていることが圧迫要因となって急落し、7月に入り、2008年12月以来の安値797.4ドルを付けた。その後はドル高一服などを受けて買い戻され、850ドル前後に戻したが、激しさを増す米中の貿易戦争が上値を抑える要因となっている。今回の安値で底入れするのかどうか、貿易戦争の行方がプラチナの需給に与える影響や内部要因を分析し確認したい。

●貿易戦争は長期化の見通し

 トランプ米大統領は5日、340億ドル相当の中国製品に対する追加関税を6日に発動することを確認した。これまで知的財産権侵害への制裁として、年間輸入額で500億ドル相当の中国製品に25%を課す計画が明らかにされていた。米大統領は「2週間後には160億ドルが追加され、2,000億ドルが保留となっており、その後には3,000億ドルが控えている」と述べた。

 対中関税が5,000億ドル超に拡大すれば、中国の対米輸出のほぼ全額が適用対象になる。中国は保護主義に反対しているが、必要な反撃に動き出さざるを得ないとし、6日に同規模となる40億ドル相当の報復措置を取った。さらに10日、米大統領は2,000億ドル規模の中国製品に対する関税を上乗せし、追加制裁の手続きを始めると発表した。今後、実際に発動するかどうかを確認したい。

●対EUの自動車関税も注視

 貿易戦争が激化すると、企業の設備投資先送りや個人消費の縮小により需要が減少し、他国へも悪影響を及ぼす可能性が出てくる。米連邦公開市場委員会(FOMC)会合(6月12~13日)議事録によると、当局者らは政策金利の漸進的な引き上げへのコミットメントを再確認する一方、貿易摩擦に伴うリスクの高まりや新興市場の混乱が、財政政策による景気への追い風を鈍らせる恐れがあると指摘した。

 また、トランプ米大統領は、欧州連合(EU)内で組み立てられた全ての自動車に対し、20%の関税を課すと警告した。ドイツの経済紙ハンデルスブラットが、EUが米自動車関税を撤廃すれば、米大統領がEUからの自動車輸入に関税を課すとの案を撤回する可能性があると報道し、欧米の自動車関税に対する懸念が後退した。欧米の関税を巡る駆け引きの行方も確認したい。

 米ゼネラル・モーターズ(GM)は、トランプ米政権が導入を検討する自動車輸入関税について、「自社の規模縮小」につながり、世界市場から米企業を隔離する可能性をはらむと指摘した。自動車関税で貿易が縮小すればプラチナの自動車触媒需要が減少することになる。

●プラチナは3週連続でファンド筋が売り越し

 米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、ニューヨーク・プラチナ市場でファンド筋の売り玉が増加し、下げ圧力が強まっている。7月3日時点のファンド筋の売り越しは6,902枚となり、6月12日時点の3,561枚の買い越しから売り越しに転じ、3週連続で売り越しとなった。米中の関税発動や貿易戦争の悪影響が懸念された結果、ファンド筋が売り方に回った。

 ただ、米中の関税発動などのイベントを通過するとドル高は一服しており、ファンド筋が買い戻しを進めるようであれば、下げ止まる可能性も出てくる。他市場の動きでは、7月3~4日の上海プラチナの出来高が増加し、実需筋の安値拾いの買いが入ったことや、7月に入り欧米のプラチナETF(上場投信)に投資資金が流入したことが下支え要因である。ただ、南アのプラチナETFからは投資資金が流出しており、新興国市場の動きも確認したい。

●ロンミン買収でプラチナ需給に変化も

 プラチナの独自材料では、英国の公正取引委員会(CMA)が、南アフリカの鉱山会社シバニェ・スティルウォーターが提案しているプラチナ生産で世界3位のロンミンの買収を承認し、さらなる調査は必要ないとしたことが伝えられた。今後は南ア当局や両社の株主、英国の裁判所の承認が必要となり、買収が承認されれば世界第2位のプラチナ鉱山会社が誕生する。シバニェ・スティルウォーターはロンミン買収後にリストラを進める見通しであり、不採算鉱山が閉鎖されればプラチナの需給が引き締まる要因となる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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