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【特集】米中対立に翻弄される原油、2大産油国それぞれの思惑と苦境<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

―協調崩壊のリスクはらむサウジ増産、イランの生命線握るか中国―

 先月の石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国は日量180万バレル規模の協調減産を維持することを決めた。日量180万バレルを上回る過剰な減産分については解消することで合意に至ったものの、経済が末期的な状況にあるベネズエラの減産や、米国の制裁によって減少する可能性が高いイランの生産量をどのように埋め合わせるのかについては有耶無耶にされた。サウジアラビアやロシアは2018年後半の供給不足を回避しようとしていたが、増産に反対するイランから十分に譲歩を引き出すことができず、OPEC総会は供給ひっ迫懸念を生む結果となった。

●サウジはOPEC合意と米国の間で板挟みも

 今後の原油相場を展望するうえで、サウジアラビアの動向に注目が集まっている。ロイター通信の調査によると、サウジはすでに増産を始めており、6月の生産量は日量1,070万バレルに達したようだ。7月には過去最高水準の日量1,072万バレルを上回る可能性が高い。OPEC総会の合意に基づくとサウジの生産枠は日量1,006万バレルであり、報道のとおりであるならば、イランが指摘するようにサウジは合意に違反しているともいえる。イランやベネズエラなどの減産分をサウジが独占的に埋め合わせてシェアを拡大するのであれば、協調体制のなかで批判を浴びそうだ。

 産油国の実質的なリーダーであるサウジが率先して合意を破棄すると、ロシアを含めた他の産油国も協調体制など気にすることなく増産に動く可能性が高まり、供給量が一気に拡大するリスクがある。このリスクをサウジは百も承知だろうが、トランプ米大統領がサウジに増産を強く要求しており、苦しい立場に追い込まれているといえる。サウジは現実的な落としどころを見つけなければならない。

 ただ、先月のOPEC声明は誰がどれだけ増産するのか明記しておらず、サウジの増産は明確な合意違反であるとは言い切れない。声明の曖昧さはサウジにとって好都合である。サウジは増産の正当性を主張しつつ、供給ひっ迫懸念を抑制するように生産量を拡大させていくのではないか。

●イラン産原油の締め出し、米国の圧力に中国の選択は

 米国がイランからの原油輸入を完全に止めるよう各国に圧力をかけているなかで、イランは供給ひっ迫懸念の震源地となっている。インドはイランからの輸入を限りなくゼロに近づける方向で動き出した。インドに他の輸入国が追随し、イラン産の原油がマーケットから完全に閉め出されるなら、影響は甚大である。イランの生産量は日量400万バレル近く、輸出量は日量約250万バレルに上る。OPEC加盟国とロシアなどの非加盟国が行ってきた日量180万バレルの協調減産の規模を軽く上回る。インドはイランから日量70万バレル程度の原油を輸入しており、中国と並ぶ最大の取引先である。

 税関資料によると、今年1-3月期における中国のイランからの原油輸入量は日量65万5,000バレルだった。イランの取引先である日本や韓国がトランプ米大統領の圧力から免れるとは思えず、イラン経済にとって中国への輸出は生命線となる。米中貿易戦争が本格化しようとするなか、中国が米国の圧力にあっさりと屈してイランからの原油輸入を止めることはなさそうで、輸入している米国産原油をイラン産原油に切り替えるという選択肢もある。

 ただ、中国企業がイランと取引を続けるならば中国企業は米国の制裁対象となる。中国が米国の圧力を無視するならイラン産原油がマーケットから完全に締め出されることはないものの、イランや原油価格の行方が米中貿易戦争に巻き込まれていくことは確実である。原油市場では、米中の駆け引きに翻弄される場面が増えていくだろう。
 
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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