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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「燃え上がる株高 変身DNAを持つ銘柄群」

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

 日経平均株価は1996年11月以来21年ぶりの高値圏を快走しています。96年6月には長期波動の戻りの要衝といってもよい2万2666円の高値をつけており、もし仮にここをクリアした場合は、バブル崩壊の序章であった91年3月につけた戻り高値2万7146円までフシの見当たらない真空地帯に突入します。9月最終週の日経平均は2万円トビ台でやや逡巡する気配を見せていました。10月下期相場のスタートが俗に“荒れる”といわれる「2日新甫」ということで、内心身構えていましたが蓋を開けてみれば、糸の切れた凧のように舞い上がる展開となりました。

 今の株高はアベノミクスの成果というよりは強靭な米国経済・株価と円安効果の賜物と言うべきですが、結果的に安倍首相が政権発足当初に掲げていた“デフレ脱却”のシナリオが現実化する兆しをみせています。実際には黒田日銀総裁が目指す物価上昇率2%の実現までは、少なくとも脱デフレの命題達成とはいえないでしょう。しかし、実勢経済に先行する株式市場がひと足先にそれを具現する、その光景を我々はいま目の当たりにしているのかもしれません。

●“失われた20年”からの生還

 改めて振り返れば、バブル崩壊後の長いトンネルを通過して陽光を浴びてもなお、東京市場は後遺症に悩まされ続けました。1989年の年末に日経平均株価は3万8915円で大天井を打ちましたが、それがバブルの頂(いただき)であったことは数年経ってから分かること。90年代は連綿と負の記憶によって織り成された時代であり、“失われた10年”と呼ばれましたが、それでも97年11月の山一証券破綻時に日経平均は1万6000~1万5000円、98年10月の長銀破綻時でも1万4000~1万3000円のゾーンにあり、むしろ下値誘導が苛烈を極めたのは2000年代に入ってからです。

 したがってミレニアム最初の10年は90年代を引き継ぎ“失われた20年”と揶揄されたわけですが、「陰極まれば陽転す」というのが相場の摂理、顧みれば08年のリーマン・ショックが今の大出直り相場の基点となったともいえます。いわゆる89年末のバブル最高値に対し08年10月、そして翌09年3月につけた7000円近辺での2点底が「逆バブル」の頂上であったということ。そこから世界的な超金融緩和環境が創生され、デフレの深淵から脱出する足場となったわけです。ちなみにNYダウ の89年末は2700ドル台でした。今はケタが一つ違っています。日経平均がひたすら地を這った28年の歳月はNYダウを実に8.5倍にしたのです。

 振り子は常に行き過ぎなければ戻ることはできない。米国を中心とする今回の上昇相場の振り子が引き返すまでには、まだかなりの時間的な猶予があると考えています。

●外部環境は好調、踏み上げ相場はまだ続く

 足もとの東京株式市場が頑強な値動きを続けているのは、相応の背景があります。何といっても強みは日米ともに好調な経済および企業業績です。政治面でも選挙後に安倍政権の求心力はどうやら高まりそうな流れにある。そして、需給面では依然として積み上がる信用売り残、これが踏み上げ相場の糧となりそうです。

 今月後半からは3月期決算企業の中間決算発表が本格的に始まることで、必然的にそこに市場の視線が注がれることになりますが、総じてファンダメンタルズは良好であり、その思惑が上昇トレンドの礎となっています。全体観として17年4-9月期は経常利益ベースで2ケタ増益(10%台の増益)水準を予想する声が強いようです。

 米国では12月利上げがあるのかないのか、いまだ流動的ですが、少なくとも10月初旬現在では市場コンセンサスとして9割強が利上げを見込んでいる状況。対して前週末のIMFの年次総会で黒田日銀総裁は、物価上昇率2%の早期達成に向けて粘り強く金融緩和を行うと明言、ステルス・テーパリングが観測されてはいますが、日米金利差拡大の方向性自体に変化はなく、円安環境は今後も維持される可能性が高いと考えられます。10月初旬段階で期中平均は1ドル=111円台で推移、ここから円安が進まないまでも現在の1ドル=112円前後の水準がキープされるのであれば、企業の為替想定の平均値である1ドル=109円近辺とのギャップが円安効果として収益に上乗せされてくることになります。

●アベノミクス復活の仕掛けは東京市場にあり

 もとより米国は強力な景気拡大のプロセスを続けていますが、8.5倍化したNYダウが国富の象徴です。同じ時間軸で日経平均はつい最近まで高値比2分の1の水準であったわけですから彼我の差は推して知るべし。米国の株高を基点とした隆盛を改めて見習うべき時で、“アベノミクス3.0”の最強の仕掛けは東京株式市場にあり、とみています。

 ネガティブ材料としては北朝鮮問題。これは毎度繰り返しになりますが足かせではあるけれど、前に進むことを困難にする重さはありません。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験がどのタイミングで行われるかが当面のカギを握りそうですが、仮にきょう18日から24日の日程で行われる中国共産党大会の間に動いたとしても、そこは買い向かうチャンスと前向きに構えたいところです。

 個別株に目を向ければテーマ株や材料株の物色人気は旺盛です。回転売買が主流であり機動的に対応する知恵は投資家として必要ですが、前回10月4日配信の当コーナー「加速する材料株相場 秋高特選7銘柄」で取り上げた栄電子 <7567> [JQ]は翌日から5日連続ストップ高を演じたほか、10月11日配信の株探トップ特集「祝・アベノミクス高値更新、大相場前夜“特選ワケあり10銘柄”」で取り上げたクロスキャット <2307> [JQ]も3日連続ストップ高と大相場形成につながった銘柄も出てきています。直近では、やはり「秋高特選7銘柄 」で挙げたビジネス・ブレークスルー <2464> が激しく動意している状況です。

●CIJ、小倉クラッチはテーマの中心軸に位置

 変身DNAが眠る株は世界的に注目されるテーマの周辺に潜んでいることが多い。今ならば半導体、電気自動車(EV)および車載デバイスが有力。そしてばら積み船市況が急速に回復トレンドにある海運セクターに意外性があります。

 まず、独立系ソフト開発会社で高技術力を背景に大手との取引実績が豊富なCIJ <4826> 。半導体技術を応用したLSIやパワーデバイス開発などで実力を有し、銀行や証券など金融向けでも強みを持っています。18年6月期は営業3割増益見通しと好調。PER面で割安感があるうえ、時価は実質上場来高値圏にあり戻り売りの洗礼を浴びない点も有利に働きます。

 ここ動兆しきりの小倉クラッチ <6408> [JQ]も注目。世界トップの総合クラッチメーカーでカーエアコン分野では国内6割の高シェアを誇ります。産業用クラッチではモーターや減速機など世界的な設備投資需要の拡大を背景に収益環境には中期的なフォローの風が吹いています。18年3月期は減益見通しながら増額の可能性が指摘されているようです。また、独立系で二輪・四輪車中心に電子制御燃料噴射装置を展開するミクニ <7247> もマーク。10%近い高ROEにして0.6倍台の超低PBRは急速に是正される方向にあります。15年4月の高値710円奪回が当面の目標。

●和井田はメイド・イン・ジャパンの象徴

 通常は薄商いながら売買代金をこなす潜在的な流動性で群を抜く、軽量材料株のシンボルストックといえば和井田製作所 <6158> [JQ]。切削工具と研削盤分野で高い商品競争力を持っており、そのナノ・ミクロン単位に特化した技術はメイド・イン・ジャパンの象徴。同社株の人気度の高さはまさにそこにあります。10月2日と3日に連続ストップ高をみせた後、調整に転じていましたが、時価は初動時の“陽の丸坊主”でつけた700円近辺に接近、切り返しのタイミングが近そうです。

●海運は明治海に大相場の記憶、東栄リーファに軽さ

 意外性を内包しているのが海運株。最近は超低位の玉井商船 <9127> [東証2]が突発的に上昇しましたが、この背景のひとつに、中国をはじめ世界的な景気拡大を背景としたばら積み船市況の回復があります。ばら積み船の総合的な値動きを表すバルチック海運指数の上昇が顕著で、同指数は10月17日現在で10日続伸、1552まで上昇し14年3月以来約3年半ぶりの高値水準にあります。

 こうなると、海運セクターの他の銘柄にも目が向くことになります。そのなか明治海運 <9115> は07年に1500円台まで買われる大相場を形成。材料性も豊富で、ホテル関連事業や不動産賃貸事業が安定収入の源泉となり、インバウンド関連の側面も持っています。さらに、保育園事業として「くじら保育園」を展開している点もポイント。自民党の選挙公約には“子育て・教育・介護”がありますが、2020年度までに3~5歳児はすべて教育無償化を図る方針にあり、同社はその恩恵を享受することが予想されます。

 このほか海運株では時価総額30億円以下の東栄リーファーライン <9133> [JQ]も値動きが軽い。マグロの冷凍運搬が主体で地中海のマグロ漁獲量枠の拡大で輸送量が増える方向にある点は追い風。18年2月に超低温冷蔵船の竣工も予定され、業績面で成長エンジンとなる可能性があります。

●番外編低位株で篠崎屋に“値ごろ感”

 最後に番外編として、低位材料株人気が盛り上がるなか株価100円台の銘柄として篠崎屋 <2926> [東証2]をマーク。首都圏で豆腐の製造小売店を展開、商品開発力で他と一線を画す茂蔵ブランドに馴染みのある方も少なくないでしょう。17年9月期は営業利益段階からの黒字化を予想しており、18年9月期も増収増益が有望視されます。13週移動平均線上にある時価150円弱は、同社が発売する大豆加工品以上に値ごろ感があります。

(10月18日記、隔週水曜日掲載)

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