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【市況】S&P500 月例レポート ― 不思議の国のハーフタイム、ファンダメンタルズへの注視続く (2) ―

NYダウ <日足> 「株探」多機能チャートより

●ハーフタイム

 上半期は株価が徐々に上昇して非常に心地良い展開となりました。株価を主に左右したのは政治や世界の動向で、S&P500指数は上半期に8.24%上昇しました(配当込みのトータル・リターンは9.34%)。騰落率は11セクターのうち9セクターがプラスとなったものの、エネルギーと電気通信サービスの2つのセクターはマイナスとなり、上半期にそれぞれ13.81%と12.79%という2桁台の下げとなりました。

 エネルギーセクターは、需要の改善にもかかわらず(ただし依然として低水準)供給過剰がもたらした原油安が圧迫材料となりました。しかし、消費者によるガソリン価格の節約分は過剰貯蓄に表れておらず、これは、価格が下落していなければ消費支出が減少していた可能性があることを意味します。電気通信サービスセクターは、競争激化に加えて消費者が簡単に乗り換えられることで利益率が圧迫されたことが響きました(そして、この事業分野にはAmazonが進出していません ―― 今のところですが)。

 上昇した9セクターでは、情報技術セクターが16.38%上昇し、その牽引役はiPhoneを主力とするApple(AAPL、年初来では24.3%高ながら、6月は5.7%安)、Alphabet(GOOGL、年初来は17.3%高、ただし6月は5.8%安)、Microsoft(MSFT、10.98%高)、ソーシャルメディア銘柄のFacebook(FB、31.2%高)でした。

 続いて好調だったのはヘルスケアセクターで、上半期は15.06%上昇しました。医療保険制度改革法(オバマケア)の「改廃」法案は下院を通過し、上院で審議中です。「撤廃」または「置き換え」というよりも「修正」される可能性が高いものの、ヘルスケアセクターは、ワシントンの動向と関係なく、推移するとみられます。ただし、ワシントンは予算配分に大きな発言権を行使するとみられ、病院とメディケイド(低所得者医療扶助制度)関連の企業はより影響を受けやすいでしょう。

 金融セクターは上半期に平均を下回る5.97%の上昇となり、そのうち6.31%は6月に記録しました(5月は年初来で0.33%の下落でした)。その背景には、FRBによる銀行の年次ストレステストの結果が良好だったことで配当と自社株買いに対するストレスが緩和されるとの見方が背景にありました(重要な決算発表シーズンは7月14日の銀行から本格化します)。

 6月は幅広い銘柄が活発に買われ、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数の2倍以上となりました。値上がりは349銘柄で、そのうち71銘柄が25%以上上昇し、値下がりは155銘柄で、そのうち24銘柄が25%以上下落しました(うち10銘柄はエネルギー関連銘柄)。

 その他の市場に目を向けると、原油価格は46.23ドルと、2016年末の53.89ドルから下落して上半期を終えました(供給が需要を上回ったこと、米国の生産増加が要因)。米国10年国債の6月末の利回りは2.30%で、2016年末の2.45%から低下しました(その間にFRBは2回利上げを実施)。VIX恐怖指数は11.18と、2016年末の14.04から低下しました(心配ご無用!)。

 上半期を振り返ると、日々の出来事や取引に関しては苛立つこともありましたが、全般的には緩やかながら総じて安定的に上昇しました。しかし注目すべき重要な点は、米政権で相次ぐドタバタ劇や世界から次々と入るニュースにもかかわらず、市場がファンダメンタルズを注視し続けたことです。

 下半期に関しては、どうしてもファンダメンタルズが気になりますが、年後半に入って最初に注目をさらうのは、ワシントン(医療保険制度改革)かもしれません。ただ、ファンダメンタルズの最初の試金石になるのは決算発表であり、2017年第2四半期の営業利益は過去最高を記録すると見込まれています。本稿執筆時点で、ボトムアップ分析を見ると(業績予測を示すことはできませんが)、記録を更新し、高水準のPERの持続が正当化される可能性は十分にあります。

●6月の重要ポイントは以下の通りです:

◇S&P 500指数は2,423.41で6月を終え、月間上昇率は0.48%(配当込みのトータル・リターンは0.62%)でした。5月の終値は2,411.80、月間上昇率は1.16%でした。年初来の上昇率は8.24%(同9.34%)、また2016年11月8日の米大統領選挙日の終値2,139.56からの上昇率は13.27%(同14.79%)となりました。月内に終値ベースで最高値を4回更新しました(直近の高値更新は2017年6月19日で2453.46)。ダウ工業株30種平均(NYダウ)は21,349.63ドルで6月を終え、5月末の21,008.65ドルから1.62%上昇しました。年初来の上昇率は8.03%となり、月中に終値ベースで最高値を7回更新しました(直近の高値更新は2017年6月19日で21,528.99)。

◇原油価格は42ドルの水準を守ったものの、5月末の48.63ドルから4.9%下落して46.23ドルで6月を終えました。その結果、2016年末の53.89ドルからの下落率は14.2%となりました。

◇米国10年国債の6月末の利回りは2.30%となり、5月末の2.22%から上昇しました(2016年12月末は2.45%)。

◇金価格は1トロイオンス1,241.50ドルで6月の取引を終え、5月末の1,271.40ドルから2.4%の下落となりましたが、2016年12月末の1,152.00ドルからは7.8%上昇しました。

◇英ポンドは5月末の1ポンド=1.2877ドルから1.3026ドルに上昇(2016年12月末は1.2345ドル)し、ユーロは5月末の1ユーロ=1.1242ドルから1.1423ドルに上昇(同1.0520ドル)、円は5月末の1ドル=110.81円から112.46円に下落しました(同117.00円)。

◇VIX恐怖指数は5月末の10.41から11.18、前回2006年12月に付けた低水準)に上昇しました(2016年12月末は14.04)。

◇ボトムアップ分析によるS&P 500指数の1年後の目標株価は2,630(現行水準から8.5%の上昇余地)、NYダウは23,072ドル(同8.1%の上昇余地)。

●トランプ大統領と政府高官

 トランプ大統領は米国の航空管制システムの民営化を提案しましたが、実現には議会の承認が必要となります。

 米連邦捜査局(FBI)のコミー前長官はトランプ大統領と1対1で話した際の内容について議会証言を行い、トランプ大統領の言葉をフリン前大統領補佐官に対する捜査を中止するようにとの「指示」と受けとめたことや、大統領がロシア疑惑に関する捜査を妨害する目的で自分を解任したと発言しました。トランプ大統領は以前ツイッター上で示唆したようにコミー前長官との会談の内容を録音しておらず、問題は言った/言わないの水掛け論化しています。トランプ氏はコミー前長官の後任に法律家のクリストファー・レイ氏を指名しました。特別検察官に任命されたロバート・ミュラー氏(元FBI長官)はトランプ大統領が司法を妨害したかどうかを含めて、捜査対象をコニー氏の解任問題まで拡大すると報じられています。

 議会上院はヘルスケア法案の修正案を公表しました。同修正案について議会予算局(CBO)が行った試算では、2026年までに2,200万人が無保険になる見通しです。この数は下院案に対する試算の2,300万人を若干下回っています。また上院案では財政赤字が2026年までに3,210億ドル減少すると試算されており、下院案の1,190億ドル超と大幅に上回っています。上下両院ではヘルスケア法案を1つにとりまとめる必要があります(あるいは立法化をあきらめる)。

 米国最高裁は入国制限に関する大統領令の一部を執行することを容認する判断を下し、これまでの連邦高裁の判断を覆しました。なお、大統領令に対する最終判断は、2017年10月に始まる次期会期まで持ち越されることになりました。

※「不思議の国のハーフタイム、ファンダメンタルズへの注視続く (3) 」へ続く。

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