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【特集】底練りホテル株に“上昇気配”、好業績にスポットライトが当たる時 <株探トップ特集>

藤田観 <日足> 「株探」多機能チャートより

―民泊・クルーズ船客増加の逆風で株価低迷も評価不足顕著、見直し買い局面接近か―

 中国人訪日客の、いわゆる“爆買い”の沈静化を受けて、下落の一途をたどった百貨店株をはじめとする インバウンド関連だが、今年に入り株価が反転上昇を続けている。まさに復活インバウンド関連といったところだが、株価面で蚊帳の外なのが ホテル株だ。鈍化しているとはいえ依然として訪日客は増勢にあり業績も好調、評価不足との声も出始めている。

●好調なインバウンド消費

 6月21日、日本政府観光局が発表した今年5月の訪日外客数(推計値)は、前年同月比21.2%増の229万5000人と好調継続。16年5月の189万4000人を40万1000人以上上回り、5月として過去最高となった。また、5月までの累計は約1141万人となり、これまでで最も早いペースで1000万人を超えたという。

 こうしたなか、爆買い需要の剥落を受けて株価が急落していたインバウンド関連株も復活の道程を歩んでいる。特に、百貨店ドラッグストア株の上昇は顕著で“インバウンドバブル”時につけた高値に接近するものも出現。直近は、株価が調整局面にあるものも少なくないが、業績は好調だ。例えば、第1四半期は高島屋 <8233> が増収増益、J.フロント リテイリング <3086> も高水準の伸びを示しており、背景にはインバウンド消費の好調がある。

●忘れられたホテル株

 訪日客の伸び率が縮小しているとはいえ、依然として増勢を続けるなか、業績も好調であるにも関わらずホテル関連の株価はいまひとつ冴えない。確かに、宿泊施設の新規開業が増加、客室単価上昇により国内需要が減少するなど、ホテル株には向かい風ともいえる状況にもある。また、 民泊に株式市場の注目が集まっていることに加え、宿泊施設を利用しないクルーズ船による訪日客の増加なども、ホテル株にスポットライトが当たらない要因になっている。ただ、決して構造的な逆風に晒されているわけではない。

 ある準大手証券ストラテジストは「インバウンド需要は一時爆買いの反動が出ていたが、これは需要の剥落ではない。モメンタム的には確かにピークアウトしているが、その後も訪日客は増勢で、着実に日本にお金を落としていっている。例えば百貨店業界でみると、企業間で明暗を分けてはいるがJフロントのように、うまく業績数字に反映できている会社については、株価面でも見直し買いの対象として浮上している。ホテル業界も同様だ。随時、訪日客をターゲットにした企画を打ちだすなどの企業努力が収益を支えることになる」と指摘している。

●関西で京阪HD、愛知で東祥

 こうした状況下、日本文化に魅了された訪日リピーターが増加していると伝わっており、一度訪れたことのある東京以外の地方に足が向かっているようだ。観光庁が6月30日に発表した「宿泊旅行統計調査(平成28年・年間値)」でも、「全体の稼働率では、大阪府が83.3%と全国で最も高く、特にリゾートホテル89.0%、シティホテル88.0%は全国で最も高い値であったほか、 ビジネスホテルも85.2%と引き続き高かった」としている。

 関西圏では、京阪ホールディングス <9045> 、ロイヤルホテル <9713> [東証2]に注目が集まる。特に、京阪HDは傘下企業が関西圏を中心に多くの宿泊施設を展開しており、子会社の合併や新ブランドの導入などで攻勢を強めている。また、傘下のホテル京阪がユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のパートナーホテルとして「ホテル京阪ユニバーサル・タワー」と「ホテル京阪ユニバーサル・シティ」を運営していることでも知られる。さらに、25年の誘致を目指す大阪万博の状況次第では、関連銘柄の筆頭格との呼び声も高く目が離せない状況が続く。

 また、地方で好調なのが東祥 <8920> だ。同社は、愛知県を地盤にスポーツクラブに加えビジネスホテルを展開するが、出店攻勢を強めるなか業績も好調。ホテル関連としては珍しく、インバウンド関連株が売りたたかれた後も一貫して上昇基調を継続している。15年初頭には3000円近辺だった株価が、現在は5000円台で推移。直近株価は調整局面にあるが、スポーツクラブで20年の東京五輪関連、また27年に品川―名古屋間での開業を目指すリニア新幹線関連としても注目されており、今後も折に触れて物色の矛先が向かいそうだ。

●箱根で稼ぐ藤田観、「ドーミーイン」の共立メンテ

 藤田観光 <9722> は椿山荘や全国展開のワシントンホテルなどビジネスホテルに加え、箱根周辺でホテル事業を展開している。株価は15年12月に6400円近辺まで上昇したものの、現在は3000~3800円の底値圏を往来する展開。4月20日には、今中期経営計画期間で最大の投資と位置付ける神奈川県箱根町の全室温泉露天風呂付宿泊施設「箱根小涌園天悠(てんゆう)」が開業している。同社では「訪日客数については、昨年の夏くらいから伸び率は多少鈍化しているのは事実だが、依然として増加していることに変わりはない。天悠に関しては、滑り出しは好調といえる。当社は、箱根においてさまざまな施設を運営しているが、箱根の魅力を伝えることで、リピーター客の獲得にも注力していく」(広報)と言う。

 ビジネスホテルの「ドーミーイン」ブランド展開で一時、株式市場の注目を集めた共立メンテナンス <9616> の動向からも目が離せない。株価は、15年には5000円台にあったが、その後は下落局面から抜けきれない状況が続く。今年4月14日に年初来安値3050円をつけた後、いったんは上昇したものの、現在は再び調整局面にある。ただ業績は好調で、堅調な国内のリピーターやインバウンド需要の増加が続き、前年同期を上回る高稼働、高客室単価で推移している。

 また、ユニゾホールディングス <3258> だが、4月28日に18年3月期の連結業績予想を発表し、売上高は前期比32.6%増の516億円、営業利益は同26.4%増の166億円、最終利益が同15.2%増となる72億円と過去最高を見込んでいる。これを受け、株価は上昇基調にあったが、6月30日大引け後に公募増資の実施を発表。1株当たり利益の希薄化を懸念した売りが膨み、週明けの7月3日には急落している。ただ、業績自体は好調で、今後の展開には目を配っておきたいところだ。

●そろり見直し買いへ

 いわゆる“民泊新法”が成立するなか、株式市場ではホテル関連株から、さらに注目が遠のいている。これについて、前出のストラテジストは「今は民泊が法的側面などからも市場が整備されつつあり、一見すると逆風にも見えるが、実際はそんなことはない。絶対数としての宿泊施設不足が続いているほか、ホテルに泊まる客層は決まっていて、お金をかけるところにはかける。次に日本に来た時に、民宿に泊まろうという考えには傾かないのではないか」と語る。

 4日付の日本経済新聞によると「都心のホテルの稼働率が上昇基調を保っている」としている。同社の集計によると、5ヵ月連続で稼働率が前年の水準を上回り、「国内の個人と法人需要がともに好調だったほか、訪日外国人(インバウンド)の利用も伸びた」という。

 20年の東京五輪開催に向けて訪日客4000万人を目指す日本、伸び率は鈍化しているとはいえ、今後も訪日客の増勢は続きそうだ。さらに、大阪万博開催というビッグサプライズの可能性もある。評価不足から、そろり見直し買い局面に移行するタイミングが近づいている。

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