【特集】植木靖男氏【トランプ演説受けた急騰劇、その先にあるもの】(1) <相場観特集>
植木靖男氏(株式評論家)
―日経平均“取引時間中”高値更新も安値引け、再び「風」は吹くか―
2日の東京株式市場は、前日の米国株急騰の余韻冷めやらぬなかリスクを取る動きが加速、日経平均株価は寄り付きに年初の高値を抜き去り、新局面入りの様相をみせた。トランプ米大統領の議会演説は結果的に日米株高を呼ぶ号砲となった。ただし、日経平均の終値は始値を下回る上ヒゲ陰線で引け味の悪さも残している。株価上昇の背景と今後の見通しについて、相場の機微を知るベテラン市場関係者2人の意見を聞いた。
●「踏み上げ様相の米国株、ただし日柄に注意」
植木靖男氏(株式評論家)
前日の米国株市場ではNYダウが300ドル高を超える鮮烈な上昇をみせたが、これは空売りの買い戻しによるエネルギーが押し上げた意味合いが強い。選挙と同じで世間の耳目が集まるビッグイベントでは、その時に吹く“風”が大きな影響を与える。トランプ氏にはまたもや追い風が吹いたといえる。
トランプ大統領の演説前に下値リスクが喧伝されていたが、仕掛け的な売りを狙っていた向きが、いざ蓋を開けてみると、過激なトランプ砲は封印され粛々と原稿を読み上げる格好で売りを煽りようがなかった。「売りが売りを呼ぶ」とはよく言われるが、「買い戻しが買い戻しを呼ぶ」状況も当然ある。おそらく、前日の米国株市場の急騰は情勢不利とみた空売り筋が手仕舞いを急いだ結果で、踏み上げ相場の様相を呈していた。
ただし、買い戻しが一巡すれば上げ足は当然ながら鈍くなる。まだNYダウの上昇余力は残っているとは思うが、純粋に米国株の上値を買いたいと思う実需筋がどのくらいいるのかについてあまり楽観的な見方はできない。
とりわけ、ここからの相場は日柄的に注意が必要だ。昨年の6月から始まったブル相場が仮に今月も続くとすれば9ヵ月目となり、転機を示唆する。さらに今月は中旬に重要な日程を控えている。FOMCが15日に開催され、その近辺で予算教書の提出も控える。FOMCでは利上げに動く可能性が高まっており、実際そうなった場合は株式市場にとって、たとえそれ以前に織り込みが進んだとしても、ブレーキとして働く公算が大きい。また、13日前後といわれる予算教書提出についても具体的な数字が示され、いよいよ議会との調整で実現力が問われる段階に入ると、相場は夢から覚める可能性があるとみている。
したがって今のトランプ相場にとって「3月中旬」は曲がり角となることが考えられる。それまでにどのくらい上がるかは未知数だが、FOMCに前後して手仕舞い売りの動きが出てきそうだ。米国株が崩れれば、日本株も影響を免れないと思われる。日経平均はそれまでに2万円台を回復できるかもしれないが、投資家のスタンスとしては半身に構えておく必要性はありそうだ。
(聞き手・中村潤一)
<プロフィール>(うえき・やすお)
慶応義塾大学経済学部卒。日興証券(現SMBC日興証券)入社。情報部を経て株式本部スポークスマン。独立後、株式評論家としてテレビ、ラジオ、週刊誌さらに講演会などで活躍。的確な相場見通しと独自の銘柄観に定評がある。
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