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【市況】S&P500 月例レポート ― 空前のトランプ政治ショーと続く楽観 (2) ―


※(1)から続き。

 ウォール街や財界(そして世界全体)では、トランプ大統領に関するものも、そうでないものもありましたが、とにかく多くのイベントがありました。大半の中央銀行は、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長が述べた「大きな不確実性」を理由に様子見の姿勢を維持し、国際通貨基金(IMF)はトランプ大統領による政策推進と支出拡大が見込まれることを理由に、米国の2017年GDP成長率予想を2.3%(従来予想は2.2%)に、2018年については2.8%(同2.4%)に引き上げました。

 世界経済に目を向けると、中国の2016年第4四半期GDP成長率は前年同期比6.8%、2016年通年では前年比6.7%(目標は6.5%~7.0%)となり、ユーロ圏の2016年通年のGDP成長率は前年比1.7%という結果となりました。英国の第4四半期GDP成長率は予想を上回る前期比0.6%となり、メイ首相は今年3月にもEU離脱の手続きを開始するとみられます。一方、米国の第4四半期GDP成長率は前期比1.9%となり、予想の2.2%には届きませんでした。米国の他の経済指標は好調で、住宅市場は緩やかな上向きが続き、雇用は堅調で、低水準の失業率からインフレ懸念も浮上しつつあります。

 大手企業の買収や合併のニュースも相次ぎ、ヘルスケア製品大手Johnson & Johnson(JNJ)は、スイスのバイオ医薬品会社Actelion(ALIOY)を300億ドルで買収することでようやく合意に至りました。イタリアのサングラスメーカーLuxottica Group(LUX)は、フランスの光学用レンズ企業Essilor International(ESLOY)と合併し、時価総額490億ドルの眼鏡メーカーが誕生します。たばこ大手のBritish American Tobacco(BTI)は、同業のReynolds America(RAI)の未保有株57.8%を494億ドルで取得するという、前回の提示額を上回る金額で合意しました。合意に至らなかった案件としては、医療保険大手のAetna(AET)と同業Humana(HUM)の合併は、反トラスト法の観点から連邦地方裁判所によって差し止められました。

 米国企業の決算発表が続き(これまでに56%の企業が発表済み)、全体としては予想をわずかに上回っていますが、影響は市場の出来高を押し上げるにとどまり、ニュースを賑わすほどではありませんでした(ニュースはトランプ一色でした)。決算発表で特筆すべき点は企業ガイダンスで、多くの経営陣は期待感を持っているものの、現段階では様子見のスタンスにあり、今後のイベント次第で必要に応じて対応していくとの見方を示しました(この点で各社の考え方は私たちと似ています)。

 S&P500は大統領選挙後から年末にかけて4.64%上昇しました。年明けの1月に入るとその勢いはやや弱まり、トランプ大統領の就任式が行われた1月20日までに年初来で1.79%上昇した後は一進一退の展開となりましたが、月末にかけて辛うじて0.33%上乗せしました。とはいえ、すべてのセクターで株価が上昇したわけではありません。

 2017年1月のS&P500指数は2016年1月とは対照的な動きを見せ、幅広いセクターの上昇により月間で1.79%上昇しました。2016年には、S&P500指数は1月に5.07%下落し、2月11日までに年初来で10.51%下落しました(その後、年末までには最終的に22.40%上昇しました)。

 大統領選挙以降の上昇率は6.51%で、このところは決算と政治ニュースが競って市場に材料を提供しています(個別銘柄に与える影響では決算が勝りますが、市場の地合いとセンチメントに与える影響では政治ニュースが勝っています)。

 1月は11セクターのうち8セクターで月間騰落率がプラスになり(12月は9セクター)、各セクターのリターンのばらつきは引き続き拡大しました。最低の騰落率だったのは2016年に23.65%上昇したエネルギーセクターで、原油価格がレンジ内にとどまり(月間では2.0%下落)、トランプ大統領がエネルギー関連の複数のプロジェクトを承認したにもかかわらず、1月は3.64%下落しました。エネルギーセクターは原油価格が105ドルだった2014年6月比では、いまだに26.56%安の水準にあります。

 2016年に17.81%上昇した電気通信サービスセクターも、通信サービス大手のVerizon(VZ)の下落の影響で、3.50%安と大幅に下落しました。VerizonはYahoo(YHOO)の資産買収が延期され、買収後の資産の活用をめぐる懸念が強まったことから8.2%下落しました。

 騰落率が3番目に悪かったのは2016年に横ばい(0.01%上昇)だった不動産セクターで、1月はわずか0.12%の上昇でした。

 一方、月間で最も上昇したのは素材セクターで、コモディティ価格の見通しの改善を背景に4.59%上昇しました。素材セクターに次ぐ上昇を示したのは4.34%の情報技術セクターです。同セクターでは36銘柄中30銘柄が事前予想を上回る好業績を発表しました。1月31日の取引終了後に予想を上回る決算を発表したApple(AAPL)はその後の時間外取引で上昇しており、2月初めの情報技術セクターの上昇に貢献すると思われます。

 薬価に対する圧力が続くヘルスケアセクターは1月に2.15%上昇しました。1月末に行われた業界代表者らとトランプ大統領との会談では「笑顔」と希望が見られましたが、ヘルスケアセクターは昨年下落(4.36%安)した唯一のセクターであり、引き続き薬価の問題が懸念されます。

 金融セクターの騰落率は0.12%上昇とほぼ横ばいでしたが、選挙後では20.14%の上昇を維持しています。一般消費財セクターは4.18%上昇しました。消費は、米国の新規雇用の増加が賃金の上昇につながるとの期待から押し上げられた模様です。

 決算発表で好業績が相次ぎ、企業が新政権に協力する姿勢を見せていることが背景となり、1月は値上がりした銘柄数が値下がりした銘柄数を前月よりもさらに大きく上回りました。値上がりは327銘柄(平均上昇率は5.38%)と、12月の302銘柄(11月は335銘柄)から増加した一方で、値下がりは176銘柄(平均下落率は4.42%)と、12月の203銘柄(11月は170銘柄)から減少しました。10%以上の上昇は前月の12銘柄から39銘柄(平均上昇率は16.02%)に増加しましたが、10%以上の下落も16銘柄(平均下落率は17.00%)と、12月の12銘柄を上回りました。4銘柄が25%以上値上がりし(前月はゼロ)、2銘柄が25%以上値下がりしました(前月はゼロ)。

 出来高は、前月比17%減だった12月に対して1月はほぼ横ばい(0.5%増)となり、過去1年間の平均月間出来高を10%下回りました。

 月中の高値と安値の差で見た変動率は2.49%となり、過去1年間の平均である4.61%を大幅に下回りました(11月は6.25%、12月は4.12%)。1962年以降の年間変動率のチャートにこの1月の数値を加えると、2017年1月の変動率が(55年間の)過去最低を記録したことがわかります。トランプ大統領が発令した大統領令が議会、大統領、そして間違いなく裁判所に立法に関する手続きを要求することを勘案すると、ボラティリティは上昇するという見方が大勢を占めています。

 S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは1月に、S&P500の構成銘柄について2銘柄を入れ替えました。動物用診断薬・検査機器メーカーのIDEXX(IDXX)を追加し、ヘルスケア会社Abbott Laboratories(ABT)に買収された医療機器メーカーのSt. Jude(STJ)を除外しました。

 利回り、金利、コモディティに関しては、米国の利上げ時期が早まるとの投資家の予想を反映して金利は1月に上昇しましたが、インフレと消費の加速も同時に見込まれていたことから反転し、月中の最高水準から低下して1月の取引を終えました。米国10年国債の利回りは12月の2.45%や2015年末の2.27%から1月末は2.46%に上昇(価格は下落)して月の取引を終えました。30年国債の利回りは3.07%と、12月の3.07%から横ばいでした(2015年末は3.02%)。

 外国為替市場の取引は活発で、ユーロは12月末の1ユーロ=1.0520ドルから1.0796ドルに上昇して1月を終えました(同1.0861ドル)。英ポンドは12月末の1ポンド=1.2345ドルから1月末は1.2576ドルに上昇しました(同1.4776ドル)。円はドルに対して12月末の1ドル=117.00円から上昇して112.68円で1月を終えました(同120.66円)。人民元は1ドルに対して12月末の6.9448元から6.8817元に上昇しました(同6.4931元)。

 金価格は12月末の1152.00ドルから1212.40ドルに上昇しました(同1060.50ドル)。原油価格は大きく変動しましたが50ドル台を維持し、12月末の1バレル53.89ドルから52.80ドルに下落して1月を終えました(同37.04ドル)。米国のガソリン価格は、12月末の1ガロン2.309ドルから1月末は2.326ドルに上昇して月の取引を終えました(同2.034ドル)。

 VIX恐怖指数は10年振りの低水準で推移し、12月末の14.04から1月末は11.99に低下しました(同18.21)。

※「空前のトランプ政治ショーと続く楽観 (3)」に続く。

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