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【経済】【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2):◆M&Aは全体を活況にさせるが、個別評価難しく◆


〇大型M&A相次ぐも、評価難しい〇

週明けのNY市場は、好調な企業決算を追い風にS&P500が2週間ぶりの高値になるなど堅調だった。ただ、注目のAT&Tによるタイム・ワーナーの8.8兆円買収の反応は、AT&Tが1.7%、タイム・ワーナーが3.1%下落した(事前に上昇していた反動でもあるが)。規制当局の承認が得られるかどうか不透明との見方が背景と伝えられるが、巨大企業誕生後のビジョンを投資家が描き切れていないことを示唆していると見られる。

この日は航空電子部品メーカーのロックウェルズ・コリンズが航空機内装のB/Eエアロスペースを64億ドルで買収(B/E株は16%高、ロックウェルズは6.2%安)、中国・海航集団(HNA)がヒルトン・ワールドワイド株の約25%を投資会社ブラックストーンから取得(ヒルトン株は一時3.7%高も伸び悩む)、ディスカウント証券のTDアメリトレードは非公開のオンライン証券スコットトレードを買収(アメリトレードは4.4%安)などM&Aが相次いだ。21日以降で総額1240億ドル規模と言う。全体の地合いを好転させている(企業の積極姿勢)と見られるものの、個別評価は難しく、直近の平均プレミアムは28%と2年ぶりの低水準とされる。

相次ぐM&Aは、産業構造の激変、競合関係の激化などを示すと思われるが、一方で、米HPインクが今後3年で3000?4000人、独VWが今後10年で2.5万人削減と言ったリストラの動きが見られる。欧州株では、スイス農業バイオ大手シンジェンタ株が5.8%安、独半導体製造アイクストロンが13.3%の急落。ともに中国企業の買収案件で、不調懸念が背景。ドイツでは中国企業の買収に規制強化を求める声が強まっていると伝えられる。

AT&Tによるタイム・ワーナー買収は、通信・メディア業界大再編の幕開けと受け止められている。コンテンツ業界は単独での生き残りが難しくなっており、通信、衛星放送、CATVなどの棲み分けも急速に流動化しているためだ。タイム・ワーナーはニュース専門局CNN、ケーブルテレビのHBO、映画会社ワーナー・ブラザースなどを傘下に持ち、以前にはアップルがアプローチしたこともあると言う。AT&Tは既に衛星放送のディレクTVを485億ドルで買収している。対抗的に、グーグルが新たに始めるウェブTVサービスで大手TV局CBSと番組配信で合意、21世紀フォックスやバイアコムとも交渉中と伝えられ、激震が続く可能性がある(全くの蛇足だが、タイム・ワーナーが動くと米経済が沈むとの冷やかし的な意見もある。タイム誌とワーナーの合併が1990年→S&L危機、タイム・ワーナーのAOL買収が2000年→ネットバブル崩壊、で米経済はマイナス成長。そもそも両社設立は1923年で関東大震災の年、その数年後に世界大恐慌)。

翻って日本市場のメディア関連株は不人気が続いている。放送法などの垣根が強く、ネット社会に圧され、新聞、テレビ、出版などの低調なニュースが多い。米国の波は早晩、日本にも来るとの見方は多いが、どういった再編劇になるのか情報サービス業界の在り方模索とともに、見直し余地に注目することになろう。


以上



出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/10/25号)

《WA》

 提供:フィスコ

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