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【特集】動き出した“電力IoT”、「仮想発電所」構築へ政府後押し <株探トップ特集>

積水化は茨城県つくば市で、複数住宅の電力供給を一括制御する実証試験を開始する(写真提供:積水化学工業)

―電力自由化・分散化時代の調整役として期待―

 エネルギーの効率利用や再生可能エネルギーの導入拡大につながる技術として、「バーチャルパワープラント」(VPP:Virtual Power Plant)と呼ばれる手法が注目を集めている。電力自由化や電力分散化が進む欧米では既に広がりをみせており、国内でも実現に向けた実証事業がようやく動き出した。

●効率的に電力需給バランスを最適化

 VPPとは、地域内に点在する小規模な再生可能エネルギー発電設備や燃料電池 蓄電池電気自動車(EV)などを束ね、あたかもひとつの発電所として機能させる手法。「仮想発電所」とも呼ばれ、効率的に需給バランスを最適化することができる。例えば、太陽光発電の出力が増えて電気が余った場合は、各家庭に設置されている蓄電池に充電することで電力消費を増やし、反対に供給力が不足した場合には蓄電池から放電するなどして需要側で需給を調整する。現在は出力側で需給が調整されるため、電力会社は一時的な電力需要を満たすための予備発電施設を持つ必要があるが、VPPが構築できればこうした設備はいらなくなり、建設費や整備費を抑えることができる。

●経産省は7つの補助事業を採択

 VPPが注目される背景には、東日本大震災をきっかけに従来の大規模集中電源に依存した硬直的な供給システムからの脱却が求められていることがある。また、太陽光などの再生可能エネルギー発電設備が普及してきたことに加え、IoT(モノのインターネット)などの技術革新によって分散電源を統合制御しやすくなりVPPを実現できる環境が整ってきたことが挙げられる。政府もVPPの実現を後押ししており、経済産業省は16年度予算で約30億円を計上。7月29日には7つの補助事業が採択された。

【関西VPPプロジェクト】
 この事業は、関西電力 <9503> や富士電機 <6504> 、三社電機製作所 <6882> [東証2]、ジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> 、住友電気工業 <5802> 、日本ユニシス <8056> 、大林組 <1802> 、ダイヘン <6622> 、三菱商事 <8058> 、NTTスマイルエナジー(大阪市)、エネゲート(大阪市)、エリーパワー(東京都品川区)、関西電気保安協会、Nature Japan(京都市)の14社による共同プロジェクト。家庭用から産業用まで、さまざまなエネルギー機器を統合管理できるシステムを構築し、検証を行っていく。

【スマートレジリエンス・VPP構築事業】
 東京電力ホールディングス <9501> 傘下の東京電力エナジーパートナー(東電EP)、横浜市、東芝 <6502> の3者が共同で実証を行う。地域防災拠点に指定されている横浜市内の小中学校に蓄電池を設置し、東芝が開発した蓄電池群制御システムにより、平常時には電力需要の調整のために東電EPが活用、非常時には横浜市が防災用電力として使用することが想定されている。

【蓄熱槽を含む多彩なエネルギーリソースを活用したVPPの構築】
 アズビル<6845.T>と東電EP、三菱地所<8802.T>グループの三菱地所設計、明治安田生命保険、日本工営<1954.T>の5社からなるコンソーシアムでVPP実証実験が行われる。

【VPP構築を通じたリソースアグリゲーションビジネス実証事業】
 NEC <6701> と積水化学工業 <4204> 、東京電力HD、東光高岳 <6617> 、三井物産 <8031> 、東京電力HD傘下の東京電力パワーグリッド、東電EP、ONEエネルギー(東京都港区)、グローバルエンジニアリング(福岡市)の9社が共同で申請した事業。VPPの構築とそれを通じたリソースアグリゲーション事業(VPPを活用して、電力事業の各プレイヤーの要求に応じた調整電力を提供する新しいビジネスモデル)の実現を目的としている。

 同事業の取り組みの一環として、積水化学工業は8月30日、グループ会社が販売した分譲地「スマートハイムシティ研究学園」(茨城県つくば市)で、複数住宅の電力供給を一括制御する実証試験を10月から開始すると発表。「各住宅の蓄電池を連携させることで、太陽光発電システムが発電した電力を効率的に活用することを目指す」(広報・渉外部)としている。

【IoTとビッグデータを活用した先駆的VPP実証事業】
 この事業ではエナリス <6079> [東証M]が幹事企業となり、KDDI <9433> 、京セラ <6971> 、日産自動車 <7201> 、フォーアールエナジー(横浜市)、エコ・パワー(東京都品川区)の6社でコンソーシアムを組成して実施する。需要家側の創エネ・蓄エネ・省エネの取り組みによって生じるエネルギーリソースを統合的に制御し、VPPの構築と技術開発、関連するビジネスモデルの確立を目指す。

【壱岐島における再エネ出力制御回避 アグリゲーション実証事業】
 ソフトバンクグループ <9984> で自然エネルギー事業などを手掛けるSBエナジーは、需給バランスの調整のために再生可能エネルギー発電事業者に出力制御指令が発令されている長崎県壱岐島で、抑制される予定の電力について蓄電設備を利用して遠隔制御で新たな電力供給先を創出する仕組みを検証する。

【コンビニエンスストアにおける需要家側VPPシステム構築実証事業】
 ローソン <2651> と慶応義塾大学SFC研究所は共同で、コンビニを活用した実証を計画している。

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