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2016年06月15日18時00分

【市況】矢口 新のマーケット羅針盤 「リスク管理Q&A (2):強制ロスカットなぜ不発?」

ドル円 <日足> 「株探」多機能チャートより

●Q4:2015年1月16日にスイスフランショックがありました。あまりに相場が変動しましたので、損切り約定ができなかったり、更に強制ロスカットも執行されませんでしたので、大変だったようです。なぜ強制ロスカットが執行されなかったのでしょうか?

 ブローカーは売り注文に対してカバーされているはずだと思うのですが、カバーがされませんでした。そのようなケースを回避する方法はありますでしょうか?

●A4:「通常の変動幅だと執行される損切りオーダーが、異常な変動幅だと執行されない。通常時には、短時間でも評価損が膨らめば執行される強制ロスカットが、異常な値動きで、長時間にわたって評価損が広がり続けても執行されない。これでは何のためのリスク管理かが分からない。あってはならないことだ。」

 そんなことが、実はあるのが、相場です。以下は、私の知識や体験してきたことから推測です。特定のFX業者や銀行を指しているわけではありません。

 そのようなことが、なぜ起きるのかを、あなたが残したオーダー、あるいはポジションの流れを知ることで、理解して頂きたいと思います。

 あなたはFX業者と取引します。FX業者の業態はブローカーで、取次の仲立ちを行います。つまり、あなたが行った取引は、実際には外為銀行と行っています。

 外為銀行は他の外為銀行や、輸出入企業、機関投資家と大口の取引を行っています。一回の取引にかかる人件費を含むコストは金額の大小に関わらず、ほぼ同じです。なので、外為銀行にとっては、大口取引の方がコストパフォーマンスがいいのです。

 それで、海外旅行者などが外貨を購入する際には、流動性の最も高いドル円でさえ、1円の手数料を取ります。他の通貨だと、その数倍も取ります。支店はそういった小口の外貨取引を集めて、本社、本店の外為ディーラーに渡します。それだけ手数料があれば、外為銀行にとっては収益の見込めるビジネスとして成り立ちます。

 具体的に外為銀行のどこが、どの部署が、FX業者と取引しているのかは知りませんが、外為ディーラーは基本的に小口の取引を好みません。ましてや、FXのビッドアスクはミニマムで、手数料はほぼゼロです。

 FX業者と取引する外為銀行は、大口の顧客を持たないところか、大手だとすれば、FX業者専門のカスタマーディーラー(セールス)の窓口を設けている所だと思います。そこで、小口をそれなりの金額にまとめて、外為ディーラーに渡すのです。でなければ、機械で処理するシステムを構築しているのです。

 これは通常の値動きだと機能します。損切りオーダーや強制ロスカットが無事に執行されるのは、そのためです。しかし異常時には、おそらく機械では処理できません。誰も機械に対してレートを提示しないので、レートがなくなるからです。

 また異常時には、外為ディーラー自身が自分や自社の他の部署のポジションのオーダーでてんてこ舞いです。大口の優良顧客の相手もしなければなりません。彼らとは、昔からの、またこれから先も、長く付き合っていく相手だからです。

 外為ディーラーにとって、FX業者はどうか? FXのビッドアスクがミニマムであることを鑑みると、仮に大口にまとめてくれる業者でも、それほど優良とは見なしていないかもしれません。後は、担当者同士の人間関係だけです。もし、そのFX業者が外為銀行の担当セールスと良好な関係を築けていなかったら、あるいは築いていても、その担当セールスが自社の外為ディーラーに軽く見られていたなら、外為ディーラー自身が生きるか死ぬかの瀬戸際の時にリスクを取っての、レート提示は期待できません。そのような時のディーリング・ルームは、大喧嘩になっているのが常です。

 相場だけに限らないとは思いますが、最後の拠り所は人間関係なのです。

 FX取引を行う人は、自分が顧客だと思い、完全なるサービスを期待します。ところが、どこの世界に手数料を払わない顧客がいるのでしょう。その意味では、FX業者のビジネスは、なかなか厳しいのではないかと推測します。

 そういう状態で、異常な値動きの時に、顧客と外為銀行との板挟みになるのが、FX業者です。FX業者は仲立ち人ですから、カバーできずに損失が出た時には、顧客か、外為銀行のどちらかに損失を受け入れて貰うしかありません。そういった究極の選択に迫られた時には、長く付き合える相手を選ぶのは自然です。

 リスク管理としては、高レバレッジを含む、大きな資金を使う時は、ポジションを持ち越さないこと。持ち越す時は、強制ロスカットが入らないような、なくしてもいいような金額にして、損切りオーダーは入れないことです。

 損切りは大切ですが、損切りオーダーはメリットよりも、デメリットの方が大きいと言うのが、外為のプロップ・ディーラーとして、有利な立場でいた時にでも、痛感していたことです。

●Q5:損切りのメリット、デメリットについて教えてください。

●A5:単純な確率だけを見ると、相場での上げ下げは共に50%の確率です。小さな波動も含めれば、この確率が60%、40%に偏ることはまずありません。にも関わらず、多くの人(6割以上)が相場は儲からない。大損したと嘆いています。これは、ある意味で不思議なことです。

 買って下げて、大損した人がいるとすれば、そのやり方で、自分が売り手に回っていれば大儲けできていたことを示しています。つまり、売って下抜けしたところで、ずっと様子を見ていればいいのです。ここですぐに買い戻してしまえば、利益はミニマムで、なかなか儲かりません。

 大儲けが難しいという、反対方向から見ても明らかなのが、大損は避けられるということです。どうすればいいか。この場合は、下抜けでの損切りです。

 損切りは、損の拡大を防ぐために行います。下抜けなどで、評価損が拡大しそうな時には、損切りにより、損失をミニマムに抑えることができます。これは、明らかなメリットです。

 ここで注意したいのが、損の拡大がそれほど懸念されないような時には、損切りによる損失確定はデメリットでしかないということです。そのような場合には、損切り価格が最安値となり、その後、急騰するようなことも起こります。

 難しいですよね。難しいので、私も一般的にお話しする場合には、「損切りは最も大切だ」と申し上げています。兎にも角にも、損失の拡大を防ぐことが大事だからです。しかし、個別のケースバイケースのご質問には、損切りは重要だが、損切りオーダーは、メリットよりも、デメリットの方が多いと申しています。

 損切りと、損切りオーダーの、どこが違うのか?

 損切りはあなた自身が行います。損切りオーダーの損切りは、あなたが託した業者が行います。ここが決定的な違いです。

 あなたが行う損切りは、下抜けなどで、評価損が拡大しそうな時に行います。業者が行う損切りは、下抜けなどで、評価損が拡大しそうな時だけでなく、損の拡大がそれほど懸念されないような時にも行います。むしろ、業者にとっては、そのような時に損切りオーダーをつけることが、大きなメリットとなるからです。あなたのオーダーは最安値で執行されます。買うのは、その業者です。

 例えば、あなたが104円99銭に損切りの売りオーダーを置くとします。105円台には買いオーダーが並んでおり、105円台は守られそうな雰囲気であったとします。

 そういった時、ディーラーは105円の買いオーダーを潰そうと、売りで攻めます。そして、一瞬でも105円を割り込めば、損切りオーダーが執行されます。ディーラーは自らの売りポジションの買い戻しを、あなたの損切りオーダーで行うことができます。特にロンドンのディーラーには、そういったことで食っている人達が大勢いるのです。その後は、105円近辺で買いたいと思っていた人が続々と表れて、場合によっては急騰します。そうでなくても、安く買っていれば、どこかで利食えます。最安値で売ったのはあなた。最安値で買えたのは、あなたが託した業者です。

 私の場合には、東京の外資系に勤めていた頃、同じ会社の仲間だからとロンドンやニューヨークに預けていた損切りオーダーが、そのように食い物にされることが続いたので、105円などのレベルに来た時に起こして貰うように改めました。

 私はそれ以降、寝る時にはポジションを軽くし、ここを超えたら大動きが予想されるようなレベルで起こして貰いました。そうすると、損切りをする必要がないどころか、そこから攻めの買いを入れることも可能となりました。

 個人投資家の方々は、夜中に起こして貰うことは難しいと思います。その場合のリスク管理は、眠る時にはポジションを持たないか、仮に大きくやられても、許容できるような小さなポジションにするかだと思います。

 リスク承知の損切りオーダーを入れてでも、明日は必ず上がると思えるような相場環境は、それほど多くないと思います。


2016年6月15日 記

矢口 新(やぐち あらた)
アストリー&ピアス、野村證券、グリニッジ・キャピタル・マーケッツ、ソロモン・ブラザーズ、スイス・ユニオン銀行などで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤める。2002年5月株式会社ディーラーズ・ウェブ創業。2013年4月まで同社代表取締役社長。JTI(Japan Trading Intelligence)初代(2003-7年)代表。


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