【特集】よみがえる「バイオ相場」、iPS新展開で再びの“高値”<うわさの株チャンネル>
ヘリオス <日足> 「株探」多機能チャートより
―現れたオアシス、他家iPS細胞で新たなステージへ―
東京株式市場ではどうにも売買代金が盛り上がらず、閑散相場を絵に描いたような展開が続いている。しかし、そうしたなか、テーマ買いの流れに乗って局地的に大活況を呈しているセクターもある。「iPS細胞」をキーワードに、にわかに活気を取り戻しているバイオ関連株がそれだ。
物色人気再燃の引き金となったのは、週明け6日に理化学研究所が、自家iPS細胞だけでなく、他家iPS細胞を使って網膜の細胞を作製し、目の難病である「加齢黄斑変性」患者に移植する世界初の臨床研究を開始すると発表したことだ。
これは京都大学iPS細胞研究所などと「滲出型加齢黄斑変性に対するiPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植に関する臨床研究」の実施というかたちで発表され、複数のメディアでも大きく取り上げられた。手掛かり材料難にあえぐ東京市場にとっては「砂漠の真ん中に突如現れたオアシスのようなもの」(国内中堅証券営業マン)で、はからずも個人投資家を中心とした投資マネーがこれに飛びつく格好となった。
今回の新たな臨床研究では、「加齢黄斑変性」の患者本人の細胞のみならず、京都大学iPS細胞研究所で作製された他家iPS細胞を用い、網膜色素上皮(RPE)シートおよびRPE細胞懸濁液による移植が行われる予定となっている。
●ヘリオスに恒星の輝き、iPS相場を先導
これを受け、シンボルストックとして真っ先に買いが集中したのがヘリオス <4593> [東証M]だ。同社は理化学研究所から特許ライセンスを受け、iPS細胞技術を使って加齢黄斑変性の治療薬を開発するバイオベンチャーであり、他家由来のiPS細胞を用いた治療法実用化への取り組みに対し、市場の注目度も高い。再生医療の研究で業界を先駆する大日本住友製薬 <4506> との連携も強固で、iPS細胞から作製した肝細胞を移植して肝臓を再生する新しい治療法実用化にも横浜市立大学と共同で取り組むなど積極的だ。
ヘリオスに負けじと他の有力関連株も急動意。iPS細胞関連の試薬を手掛け、京都大学iPS細胞研究所と共同研究契約を締結しているリプロセル <4978> [JQG]や、バイオシミラー(後続品)に経営の軸足を置き、国内初となる他家由来の再生医療品を発売して市場の注目を浴びるJCRファーマ <4552> などが値を飛ばしたほか、iPS細胞の作製技術に関する特許を日米で取得し、作成キットを販売展開するアイロムグループ <2372> 、さらに国内で他社に先駆け皮膚などの再生医療製品販売を行うジャパン・ティッシュ・エンジニアリング <7774> [JQG]なども物色資金を呼び込んだ。これらの銘柄は、今の市場では人気度上位である。
市場では「東証1部の銘柄は外国人投資家が離散している状況で、短期的なリバウンドはあっても自律反発で終わりやすい。足もとの収益実態には目をつぶって夢のあるテーマを追いかけるムードが年初から続いている」(準大手証券マーケット支援部)という。
もっとも、テーマ買いの動きは新興市場銘柄が中心で、今は行き過ぎた反動でパニック的な売りにさらされることも多く、パソコン画面にはりつくデイトレでなければ対応しにくい相場とも指摘されている。しかし、「iPS細胞関連は材料の宝庫で、単発でハシゴを外されるようなリスクに乏しい」(同)のが今回買い人気が継続する背景にあるようだ。
●飛躍的に拡大する再生医療マーケット
iPS細胞は今から10年前に京都大学の山中伸弥教授が作製に成功している。山中教授が2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞したことで一躍脚光を浴びた。再生医療の市場は世界ベースで20年には1兆円規模になると予想され、さらに30年には12兆円規模にまで拡大するとも予測されているが、この再生医療の切り札として期待を担っているのがES細胞やこのiPS細胞である。
また、iPS細胞は創薬分野でも注目を集めてきた。iPS細胞で再現したヒトの細胞レベルでの効用や副作用、安全性などを確認できれば、これは新薬を作る過程で飛躍的な近道となるからだ。大手製薬メーカーにとっては垂涎(ぜん)の技術であり、京都大学iPS細胞研究所に10年間で総額320億円規模の研究支援を行う武田薬品工業 <4502> などの動きはそれを裏付けている。
倫理問題をはらむES細胞では慎重な姿勢をみせてきた政府も、iPS細胞分野の研究開発に対しては全力支援の構えだ。安倍政権では13年から22年度までの10年間で再生医療および創薬研究に約1100億円の予算をつけている。また法律面の後押しも見逃せない。14年11月に再生医療の実用化を目指す「再生医療安全確保法」と「医薬品医療機器法」(旧薬事法)の関連2法が施行されており、再生医療分野の研究および医薬品の開発強化に乗り出す企業をバックアップしている。この特例的な法整備により条件付きで早期承認が可能となり、結果的に再生医療実現に向けたシナリオが加速することになった。
●合従連衡が加速、注目企業が続々
民間企業の動きも風雲急の気配にある。前述した武田薬品工業に加え、既に富士フイルムホールディングス <4901> 、タカラバイオ <4974> などがM&A絡みでiPS細胞分野へ経営資源を積極注入しており、今後も折に触れて話題を提供しそうだ。
このほか株価変貌の可能性を秘める要注目株としては、京都大学iPS細胞研究所と関係密接な新日本科学 <2395> やラクオリア創薬 <4579> [JQG]、大阪大学と共同研究を進めiPS細胞の培養に適した足場材の製造法を確立しているニッピ <7932> [JQ]、核酸医薬と抗体医薬の中間的特性を有するアプタマー医薬開発に特化し、iPS細胞の純化に絡む新技術開発で期待されるリボミック <4591> [東証M]などがマークされる。
細胞シートを手掛けるセルシード <7776> [JQG]や神経機能を再生する作用を持つ再生細胞薬「SB623」に注目が集まるサンバイオ <4592> [東証M]なども目が離せない銘柄だ。
また今回、ここまで挙げてきたiPS細胞関連とは範疇(ちゅう)を異にするが、加齢黄斑変性の治療に取り組むアキュセラ <4589> [東証M]の動きも、足もとのバイオ関連相場に大きな影響を与えた。同社は「滲出型」ではなく「ドライ型」の加齢黄斑変性治療薬(経口タイプ)に照準を合わせているが、今回、同社開発の「エミクススタト塩酸塩」の臨床試験で有効性が確認できなかったことを受け、5月下旬から連日ストップ安ウリ気配で株価が短期間で7分の1となる暴落の憂き目にあっていた。その後、SBIグループが買い増しに動いたことが、株価大反騰の足掛かりとなったようにも伝えられるが、実態は理研の発表を契機に潮流が変化したバイオ関連相場全体の動きに乗ったとみるほうが正しいだろう。
加齢黄斑変性治療薬は将来的には3兆円市場に拡大するとみられており、iPS細胞関連のテーマ性と合わせ、同分野は今後もマーケットの耳目を集めるところとなりそうだ。
(中村潤一)
株探ニュース