【特集】“6655億円”買収が起こす医療機器業界「地殻変動」 <株探トップ特集>
富士フイルム <日足> 「株探」多機能チャートより
―キヤノンの東芝メディカル買収余波続くか―
3月17日、キヤノン <7751> が東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)の子会社化を発表した。東芝 <6502> が経営再建の一環として、医療機器子会社である東芝メディカルの売却を進めるなか、国内外の企業が参加した入札の結果、キヤノンが約6655億円で取得した。これにより医療機器業界では地殻変動が起きており、今後新たな動きが出てくる可能性も高い。
同入札に関しては、国内企業ではコニカミノルタ <4902> や富士フイルムホールディングス <4901> グループなども応札したが、最終的にはキヤノンに軍配が上がった。キヤノンでは、医療機器分野で眼底カメラなどを手掛けているが、その規模はまだ小さい。ヘルスケア事業を次世代の柱の一つとして掲げる同社にとって、コンピューター断層撮影装置(CT)の国内トップで、X線診断システム、磁気共鳴画像装置(MRI)など幅広い製品群を有する東芝メディカル買収の意味は大きく、買収金額の大きさも同社の意気込みの強さを表している。
●医療機器は成長が見込まれる分野
医療機器業界は、成長が見込める分野だ。高齢化の進展に伴い医療ニーズが高まっていることに加えて、世界的にも先進国の高度医療への需要の高まり、新興国における医療高度化の進展などがその背景にある。
厚生労働省薬事工業生産動態統計によると、わが国の医療機器の市場規模(国内売上額)は2002年以降増加し、14年は過去最大の約2兆8000億円となった。対前年伸び率は年によって変動しているものの、過去20年の平均成長率は約3.0%であり、比較的景気に左右されずに成長している。
一方、国内売上額に占める輸入額の割合は49%強に達し、輸入超過で推移している。医療機器は治療系と診断系に大別できるが、CT装置や内視鏡など診断系では国内メーカーが優位を保っているものの、カテーテルやレーザー治療器など治療系では輸入依存度が高い。欧米主要メーカーが医療機器と医療サービスをパッケージとした積極的な海外展開を推進していることなどが要因だが、今後、こうした海外勢と国内外で対抗するためにも医療機器業界で再編が進む可能性がある。
●注目される富士フイルムの動向
こうしたなか、注目されるのが富士フイルムの動向だろう。同社では、インフォメーションソリューションとして、FPD用材料などのほか、医薬品やX線診断装置、内視鏡などの医療機器を手掛けるヘルスケア部門を持っている。M&Aを活用し事業領域の拡大を図ってきた経緯から、今回の東芝メディカル買収でもキヤノンと最後まで争奪戦を繰り広げたが、医療機器が手薄のキヤノンのほうが、独占禁止法の審査が早く済むと見られたことが、今回の結果につながったといわれている。
ただ、東芝メディカル取得は逃したものの、富士フイルムも今後さまざまな対策をとることが予想される。新たなM&A戦略が打ち出される可能性もあり、医療機器業界の再編劇はまだ始まったばかりだ。
●リコーは横河電から脳磁計事業を買収
また、業界再編といえば、3月に横河電機 <6841> から脳磁計事業を買収すると発表したリコー <7752> では、今回の買収により14年から開発に取り組んできた生体磁気計測装置(脊磁計)の開発加速が期待されている。同社では、10年以内に自社開発品を投入し、25年にはヘルスケア事業で500億円の売り上げを目指すとしているだけに、今後もM&Aを積極的に行う可能性があろう。
さらに、血球計数装置国内トップのシスメックス <6869> と、医療用検査装置の開発を進めるJVCケンウッド <6632> の動向にも注目。このほか、X線診断装置や血管撮影システムを手掛ける島津製作所 <7701> 、血液透析装置国内最大手の日機装 <6376> 、眼底カメラのトプコン <7732> 、超音波診断装置のコニカミノルタに、既に業界内での地位を確立している内視鏡のオリンパス <7733> 、カテーテルのテルモ <4543> などが関連銘柄としての注目度が高いだろう。
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