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2016年10月25日20時20分

武者陵司のストラテジーブレティン 「アベノミクス第二弾の株高が始まった」 <前編>


―天地人が揃った、日本の負のバブル是正大作戦―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1)世に満つる日銀批判こそ株高の引き金に

●マイナスバブル是正の威力甚大

 アベノミクスで日経平均株価は8000円から2万円へと2.5 倍になったが、その第二弾が始まろうとしているのではないだろうか。2020年日経平均3万円程度の、大きな上昇波の可能性が強まったと考える。

 仮に配当が現状と変わらないとすれば、配当利回りは現在の2%から1%に低下するが、それでも0%の長期金利や預金よりよほどよい。2020年まで高株式配当とゼロ長期金利がロックされていると考えれば、どれだけ大きな裁定投資機会が存在するか、自明であろう。

 そうなれば株式時価総額は現在の500兆円(対GDP比100%)から約1000兆円へと増加する。今後4年間でGDPとほぼ同額の株式価値が増加するとなれば、そのインパクトは絶大、消費者や投資家心理を劇的に変化させ、名目GDP600兆円の政府目標の達成は容易になるであろう。

●イールドカーブ制御は金融政策の進化、成功する公算大

 今回も転換の引き金は政策、特に金融緩和である。イールドカーブ、つまり短期だけでなく長期金利も日銀がコントロールするという今回の日銀政策の評判は散々である。故に成功した時のサプライズは大きいと思う。そして成功する確率は高い。なぜ評判が悪いのかと言えば、それが正しいとはどの教科書にもこれまでの日銀の主張に照らしても書いてないからである。市場が決める証券価格を日銀が決められるのか、決めていいのか。皆がノーと言ういわば暴論である。

 そうした批判を百も承知の上で日銀は、新政策に踏み出したが、それはデフレ脱却を確かにする最適の政策と判断したからである。ここに日銀と市場やアカデミズム、メディアとの大きなパーセプションギャップ(認識のずれ)が存在している。このパーセプションギャップの存在は、そのまま双方がフェアバリューと考える値に大きなギャップが存在していることを意味するから、大きな投資チャンスにもなる。

●インフレに先行する資産インフレ

 それでは日銀は何を狙っているのか、と言えば(立場上明言できないが――明言したとたん批判の嵐が起こり政策は維持できなくなる――)資産インフレを狙っている、のであろう。

 そもそも金融政策がインフレやデフレを引き起こす際に、必ず先立って資産価格が変化している。1990年からの日本ではまず1989年末に金融引き締めが起き、直ちに株式の、そして2年後の1991年に不動産価格の急落が起き、CPIがデフレに陥ったのはそれから9年後の1998年であった。また米国ではリーマンショック以降、量的金融緩和政策により、株式、不動産住宅価格が顕著に上昇し、家計消費増加の推進力となった。インフレを起こすためには、その前にまず資産インフレを起こすことが必要なのである。

 それでは、本来市場が決めるはずの資産価格を中央銀行が決められるのだろうか。日銀は決められると踏んでいる。それはQEによって可能になったと言える。日銀のバランスシートが黒田QEを始める直前の150兆円では不可能であっただろう。しかし、今の460兆円なら十分に可能、それは日本のGDPにほぼ相当、国債発行残高の約半分に達しているのである。ということは、今回のイールドカーブターゲティング、長期金利をほぼ0%に固定するという新政策は、QEの進化形と言える。

●株価押し上げ政策は正義

 しからばそうした資産価格押し上げ政策は正しいのかどうかだが、今回に限ってみればそれは正しい。日本には過去最高水準の企業業績(=価値創造)が存在し、かつ世界最大級の巨額の資本蓄積が存在している。それなのに20年にわたってデフレが続き経済が停滞、人々の生活も改善してこなかったのは、両者を結びつける金融市場がリスクキャピタル提供の場として全く機能してこなかったからである。

 企業の株式配当利回りは2%、これにほぼ株価の1%の自社株買いを加えれば、企業は株価に対して3%のキャッシュを株主に還元している。他方、現金・預金・国債のリターンはゼロないしマイナスであり、圧倒的貯蓄はリターンゼロのいわゆる安全資産に寝ている。金融市場が潤沢な貯蓄を投資につなげ、投資家・家計に十分なリターンを提供することなくして、経済の正常化はない。資産価格の押し上げはそれを実現するうえで必須である。それの是正が日本復活のカギを握っているのならば、日銀新政策は正しいと言える。

●デフレの結果の低欲望を所与とする、日銀批判意見

 日銀の政策批判の中心に金融政策による需要創造は無理という議論がある。例えば批判派の旗頭の一人である翁邦雄京都大教授は一連の超金融緩和政策は「人口減で長期需要が減っている住宅を前倒しで建てるようなもので将来需要の先食いだ」「資源量が減っている魚の漁獲量を維持するために網の目を細かくする漁法と似ている」とのわかりやすい事例で批判している(10月3日日経新聞経済教室「金融政策の総括検証の評価~枠組みの正当化に終始~」より)。

 しかし、日本人の欲望水準(=潜在需要水準)がとりわけ低いのは、住宅や人々のライフスタイルの貧しさを海外と比較すれば一目瞭然であり、そこに改善の余地は大きい。また欲望水準を引き下げた大きな原因の一つが、世界には例を見ない、また不当な長期にわたる資産価格下落があったこと(同時に金融市場が長期にわたって機能不全に陥っていたこと)、は明白である。多くの経済学者やオピニオンリーダーがこの事実を全く看過していることはまったくもって不可解と言う他はない。

●リスクテイクを後押しする金融庁

 日銀のラディカルな政策は、日銀単独のものでは無く、アベノミクスの一連の政策と連携していることは強調されるべきである。「貯蓄(ゼロリターンの現金・預金・国債)から投資(株・不動産・外貨資産)へ」というスローガンがその中核にある。

 森金融庁長官はWSJ紙のインタビューに答えて、次のように述べている。「バブル崩壊後の日本は過剰な規制と資本基準の強化により銀行のリスクテイクマインドを奪い金融市場が機能しなくなった。銀行や投資家にリスクを取らせるよう誘導することが金融政策の最優先課題だ。世界各国は日本の誤りを繰り返してほしくない。」(2016年8月3日)。

 リスクテイク抑制からリスクテイク促進へ、金融行政のコペルニクス的転換が起こっているのである。それは政策当局による株価押し上げイニシアティブにもなる。日銀によるETF買い入れ倍増(3.3兆円から6兆円へ)、金融庁などの主導によるGPIFやゆうちょ銀行 <7182> 、かんぽ生命保険 <7181> など公的機関投資家の改革は株式需給を大きく変化させつつある。2014年、2015年に導入された企業統治改革(コーポレートガバナンス改革)、機関投資家統治強化(スチュワードシップコード制定)はリスク資産投資への資本誘導を行う上での制度改革である。

 こうして登場した国内の公的・民間機関投資家という新たな買い主体は、外国人売りが一巡した後は大きな株高要因となるだろう。

●負のバブル(=金融市場の機能不全)の是正は必須

 株式需給における当局の役割の増大をPKO=当局による市場操作と批判する論調も目立っているが、それが正しいとは思われない。

 1989年末、日銀は利上げと窓口融資規制によりバブル潰しの引き金を引いた。当時債券利回りは8%と高かったが株式益回りは2%以下(PER50倍以上)、配当利回りは0.5%と著しく低く、明らかに異常な資産バブルが発生し投機が蔓延していた。換言すれば金融市場は適切な資源配分の場として機能しなくなっており、日銀のバブル潰し政策は正当な政策といえた。

 ただ日銀はその後20年にわたって株価、不動産価格下落を放置・容認し、今ではマイナスのバブルと言える状況となっている。株式益回り6~7%、配当利回り2%に対して、預金金利、国債利回りは0%とリターンギャップは著しい。このマイナスのバブル、つまり実物経済には十分なリターンが存在しているのに極端なリスク回避により不当に株安、不動産価格安が放置されている状況も、1990年当時と同様、金融市場が機能不全に陥っていることを示している。であれば当時と同様に日銀が政策介入して資産市場を是正することは、至極当然と言える。

●日本の資産下落は世界中で異常である

 日本の長期資産デフレは極めて異常なものである。日本のリスク資産時価総額(土地と株式の時価総額)の推移を辿ると、1989年の3150兆円から20年にわたって減少を続け、ようやく2014年に1550兆円で底入れをしたが、その間1600兆円の富が失われた。この富の減少の過半800兆円以上は不必要な、過剰な値下がりであり、日本企業と消費者に多大な重荷をもたらした。企業や金融機関は本来不必要な不良債権処理や減損処理を迫られ、その犠牲は賃金に転嫁された。

 この日本に対して諸外国のバブル処理は全く異なっている。住宅価格の国際比較では、2006年ごろにかけて形成された世界的住宅バブルが崩壊したが、下落はほんの数年で住宅価格は大きく回復していることが分かる。20年間の資産価格下落は日本だけの際立った現象であり、その間金融政策が大きな負の役割を果たしていたのは明白である。

 しかし逆に考えれば、不当な資産価格の是正だけで国民の資産価値が500~1000兆円規模で増える、つまり日本には巨額の埋蔵金が眠っているということでもある。当社は2010年ごろからこれを強く訴えてきたが、ようやく政策がそこに切り込み始めたのである。(※後編に続く

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