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【市況】武者陵司のストラテジーブレティン 「アベノミクス第二弾の株高が始まった」 <後編>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

―天地人が揃った、日本の負のバブル是正大作戦―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(※前編から続く)

(2) 米国で始まる金利上昇とドル高転換

●歴史的金利低下は米国主導で転換へ

 金融市場が機能しなくなっているという現実は、日本ほどでないが先進国に共通の新現象である。その象徴は歴史的な長期金利の低下である。Brexitを契機に英ポンド金利が急低下したことにより先進国でまともな長期金利がついているのは米国だけとなった。その米国でも景気堅調にもかかわらず海外からの資金流入により金利低下圧力がかかり、危険視されてきたジャンク債や新興国債などにも、しびれを切らした資金が流入し利回りは大きく低下している。

 まさに空前の余剰資金がイールド(利回り)を求めて世界中を徘徊しているのである。主要国では長短金利が等しくゼロとなり、確定金利資産間の利ザヤを収益の源泉としてきた伝統的銀行ビジネスが世界的に成り立たなくなっている。

 だが、これを資本主義の危機に結び付けるのは早計である。企業収益は好調であり、高いリターンは債券の外においては、株式や不動産には潤沢に存在している。株式の配当利回りはすべての先進国において国債利回りより著しく高くなっている。最も健全と見られる米国においてさえ、企業は株価に対して2%の配当と3%の自社株買いの合計5%を株主に還元しており、それは1.7%の長期金利の3倍以上というギャップがある。問題は企業の稼ぐ力、価値創造にあるのではなく、稼いだ資金を適切に配分する機能を損なっている金融市場にある。

 こうした新事態に迫られて、過去の例や常識の枠から離れた非伝統的金融緩和政策が進化した。いち早くラディカルなQEを導入した米国は、資産価格の押し上げに成功し、先進国世界で唯一流動性の罠を回避、金融市場が機能している。株式や住宅不動産などのリスク資産への資金誘導は中銀の非伝統的金融政策(量的金融緩和やマイナス金利など)の目指すところであり、米国ではそれが最も有効に機能してきた。

 リーマンショック以降、米国株式、不動産住宅価格が顕著に回復し、家計の資産内容が著しく改善した。家計純資産はリーマンショック直前の2006年68兆ドルをピークに2010年には55兆ドルへと急減したが、資産価格の急回復により2016年1Q末には88兆ドル(対家計可処分所得比6倍)へと増加し、家計消費増加の推進力となった。資産価格上昇→家計消費(特にサービス)増加→雇用・生産回復→企業と家計の所得増加という好循環が定着し、完全雇用と2%インフレ目標というFRBの政策使命(mandate)がほぼ達成されつつある。

●2017年財政出動で米景気加速、ドル高、長期金利の緩慢な上昇へ

 中国経済情勢の一定の安定化、新興国情勢の安定化、Brexitの織り込み、米大統領選挙の不確実性の低下、などにより、再度グローバルリスクオン、イールド・ハンティングの趨勢が強まっているが、大統領選後の米国経済には期待が持てる。2017年に(1)成長・投資の加速、(2)資金余剰の減少、(3)FRBの利上げ、(4)財政出動が相まって、長期金利が緩やかな上昇に転じ、利潤率と利子率の乖離が縮小しはじめ、イールド・ハンティング機会が低下する、と想定される。

 すると世界的余剰資本は円高一巡後の日本に向け、大きく押し寄せるのではないか。米国で2017年~18年にかけて量的金融緩和→資産価格上昇→成長軌道復活→中銀の利上げと長期金利上昇、というデフレ危機脱却の先行例が完成するのではないだろうか。それは日欧など他の先進諸国にも伝播していくと期待される。

●再びケインズ政策の時代へ

 米国では金融政策が有効に機能してきたが、いよいよ財政の出番が近づいている。次期大統領候補は民主党のクリントン候補、共和党のトランプ候補ともに、余剰資金を活用した積極的財政政策を政策アジェンダとして挙げている。米国ではインフラの老朽化が進んでおり、財政赤字もGDP比10%(2010年)から2%台(2015年)まで低下しており、長期金利は空前の低さ、となれば絶好のケインズ政策環境と言える。

 こうした財政金融面での資本余剰の循環は長期金利を緩慢ではあっても上昇させ、潜在成長率を引き上げていくだろう。そうなると長期株高、ドル高の展望が開けることになる。中国リスクをにらみつつも、中長期強気スタンスが適切ではないか。

 なお、中国は財政金融総動員の弥縫策により、失速回避に成功している。それは長期的には困難を一段と高めるが、短期的にはリスクを封印する。資本コントロールの強化により外貨準備高の減少も限定的で、元暴落の可能性は小さく、中国要因がグローバル危機の引き金を引く可能性は当面排除できる。

(3)日本のファンダメンタルズ順調、日本株式大上昇局面へ

●超悲観の市場心理は急騰の前兆

 これまで世界株高進行にもかかわらず日本株式投資家は極端なリスク回避姿勢にあった。その顕著な例が裁定買い残の歴史的な水準までの低下であり、人々は極端に日本株投資を毛嫌いしてきた。しかし、過去歴史的な水準に裁定買い残が低下した直後には、必ず株式の大きな反発がもたらされている。ファンダメンタルズが悪くないのに、人々は過度の悲観論にとらわれているということであるから、これから先の株価反発の需給条件は整えられているということである。

●20年ぶりの復元、GDP>金利

 日銀の新金融政策を成功させる条件が整っている。前回レポートしたことであるが、最も重要な基礎は、経済の実勢である名目GDP成長率と、そのコストである名目長期金利の関係であろう(名目成長率と名目金利の関係は、実質成長率と実質金利との関係と同義である)。その関係はアベノミクス/量的金融緩和導入前と、後とでは全く変わっていることが明らかであろう。
 アベノミクス前の20年間(1992年から2012年まで)は金利>GDP成長率の関係が続き、金利(=信用)が経済成長の制約要因であったことが明らかである。しかし2013年以降、両者の関係は GDP成長率>金利とはっきりと逆転し、金利(=信用)が経済の促進要因になっていることが明らかである。この関係が持続できれば、リスクテイカーが報われ、経済は拡大好循環に入っていくだろう。

 ちなみに健全な信用創造が続きデフレに陥っていない米国では、リーマンショックの一時期を除きGDP>金利という関係が維持されている。日本と米国の経済の地力に対する金利の水準が著しく異なっていたことが、日本のデフレの原因であったとすれば、その原因はすでに解消されている。2013年以降、3年間続いたGDP>金利の関係が持続できれば、リスクテイクマインドの復元とリスクテイクの果実の好循環を定着させることができる。

●ファンダメンタルズ、すべてが上向きに

 そのもとで、ファンダメンタルズが着実に改善している。2013年以降、雇用者数は増加、労働需給はタイト化し、ようやく賃金上昇が定着し始めている。不動産需給も改善し、賃料が値上がりする局面にある。企業収益も円高一巡により堅調が見込まれる。28兆円の財政出動、中国経済の小康状態化、商品市況の底入れ、世界貿易の底入れと緩慢な回復、米国経済の堅調、等の環境の下で日本の実質GDPの1%程度までの回復はエコノミストのコンセンサス(ESPフォーキャストでは0.9%)となっている。

 また円高一巡、原油価格上昇により一時的にマイナスとなったCPIが2017年には1%程度まで回復することもほぼ見えている。

●米新大統領の下での地政学も追い風に

 依然として為替市場では円高論者が多数派であるが、円高論者の多くが日本株に悲観的な見方をしている。しかし、仮に日本株高が始まれば、それはリスクテイクの円安要因となる。

 加えて前回レポートしたように、次期米国大統領は地政学理由から過度の円高を受け入れないということを合わせると、ここ10ヵ月余りの円高は終焉したと考えられる。

(2016年10月25日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン170号 天地人が揃った、日本の負のバブル是正大作戦」を転載)

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