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【緊急特集】日銀サプライズ利上げは崩壊の序曲か、円高加速で激変する風景 <株探トップ特集>


―「量的引き締めと政策金利引き上げ」の同時遂行で日経平均の本格調整も視野に―

 「金利のある世界」―当たり前の話ではあるが、日本は長きにわたりその世界から隔絶されていた。その解消に向けて日銀はいよいよ本気の一歩を踏み出したといってよい。マーケットの視線が集中した日銀金融政策決定会合の結果が、31日の昼過ぎに発表された。昼過ぎとはいっても午後1時近くまで公表されず、市場関係者をやきもきさせたが、「開示が遅れる時は政策変更のある時」(中堅証券ストラテジスト)という言葉の通り、日銀は追加利上げを決定、これまで0~0.1%としていた政策金利を0.25%に引き上げ8月1日から適用することを発表した。たかが0.25%とはいえ、これはリーマン・ショック直後の2008年12月以来15年7カ月ぶりの水準であり、デフレの長いトンネルを走り続けた日本経済の歴史的転機を示すメルクマールともいえる。

●驚きの“タカ派路線”チェンジ

 事前の大手メディアへのリークで株式市場は朝方取引開始前から日銀の政策修正を織り込む流れにあったものの、前日時点では市場関係者の多くは今回の決定会合での利上げは見送られるという見方が支配的であった。植田和男日銀総裁は、これまでの経緯で政策変更に極めて慎重で緩和的姿勢を貫いてきたが、それだけにこのタイミングでの“タカ派変貌”に驚きを持って受け止める関係者も少なくない。国債買い入れの減額計画については、前回の会合で“宣言済み”で、その減額規模も四半期ごとに4000億円程度減らし、26年1~3月に月3兆円程度、つまり現在の6兆円から半減させる計画を決めており、これは事前コンセンサスとほぼ合致した内容だ。

 しかし、「今回の会合で量的引き締めと利上げを同時に行ったことは、かなりのインパクトがある」(ネット証券アナリスト)とする声も聞かれる。日銀が景気先行きに対する自信を持ったことの証ともいえるが、やや前のめりとなっている印象は拭えない。

●本丸は円安是正にあり?

 何を拠りどころに景気の好循環を判断するかといえば、それは「賃金・物価・個人消費」が3点セットだ。物価の上昇基調だけでは不十分で、消費が冷え込んだままでモノやサービスの値段が上がり続ければ、それは好循環どころかスタグフレーションの泥沼に引きずり込まれることにもなりかねない。

 「最大のポイントは賃金が物価に見合う上昇を継続することが肝要となるが、大企業中心の判断となりがちで、99%以上がシワ寄せを受けやすい中小企業という日本において、先行き持続的な賃金上昇が続くのかどうか心許ない」(生保系エコノミスト)という指摘もある。その一方で、「今回は背に腹は代えられないという背景もあった」(ネット証券アナリスト)とする声もある。アベノミクス体制下で確立されたアコード(政府と日銀の政策協定)の流れで、日銀は足もとで進行する円安進行を何としても食い止める必要性に迫られていた、ということだ。

 ここで、やや無理気味でも追加利上げに動くことは、小手先の為替介入ではなく円安是正に向けた最善の選択肢となり得る。その伏線はあった。岸田首相、河野デジタル相、茂木幹事長など党幹部が、公の場で利上げ要請ともとれる発言を行ったが、「これは日銀との間で事前調整があったことを物語る」(同)という見方だ。

●周回遅れの引き締め政策に吹く逆風

 なお、同日発表された「展望リポート」では、今年度の生鮮食品を除いた消費者物価指数(CPI)見通しを2.5%、25年度を2.1%、26年度を1.9%としている。更に実質GDPについては、24年度が0.6%、25年度を1.0%、26年度を1.0%とした。今年度のCPI見通しについては前回が2.8%であったから、そこから0.3%の下方修正となっている。だが、問題はこれが一時的な物価上昇にとどまらないという前提に立った場合、当然ながら政策金利は今の水準では話にならないということになる。

 世界を俯瞰すれば、各国はくしくもインフレ懸念から経済のハードランディング懸念に警戒の対象を変え、挙(こぞ)って利下げのカードを切り始めた。周回遅れで利上げに乗り出した日銀だが、世界経済が減速局面に晒されるなか、皮肉にも英断をもって踏み込んだ政策姿勢を持続できる期間は意外に短い可能性がある。

●株高は日銀の利上げ“ウェルカム”ではない

 株式市場では朝方は日経平均株価が大きく下値を探る展開を強いられ、寄り後早々に570円あまりの急落で3万8000円台を割り込む場面もあった。しかし、前場取引終了時点では156円安まで下げ渋り、個別株ベースでは値上がり銘柄数が値下がり数を大きく上回り全体の6割を占めていた。これは日銀の“利上げウェルカム”という意味合いではなかったはずだ。その証拠に日銀の追加利上げ発表後に、最初は前日終値を挟んで上下動を繰り返し、方向感の定まらない動きをみせていた。いったんはショートポジションを組んでいた向きのアンワインドが入りプラス圏に切り返したものの、それに続く買いが入ってこない状態。ひとことで言えば消化難である。これは為替市場も同様で目まぐるしく1ドル=152円台前半から153円台後半を往来する展開だった。

 しかし、日経平均は取引終盤になって目が覚めたように上値指向を強め、結局575円高で着地。朝方に売り叩かれた局面でみせた下げ幅と同じで、いわゆる“倍返し”の上昇となった。これについては「日銀の利上げ前倒しを受け材料出尽くしで買われたというわけはなく、バイデン米政権が対中半導体規制で日本(と韓国)を除外すると伝わったことが、指数寄与度の高い半導体関連株への買いを加速させたことによるもの」(ネット証券アナリスト)とする。実際、東京エレクトロン <8035> [東証P]とアドバンテスト <6857> [東証P]の2銘柄だけで日経平均を280円近く押し上げた。もっとも、このタイミングで半導体関連に最上級の好材料がマーケットを巡ったことは、日銀にすれば僥倖(ぎょうこう)であったともいえる。

 だが、日銀金融政策決定会合というビッグイベントを通過して相場のトレンドが変わったと判断するのは時期尚早の可能性がある。むしろ株価の本格調整の入り口に立っているケースも考えられる。きょうは株式市場の取引終了後に外国為替市場で再び急激な円高が進行しているが、企業の決算発表が本格化するなか輸出企業の今後の業績見通しには少なからぬプレッシャーとなっていく。このタイミングであすにトヨタ自動車 <7203> [東証P]の決算発表を控えていることも何やら暗示的だ。更に、日本時間あす未明に判明するFOMCの結果とパウエルFRB議長の記者会見も注目され、まだいくつも越えねばならない高いハードルが眼前に控えている。

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