【株探記者・特別座談会】マーケット記者が見る日経平均4万円時代 今後の相場展望と注目銘柄(前編)
─AI半導体相場の「賞味期限」や転機となるイベントなど議論白熱、5年後の日経平均7万円説も─
日経平均株価が史上最高値圏で推移している。振り返れば今年の大発会の1月4日は能登半島地震や羽田空港の航空機事故の発生を受けてのスタートだった。午前中に前年末終値から一時770円安となったが、この時の安値3万2693円から2ヵ月あまりで7000円を超す急騰劇を私たちは目の当たりにした。このまま4万円台で上昇を続けるのか。それとも「天井近し」とみるべきなのか。マーケットの最前線で取材業務に携わる株探・日本株担当の記者有志が集まり、それぞれの相場観や有望株について語り合った。前編では全体相場の今後の展望について議論する。
●年始からの急騰劇、漢字1文字で表すと…
──史上最高値を日経平均が更新して更に4万円に乗せました。今回の座談会では、その率直な受け止めとみなさんの相場観、更に注目すべき銘柄について議論できればと思っています。まず、今回の相場の受け止めですけれども、ずばり漢字1文字で表すとすると、いかがでしょうか?
キャップ:マインド的には「愕(がく)」です。少なくとも2024年相場の前に、この時期の最高値更新が想定通りと言える市場参加者はいなかったと思います。私もその一人で、月並みだけれど驚いたとしかいいようがありません。企業の利益や純資産などフローとストック両面から判断して日経平均は水準的には全く否定されるべき要素はないのですが、買われ方、上昇スピードにはこれまでの感性を破壊されるぐらいのインパクトがありました。ただし、TOPIX(東証株価指数)の最高値更新こそが、真の意味でのデフレ脱却です。その意味ではまだ本物とは言えないと思います。
記者A:バブル時最高値の3万8915円は、あまりにも長い間、「夢のまた夢」の数字でした。いまだに実感が湧かない状態です。コロナショックを乗り越えて、もしかしたらいけるかも、と思ってはいましたけれど、まさか今年の2月になるとは思いもよりませんでした。日本が貿易赤字国になり円安に転じたことで、日本株が上昇しやすくなったのなら、非常に皮肉な話です。私の場合は「柔」。日立製作所 <6501> [東証P]のように、柔軟に自らを変えられる企業が増えてきました。日本企業の株主への利益還元姿勢も、ひと昔前とは大違いで柔軟性を感じます。
記者B:今回の相場の特徴は「半」。半導体相場との印象が強いためです。再スタートの起点という意味で、願望を込めて「起」と表すこともできると思います。前回の最高値は平成元年でしたが、日本経済にとって昭和の呪縛が解けた感もあります。個人的に記者として現役のうちに最高値を更新するとは思っていなかったですし、年明け以降の株価上昇スピードには驚いています。実体経済と株価が乖離していると言われる背景として、スピードに対する違和感があるようにも思います。
記者C:昭和をそこまで知らない世代ですが、私もBさんと同様、呪縛から解放されたようなイメージをもっています。今回の相場は、欧州や米国、インドなどの株価指数が最高値圏で推移するなか、グローバルでみて出遅れ感のあった日本株に、海外投資家が資金を配分せざるを得なかった面も大きいと考えています。コロナ禍で世界各国の政府が未曾有の財政出動に踏み切ったことでインフレ圧力が高まった結果、インフレ局面で魅力的な資産となる株式市場にマネーが流入したのが23年までのフェーズで、米国では足もとで利下げ観測とともにQT(量的引き締め)の打ち切りへの期待が膨らんでいます。過剰流動性相場の再来を渇望する投資家の存在が増えているようにも感じます。カネ余り環境のマネーの圧力という意味で、私は「圧」ですかね。エヌビディア<NVDA>の決算に市場が圧倒されたという意味も重ねてです。
●5年後の日経平均、予想は二分
──エヌビディアの名前が出ましたが、AI・半導体 ブームはまだ続きそうでしょうか。
記者A:エヌビディアに関して言うと、生成AIブームで業績が跳ね上がり、投資家の視線を一身に浴び始めたのが昨年半ば頃からでした。業績も伸び率自体は、今年秋以降は前年比でピークアウトするのではないかと思います。そもそもAI・半導体相場は、目先はいつ調整が入ってもおかしくはないように感じます。
キャップ:過去をみても同じ物色の流れが1ヵ月以上、一本調子に続くことはまずありません。私は波状的にAI・半導体相場は25年半ばまでは続くと考えています。波が引いて打ち寄せるようなイメージですかね。
記者B:半導体相場という括りだと、少なくともこの1年は続くのではないかと思います。台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>による投資が絡んでいて、設備投資が活発でも懸念されるような供給過多になっているわけではありません。
記者C:AIサーバー向けGPU(画像処理半導体)で、エヌビディアの独り勝ちの状況がいつまで続くのか、というのも気になりますね。競合企業が増えれば、エヌビディアの価格決定力に対する強気な見方を和らげることになりそうです。
──日本では日銀の金融政策の正常化観測も広がっています。
記者B:私はいまだ日本は金融相場のなかにあると考えていまして、景気が関係ないとまでは言いきりませんが、コロナ禍からの回復が重なって業績相場のように見えているだけなのだと思います。バブル期にはバブル期で、実体経済の裏付けがある株価上昇と言われていました。株式市場は都合のいい部分を切り取る性質がありますから。
キャップ:マイナス金利を解除しても、金融引き締め路線への転換を標榜するにはかなりの時間が掛かると思います。日銀が緩和的環境にこだわるなら当然、株価のパフォーマンスは大きくなるはずです。実体経済でインフレが加速する可能性もあって、すでに分野によってはサービス価格が3割ほど上昇しているものもあるのです。モノのインフレを含めて広い範疇で同時進行的に起こるなら株価はそれに呼応して急騰する蓋然性が高まっていくと思います。日経平均は5年以内に6万~7万円。場合によってはそれ以上になる可能性があるのではないでしょうか。
記者A:私も、期待を込めてというところがありますが、5年後は7万円前後と予想しています。米国では1970年代に「株式市場の死」が叫ばれ、80年代にNYダウは急伸しました。東京市場もそんなイメージになるんじゃないかなと思います。
記者B:5年後の水準は、「辰巳天井」のアノマリーを踏まえれば、今より下の水準だと思います。仮に「物価と賃金の好循環」が政府の思惑通りに回るとしても、欧米でのインフレの落ち着きや中国がデフレに傾いていることを考えると、日本での好循環の流れが長続きするとも考えにくいです。水準的にはここ1、2年がピークな気がします。
記者C:私も下方向です。1ドル=150円の為替水準が、国民感情的にどうなのか、という議論があると思います。トランプ氏が米大統領に復帰するという前提で考えると、個人的には世界各地での紛争は終息すると期待しているのですが、ドル高は容認しないはずですし、トランプ氏でなくても、ドル安の誘惑はあるはずです。それに一応日本円は世界最大の対外純資産国の通貨でして、その価値が過小評価されている気がしています。新NISA開始後に米国株に向かった個人投資家の資金も、利益確定の段階でドル売り・円買いになりますからね。5年後に1ドル=110円台に戻せば、企業の能動的な収益性向上を加味しても、コロナ禍前の19年末の水準に20%上乗せした2万8500円前後になるのではないでしょうか。
キャップ・記者A:ずいぶん弱気ですね(笑)。
記者C:ただ短期的には一応上昇するとみています。節目らしい節目がないなかで、TOPIXが最高値をつけた後、オーバーシュート気味に4万3000円ぐらいまで行くイメージは持っています。
記者B:1年間のレンジなら、私は3万6000円から4万2000円とみています。日経平均のPERを考えると過去のケースから見ても18倍(4万2500円台)オーバーというのは考えにくいと思います。場合によっては、3万2000円ということもあるとも考えています。米国の利下げ期待が高まれば日米金利差縮小で為替もやや円高に向かうはずですから、国内でも企業業績が明るくてもそれほど楽観視できません。
記者A:私は、この先1年間の高値は8月で4万3000円前後と考えています。11月に米大統領選でトランプ氏が当選する可能性は小さくなくて、トランプ相場の再来の期待も強まっています。世界の政治・経済に混乱をもたらすことも予想されるだけに、夏場までにはいったん利益確定売りを出したい投資家は多いでしょう。
(後編に続く)
【プロフィール】
▽キャップ:株式専門紙の記者を経てマネー誌の編集長を十数年務めた。バブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマン・ショックとデフレスパイラルを存分に体験してきたが、個別株のダイナミズムに魅入られ、銘柄発掘では常にポジティブ路線。
▽記者A:バブル初期に業界紙に入社。89年の最高値時を知る。バブル崩壊後も証券記者として株式市場を取材しキャリアを積む。
▽記者B:89年に証券専門紙に入社したバブル経験世代。証券業界以外の経験も多い。大型株より中・小型、IPO株に強みとは本人の談。
▽記者C:業界紙で自動車部品業界を担当。通信社で株式・債券の相場報道に従事し現職。チームの記者として唯一の超氷河期世代。
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