平和RE Research Memo(8):サステナブルな投資主還元を目指す(3)
■平和不動産リート投資法人<8966>の中長期の成長戦略
5. サステナビリティ
「NEXT VISION II」では、サステナビリティについてGHGの排出量設定目標を変更した。従来の目標では、省エネルギー法に基づく届出対象物件全体のGHG排出量を増加させない(原単位)ことを目指していたが、新たにポートフォリオのGHG総排出量を2030年までに90%削減(2018年比)を目指す。具体的な目標到達年を定めるとともに、対象をポートフォリオ全体、原単位目標から総量目標に変更を行った。既に取り組んでいる再生可能エネルギー由来の電力導入と併せて、非化石証書の購入、環境負荷の低い設備への更新などを行い、引き続き環境に配慮した企業運営を行うこととしている。
環境課題への取り組みとしては、GHGの90%削減目標に対し、2023年11月期には80.7%削減している。また、再生可能エネルギーへの切り替え100%の目標では、2023年11月末時点126物件中119物件で対応を完了している。社会への取り組みとしては、地域社会への参画を進め、地域社会の発展とともにポートフォリオの成長を目指すことなどを掲げるが、既に災害時の飲料水供給やペットボトル回収運動など、地域社会への参画を実施している。また、従業員への取り組みとして、社員の意識を高めるために、保有物件のバリューアップコンテストを開催した。ガバナンスとしては、外部役員として専門家の登用による客観的な視点での投資判断と企業統治の推進などを目標にするが、既に運用資産の取得・売却の意思決定プロセスの明確化や、執行役員制度を導入している。これら数々のサステナビリティへの積極的な取り組みは、ESG投資(環境、社会、ガバナンスに配慮している企業を重視・選別して行う投資)の世界的な拡大傾向に対応する活動と評価できる。
6. 総括
弊社では、同REITが特化する東京都区部をメインとする市場は投資機会が豊富にあることから、今後も同REITの潜在的な成長力は高いと評価する。東京都区部では、主なテナント層である中小規模の事業所数が集中し、オフィスビルに対して引き続き豊富な需要がある。また、東京都では、コロナ禍の収束に伴い2023年には再び人口増加傾向となっており、居住用マンションについても堅調な需要が見込まれる。
さらに、強力なスポンサー・サポートの活用によって、着実な成長戦略の推進が可能であると弊社では見ている。すなわち、平和不動産の保有・開発物件、仲介物件、先行取得物件などの情報ソースを活用したり(外部成長サポート)、情報の共有化によって稼働率の向上を図ったり(内部成長サポート)、財務方針、資金調達などにかかる支援や指導を仰ぐ(財務サポート)などが、同REITの大きな強みである。
既述のとおり、同REITでは不測の事態に備えて十分な内部留保やコミットメントラインの設定などの対策を講じている。そのほかの一般的なリスク要因としては、ほかのREITと同様、稼働率の低下、賃料の下落、金利の上昇などが考えられる。実際、東京都区内において2018年から巨大ビルが大量供給されており、稼働率の低下や賃料の下落が懸念されていた。ただ、同REITでは、オフィス稼働率は既に高水準に達しているものの、対象とする中規模以下のオフィスでは供給が限定的であり、今後も高稼働率の維持が可能と見ている。また、市場賃料の上昇が契約賃料の更改ペースを上回っていること(ポジティブギャップが拡大)から、オフィス賃料はさらに引き上げ可能と見られる。レジデンスにおいても、リニューアル工事の実施によって、物件競争力の強化と資産価値の維持向上を図っており、今後も高稼働率の維持と賃料水準の改善につながると見られる。当面は金利の高い借入の借り換えに伴い、低水準の金融コストを維持する見通しだが、将来の金利上昇リスクに対しては、金利の固定化によりリスクヘッジを進めている。また、投資主還元やESGの向上にも前向きに取り組む方針だ。「NEXT VISION II」の目標達成に向けた今後の進捗状況に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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提供:フィスコ