市場ニュース

戻る
 

【特集】AI、トランプだけではない、急騰銘柄続出の第3のテーマとは?<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

大山季之(松井証券マーケットアナリスト)

◆意外に堅実!? トランプ新体制を歓迎する株式マーケット

 2024年も残すところ半月余りとなったが、今年の米国株マーケットを振り返ってみると、23年に引き続きマーケットは好調だった。23年はS&P500種指数が24%、ナスダック総合指数が43%上昇したが、24年も11月末時点でS&P500は26%、ナスダックも28%上昇、さらに中小型株で構成されるラッセル2000指数も20%上昇し、相場の強さとともに物色対象の広がりを感じさせる展開だった。この間、4月、8月、9月と暴落局面にも遭遇したが、それらを乗り越え、気が付けば「アメリカ1強」と呼べるような状態になっている。

 これはなぜかと言うと、世界を見渡すと政治体制が盤石なのはアメリカしかないからだ。欧州は右に振れたり左に振れたりで各国政治は混乱、中国はかつての日本のように不動産バブル崩壊の足音が聞こえてきている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突如、戒厳令を出した韓国は言わずもがな、日本も与党の力が急速に衰え、安定政権とは程遠い。投資マネーは本来臆病なもの。安定していないところには資金は流入しない。ひと言で言えばこれがいまの相場を生んでいる。

 では今後の相場展開の焦点はと言えば、誰に聞いても同じことを言うだろうが、トランプ氏の一挙手一投足に尽きるのではないだろうか。上下両院も共和党が制し、「トリプル・レッド」が実現したいまとなっては、アメリカの政治、経済はアニメ「ドラえもん」のジャイアンよろしく、ガキ大将のトランプ氏が思うままに牛耳れるような体制になっている。したがってトランプ氏の動きを読まなければ投資戦略を組み立てることはできない。

 すでに次期政権の人事が伝えられ、メディアでは危惧する声も聞こえているが、トランプ氏にとってラッキーなのは、アメリカ経済がすこぶるコンディションがいい中で政権をスタートさせることができるということだ。インフレ率は低下し、雇用情勢は完全雇用に近い状態、国内総生産(GDP)も当初見込みを上振れ、年3%前後の成長が有力視されている。大統領に就任する1月20日以降は彼が選挙公約に掲げていた大衆迎合型の政策が進められるはずだ。

 彼の高関税政策に対して、マーケットがセンシティブ(敏感)になっていることは確かだ。その証拠に追加関税のニュースが伝わるたびに、マーケットは金利上昇、株安へと反応するわけだがそれも瞬間的な反応に過ぎない。ここにきてマーケットでは、トランプ氏の政策はあまり大きなリスクにはならないのではないかという見方が広がってきている。

 これには、次期財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏の存在が大きい。ウォール街出身の彼の起用は、マーケット関係者の間で評価が高い。彼は「3-3-3」というキャッチフレーズで、2028年までに財政赤字をGDP比で3%以内に削減するとともに、規制緩和を進めてGDP成長率3%を維持し、日量300万バレル相当の原油を増産する政策をトランプ氏に提言したと伝わっている。彼の存在がある限り、トランプ氏が高関税政策を推進したとしてもうまくインフレが抑制され、金利の上昇も抑えられるのではないか、という期待がマーケットで高まっているのだ。

 もう一人、トランプ政権でカギを握るのは、次期大統領首席補佐官に任命されたスーザン・ワイルズ氏だ。実質的に今回の選挙戦をコントロールしたのは彼女であり、彼女の手綱さばきによってトランプ政権の成否は決まると言っていいのではないか。外交面では強硬派の起用が伝えられているが、次期商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏も含め、少なくとも要所要所にバランスの取れた有能な人材が登用されている。

 先日、トランプ氏がメキシコなどに追加関税を課すとSNSで発言し、マーケットを騒がせた。だが両国の相互依存関係を冷静に考えれば、トランプ政権のチームが本気でメキシコに追加関税をかけることはできないかもしれない。脇を固めた閣僚たちの顔ぶれを見ても、やはりこれは彼特有の「外交カード」の切り方に過ぎないと見るのが妥当だろう。

◆トランプ政策効果が出る25年後半がマーケットの試金石

 ところで24年の米国経済を振り返ってみると、全体の景気は悪くはない。だが、大統領選で露呈されたように、多くの一般的な国民は物価が上がり、生活が苦しくなったと感じている。FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレ率が目標の2%に近づいてきていると言うが、庶民は実感できていない。このギャップが存在することは確かだ。

 実際、小売り各社の業績を見ると、ウォルマート<WMT>やコストコ・ホールセール<COST>は好調で株価も上昇しているが、その要因は富裕層の客足が伸びたからだ。中低所得者が中心のダラー・ジェネラル<DG>やダラー・ツリー<DLTR>は業績が悪化しているし、ターゲット<TGT>も冴えない。一般的な国民の生活は決して楽になっていないのだ。多くの国民は、こうした状況をトランプ氏が変えてくれることを期待している。

 そうした多くの国民が望む成果がどのように表れるのかは今の段階では分からない。高関税政策によって国内の企業が潤い、個人の所得増へと結び付けるのか。それとも規制緩和や減税によってそれを実現するのか。

 もちろん、トランプ氏の政策には金利上昇という対価が発生するだろう。したがって来週のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予測通り0.25%の利下げとなるだろうが、来年以降の利下げペースは鈍化するかもしれない。株式マーケットはそれを望まないかもしれないが、恐らくトランプ氏の政策効果が出てくる25年後半の米国経済は、この部分が焦点になるだろう。

◆セブン&アイ買収騒動で明らかになったマーケットと経営者のギャップ

 では年末から来年へ向け、具体的にどのような投資戦略を採っていけばいいのだろうか。米国株式マーケットでは、テスラ<TSLA>やパランティア・テクノロジーズ<PLTR>、コインベース・グローバル<COIN>など、いわゆるトランプ銘柄を中心としたラリーがすでに始まっているが、それとは別の視点で注目したいテーマがある。それは「アクティビズム」と「スピンオフ」だ。

 いま、日本ではカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングス <3382> への買収提案が話題となっている。背景には祖業のイトーヨーカ堂をはじめ、小売り業の各分野に多角展開を続けているセブン&アイの事業効率の低さがあって、この点は以前からアクティビストも同社に対して疑問を突き付けていた。ひと言で言えば、彼らが求めるのは、事業をコンビニエンスストアに集中してくれ、ということだ。

 日本ではこれまで一般的に、事業の多角展開こそが王道の経営手法だと考えられてきた。だが、海外の投資家から見れば、本業が好調であるにもかかわらず、事業が分散しているために株価が必要以上にディスカウントされてしまっている、という不満が強い。先日、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)<KKR>の共同創業者、ヘンリー・クラビス氏のこんな談話があるメディアに掲載されていた。同氏が約2000社の子会社を持つという日本の大手企業の経営者に、「その中で最も大切な子会社は何社ぐらいあるのか」と聞いたところ、その経営者は自信を持って「2000社だ」と答えたという。

 もちろん、日本の伝統的な多角経営にもメリットがあることも確かだろう。事業間のシナジーを狙えるし、好調の部門が不調の部門を補うというリスクヘッジの効果もある。だが、いまのマーケットでは、それは時代遅れと捉えられてしまう。要するに、投資家サイドから見れば、事業間のリスクヘッジはポートフォリオの組み換えなどで対応することができる。2000社のガバナンスを手がける経営体制では、スピード感のある効率的な経営などできるはずがない。それよりも得意分野に特化して事業を成長させて欲しいというのが、アクティビストが経営者に求めていることなのだ。

◆なぜ、スピンオフ銘柄の株価が上昇するのか?

 これは日本だけではなくアメリカでも同様で、マーケットの要望を受けて本業以外を事業から切り離す、「スピンオフ」が大きな潮流となっている。例えば、かつて巨大コングロマリットを築いていたGE(ゼネラル・エレクトリック)は、航空宇宙部門のGEエアロスペース<GE>、エネルギー部門のGEベルノバ<GEV>、ヘルスケア部門のGEヘルスケア・テクノロジーズ<GEHC>の3社に分割されたが、それぞれの会社が専門分野に注力していく形になったことで株式マーケットの評価は高まった。

 近年ではほかにも、ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>のコンシューマー向け医薬品事業を分離して設立されたケンビュー<KVUE>や、ダナハー<DHR>の情報ソリューション部門を分離・独立したベラルト<VLTO>なども、スピンオフによって企業価値を高めた典型例と言える。

 スピンオフがどれだけ効果があるのかは、ブルームバーグ・スピンオフ指数を参照してみれば分かりやすい。この指数は、過去3年間に上位企業から分離・独立した企業のうち時価総額10億ドル以上の23社で構成される指数だが、11月末時点で、S&P500構成銘柄が26%上昇したのに対し、スピンオフ指数構成銘柄は70%超の上昇と、圧倒的な差が生じている。

 個別にみると、GEベルノバは24年4月の会社分離以来、株価が133%上昇(24年11月末時点)し、エネルギー管理サービスを手掛けるコンステレーション・エナジー<CEG>も24年年初来120%上昇(同)と、ビッグ・テック各社に勝るとも劣らないパフォーマンスを上げている。さらにプロテインなどの健康食品を製造・販売するベルリング・ブランズ<BRBR>、宇宙・航空関連のクレーン<CR>、溶接・切断機器のESAB<ESAB>、建設資材のナイフ・リバー<KNF>など、この指数の構成銘柄は軒並み年初来40%以上の株価上昇を実現している。

 この中で個人的に特に注目したいのは、ベルリング・ブランズだ。同社はスピンオフ後の2022年9月期以降、大幅な増収増益を続けていて、株価も23年以降2年間で3倍前後にまで上昇している。強さの秘密は自社の健康食品に対するアメリカ人のニーズの高さに加えて、ウォルマートとコストコで売上高の6割を占めるという盤石な販路を確立している点だ。同社はスピンオフを契機に完全に勝ち馬に乗った感がある。

 言うまでもなく、こうしたスピンオフによる経営効率化の流れは一過性のテーマではない。AI(人工知能)やトランプ関連といったトレンド銘柄に注目が集まりがちだが、それとは別に、年末から来年へ向けての新たな普遍的な投資テーマとして、これらの銘柄群に注目すべきではないだろうか。テーマ横断で投資がしたいなら、同様のコンセプトで組成した「インベスコS&PスピンオフETF」<CSD>に注目しても良いだろう。

◆ポスト・エヌビディア! AI半導体、マーベルの株価が急騰したわけ

 最後に24年の最大の投資テーマだったAI関連についても述べておきたい。依然としてAI懐疑論が存在するとは言え、エヌビディア<NVDA>を筆頭に、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、メタ・プラットフォームズ<META>など関連銘柄の業績は好調を持続している。エヌビディアの上値が重くなっていることが指摘されているが、直近でもイーロン・マスク氏が設立したxAI(エックスエーアイ)が前月に続いて新たに60億ドルを調達、AIモデルのトレーニング向けに10万個のエヌビディアのAI半導体を購入すると発表したことでも分かる通り、同社のAI半導体への需要は衰えを見せていないどころかますます高まっている。

 したがって、司法省による事業分割要求という異なるリスクに直面しているアルファベット<GOOG>はともかく、AI関連企業については、今後も中長期的には期待が持てるのではないだろうか。とは言え、これらAI関連の主力銘柄が24年のように、短期間で爆発的な株価上昇を演じる、とも考えにくい。25年2月期第3四半期の好決算を受けてAI半導体のマーベル・テクノロジー<MRVL>の株価が急騰したのは、エヌビディアなどの主力銘柄の保有を続けながら、短期で稼ぐために新たな投資対象を探していた投資マネーのAI・半導体セクターでの物色拡大の動きと言えよう。

 もう1社、イーロン・マスク氏の入閣で話題のテスラについては、個人的には引き続き、注目している。マスク氏の政治的な立ち回りはともかく、やはり同社の事業の将来性は別格だ。先日、実証試験で同社の自動運転システムがグーグルのウェイモの3倍のスピードだったと報じられたが、AI革命の先にある到達点、自動運転やロボティクスに関しては同社が現段階では抜きん出ていることは間違いない。大統領選以降、同社の株価は急騰してしまったが、まだ利益確定するのは尚早だし、もし株価が下落したとしても、その時は絶好の押し目ではないだろうか。

【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均