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【特集】海外勢の大型株祭りに埋もれた「中小型・上方修正銘柄」を探せ
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第130回
前回記事「祭りに乗るなら割安・高配当、トランプ再選相場は短期勝負が前回の教訓」を読む
年明けから日経平均株価は5000円に迫ろうかという値上がりを見せています。この急激な上昇の牽引役は海外投資家で、証券会社や運用会社に対して彼らからの問い合わせが増加しているという話をよく耳にします。
ただ、大型の主力株に需給が集中している面もあり、中小型株を主戦場としている個人投資家には、市場が騒いでいるほどに儲かっていない、と感じている投資家も多いのではないでしょうか。
実際、TOPIX(東証株価指数)構成銘柄を時価総額と流動性の規模別で分類した株価指数の年初来騰落率を見ると、大型株で構成する「TOPIX100」が優位の状況となっています。
■TOPIXの規模別指数の年初来騰落率
出所:LSEGデータストリーム。注:2月5日時点
大型優位となっているのは、外需関連銘柄の存在感が高い中で、ドル円が想定以上に円安に振れていることや、運用資金が大きい海外投資家の場合、流動性の問題などから中小型株への投資は事実上不可能であることなどが影響していると見られます。
さらに個人投資家の間でも、脚光を浴びる大型株に資金を集中させている可能性もあります。
決算発表は、優良な中小型株発掘の好機
この状況を逆にとらえれば、中小型株は堅調に業績の成長や回復を見せているにもかかわらず放置されていることで、今は良質で割安な中小型銘柄を発掘する好機と言えるかもしれません。
ただし、中小型株の投資には、大型株に比して致命的な欠陥があります。証券アナリストなどによる「予想データ」の不足です。
大型株には資金力のある海外投資家が控えているため、その資金の奪い合いから証券会社のアナリストが積極的に分析や業績予想を提供しています。銘柄によっては、数十人のアナリストがカバーしていることもあります。
その一方で、中小型株は、基本的に会社発表の業績予想しか存在しません。一部の新聞社や経済メディアが独自の予想を公表している場合もありますが、彼らは報道や意見発信のプロであっても、企業分析の専門家ではありません。
以上を踏まえると、優良な中小型株の発掘には、四半期に1度の決算発表時に修正される可能性がある業績予想の数字を丁寧に拾っていくことが、そのスタートでありゴールでもあります。
上方修正の割合は2割程度と下方修正の1割程度を上回る
そこで、今回は、放置されがちな中小型株の中から、業績修正が入った銘柄を拾い上げ、投資アイデアへと昇華していこうと思います。対象は、直近で大型株が急騰した今年(2024年)の年明けから足元までに業績修正を発表した銘柄とします。
まず、国内上場全銘柄のうちで3月末を期末とする企業(2000銘柄程度)を母集団に実態を見ていきます。このうち24年1月1日以降に通期業績の予想を公表した銘柄(700銘柄程度)を抽出して、その数字が直前の予想から据え置きであったのか、上方または下方修正であったのかの割合を確認します。
■24年3月期業績の上方および下方修正、据え置きの割合(24年以降)
出所:QUICK。注:2月5日時点
売上高から純利益に至るまで、概ね7割程度が据え置き、2割程度が上方修正、1割程度が下方修正といった状況となっています。
数としては、年始から150社程度が上方修正を、70社程度が下方修正を発表しており、上方修正銘柄が意外と多いという印象を持つ人もいるかもしれません。
上方修正銘柄の平均年初来騰落率は+15%
この上方修正を発表した銘柄と下方修正を発表した銘柄の年初からの騰落率を比較すると、想定通り上方修正を発表した銘柄の方が高くなります。
■3Q決算時に業績修正した銘柄の年初来騰落率
出所:QUICK、LSEGデータストリーム。注:2月5日時点
大型株の場合、上方修正がアナリスト分析などで事前に織り込み済みとなり、発表と同時に利益確定の売りで急落する例も散見されますが、足元では上方修正はポジティブ反応、下方修正はネガティブ反応が原則となっています。
年初来騰落率は、上方修正の中小型株の平均値が大型株を上回る
では、上方修正の株価反応は、銘柄のサイズによって違いがあるのでしょうか。
下のグラフは、上方修正が発生した銘柄について、時価総額が1000億円以上の銘柄群と1000億円未満の銘柄群について、年初来の平均騰落率を比較したものになります。
■3Q決算で上方修正を発表した銘柄の時価総額別の年初来騰落率
出所:QUICK、LSEGデータストリーム
同じ上方修正の場合であっても、時価総額1000円未満の「中小型株」の方が良好なパフォーマンスとなっています。大型株と中小型株では、会社予想の修正が持つ価値が異なり、中小型株の方が大きくプラスに反応しやすいということでしょう。
言い換えれば、中小型株の上方修正銘柄は、変化に見合った株価の修正が織り込まれているかの判別が困難であるため、いったん修正が入るとしばらく株価が底堅く推移する可能性は高くなるのかもしれません。
上方修正発表から10日後の株価推移は「急騰」「落ち着き」「再上昇」
決算発表日の翌日から10日後までの推移を見ると、当記事執筆の2月6日時点ではサンプル数は多くはありませんが、いったんの織り込み後に利益確定のような動きは発生するものの、その後に再び上昇軌道に乗るか動きが見られています。
■3Q決算で上方修正した銘柄の発表後の株価の変化
出所:QUICK、LSEGデータストリーム
おそらく、上方修正のニュースに短期的に反応したのち、利益確定勢が脱落して改めて好調な業績見通しに対する買いが入り始めたといった事態が想定されます。この観測結果からは、修正発表後に買いを入れても遅すぎることはないようです。
むしろ、情報価値の高い中小型株の予想修正だからこそ、次の決算発表までは断続的な買いの需給が続きやすいといった側面もあるのかもしれません。
この中小型株の上方修正の株価効果は、それまでの前期比予想が、「増収増益」であったのか、「減収減益」であったのかの違いを問わないようです。
上方修正前の計画が増収増益と減収減益で差はあるのか
以下は、上方修正を発表した銘柄について、発表前時点の通期計画を「増収増益」と「減収減益」とで分けて、年初来の平均騰落率を計測したものです。
増益ないし減益の定義は、営業利益、経常利益、当期純利益のすべてが増加もしくは減少したケースです。なお、この比較では、銘柄の時価総額の大小は特に考慮していません。
結果は、どちらも同じでした。
■3Q決算時に上方修正を発表した銘柄の当初予想別の年初来騰落率
出所:QUICK、LSEGデータストリーム
増収増益が見込まれていた銘柄は、その好調さがさらに加速することが好感された可能性があります。一方の減収減益予想だった銘柄は、マイナスの状態の緩和または底打ちする期待が高まることが反映された可能性があります。
そうした違いはあるかもしれませんが、どちらも事前と比べてプラスの変化という点で一致しており、その効果は同程度ということなのかもしれません。
最後に、3月期決算企業で、時価総額が1000億円未満の中小型銘柄のうち、第3四半期決算発表時において上方修正をした銘柄の一覧を次ページに添付しておきます。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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大川智宏(Tomohiro Okawa)
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「祭りに乗るなら割安・高配当、トランプ再選相場は短期勝負が前回の教訓」を読む
年明けから日経平均株価は5000円に迫ろうかという値上がりを見せています。この急激な上昇の牽引役は海外投資家で、証券会社や運用会社に対して彼らからの問い合わせが増加しているという話をよく耳にします。
ただ、大型の主力株に需給が集中している面もあり、中小型株を主戦場としている個人投資家には、市場が騒いでいるほどに儲かっていない、と感じている投資家も多いのではないでしょうか。
実際、TOPIX(東証株価指数)構成銘柄を時価総額と流動性の規模別で分類した株価指数の年初来騰落率を見ると、大型株で構成する「TOPIX100」が優位の状況となっています。
■TOPIXの規模別指数の年初来騰落率
出所:LSEGデータストリーム。注:2月5日時点
大型優位となっているのは、外需関連銘柄の存在感が高い中で、ドル円が想定以上に円安に振れていることや、運用資金が大きい海外投資家の場合、流動性の問題などから中小型株への投資は事実上不可能であることなどが影響していると見られます。
さらに個人投資家の間でも、脚光を浴びる大型株に資金を集中させている可能性もあります。
決算発表は、優良な中小型株発掘の好機
この状況を逆にとらえれば、中小型株は堅調に業績の成長や回復を見せているにもかかわらず放置されていることで、今は良質で割安な中小型銘柄を発掘する好機と言えるかもしれません。
ただし、中小型株の投資には、大型株に比して致命的な欠陥があります。証券アナリストなどによる「予想データ」の不足です。
大型株には資金力のある海外投資家が控えているため、その資金の奪い合いから証券会社のアナリストが積極的に分析や業績予想を提供しています。銘柄によっては、数十人のアナリストがカバーしていることもあります。
その一方で、中小型株は、基本的に会社発表の業績予想しか存在しません。一部の新聞社や経済メディアが独自の予想を公表している場合もありますが、彼らは報道や意見発信のプロであっても、企業分析の専門家ではありません。
以上を踏まえると、優良な中小型株の発掘には、四半期に1度の決算発表時に修正される可能性がある業績予想の数字を丁寧に拾っていくことが、そのスタートでありゴールでもあります。
上方修正の割合は2割程度と下方修正の1割程度を上回る
そこで、今回は、放置されがちな中小型株の中から、業績修正が入った銘柄を拾い上げ、投資アイデアへと昇華していこうと思います。対象は、直近で大型株が急騰した今年(2024年)の年明けから足元までに業績修正を発表した銘柄とします。
まず、国内上場全銘柄のうちで3月末を期末とする企業(2000銘柄程度)を母集団に実態を見ていきます。このうち24年1月1日以降に通期業績の予想を公表した銘柄(700銘柄程度)を抽出して、その数字が直前の予想から据え置きであったのか、上方または下方修正であったのかの割合を確認します。
■24年3月期業績の上方および下方修正、据え置きの割合(24年以降)
出所:QUICK。注:2月5日時点
売上高から純利益に至るまで、概ね7割程度が据え置き、2割程度が上方修正、1割程度が下方修正といった状況となっています。
数としては、年始から150社程度が上方修正を、70社程度が下方修正を発表しており、上方修正銘柄が意外と多いという印象を持つ人もいるかもしれません。
上方修正銘柄の平均年初来騰落率は+15%
この上方修正を発表した銘柄と下方修正を発表した銘柄の年初からの騰落率を比較すると、想定通り上方修正を発表した銘柄の方が高くなります。
■3Q決算時に業績修正した銘柄の年初来騰落率
出所:QUICK、LSEGデータストリーム。注:2月5日時点
大型株の場合、上方修正がアナリスト分析などで事前に織り込み済みとなり、発表と同時に利益確定の売りで急落する例も散見されますが、足元では上方修正はポジティブ反応、下方修正はネガティブ反応が原則となっています。
年初来騰落率は、上方修正の中小型株の平均値が大型株を上回る
では、上方修正の株価反応は、銘柄のサイズによって違いがあるのでしょうか。
下のグラフは、上方修正が発生した銘柄について、時価総額が1000億円以上の銘柄群と1000億円未満の銘柄群について、年初来の平均騰落率を比較したものになります。
■3Q決算で上方修正を発表した銘柄の時価総額別の年初来騰落率
出所:QUICK、LSEGデータストリーム
同じ上方修正の場合であっても、時価総額1000円未満の「中小型株」の方が良好なパフォーマンスとなっています。大型株と中小型株では、会社予想の修正が持つ価値が異なり、中小型株の方が大きくプラスに反応しやすいということでしょう。
言い換えれば、中小型株の上方修正銘柄は、変化に見合った株価の修正が織り込まれているかの判別が困難であるため、いったん修正が入るとしばらく株価が底堅く推移する可能性は高くなるのかもしれません。
上方修正発表から10日後の株価推移は「急騰」「落ち着き」「再上昇」
決算発表日の翌日から10日後までの推移を見ると、当記事執筆の2月6日時点ではサンプル数は多くはありませんが、いったんの織り込み後に利益確定のような動きは発生するものの、その後に再び上昇軌道に乗るか動きが見られています。
■3Q決算で上方修正した銘柄の発表後の株価の変化
出所:QUICK、LSEGデータストリーム
おそらく、上方修正のニュースに短期的に反応したのち、利益確定勢が脱落して改めて好調な業績見通しに対する買いが入り始めたといった事態が想定されます。この観測結果からは、修正発表後に買いを入れても遅すぎることはないようです。
むしろ、情報価値の高い中小型株の予想修正だからこそ、次の決算発表までは断続的な買いの需給が続きやすいといった側面もあるのかもしれません。
この中小型株の上方修正の株価効果は、それまでの前期比予想が、「増収増益」であったのか、「減収減益」であったのかの違いを問わないようです。
上方修正前の計画が増収増益と減収減益で差はあるのか
以下は、上方修正を発表した銘柄について、発表前時点の通期計画を「増収増益」と「減収減益」とで分けて、年初来の平均騰落率を計測したものです。
増益ないし減益の定義は、営業利益、経常利益、当期純利益のすべてが増加もしくは減少したケースです。なお、この比較では、銘柄の時価総額の大小は特に考慮していません。
結果は、どちらも同じでした。
■3Q決算時に上方修正を発表した銘柄の当初予想別の年初来騰落率
出所:QUICK、LSEGデータストリーム
増収増益が見込まれていた銘柄は、その好調さがさらに加速することが好感された可能性があります。一方の減収減益予想だった銘柄は、マイナスの状態の緩和または底打ちする期待が高まることが反映された可能性があります。
そうした違いはあるかもしれませんが、どちらも事前と比べてプラスの変化という点で一致しており、その効果は同程度ということなのかもしれません。
最後に、3月期決算企業で、時価総額が1000億円未満の中小型銘柄のうち、第3四半期決算発表時において上方修正をした銘柄の一覧を次ページに添付しておきます。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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