シュッピン Research Memo(8):3ヶ年の中期経営計画(ローリング方式)を推進
■シュッピン<3179>の中長期の成長戦略
1. 環境認識
(1) カメラ市場
カメラ市場は、スマートフォンの台頭によりしばらく縮小傾向が続いてきたが、2020年度よりフルサイズミラーレスカメラへの本格移行が始まったことや、メーカー各社から注目の新製品が発売されたことで活況を呈しており、カメラ専門店にとっては追い風となっている。特に2022年前半までの半導体不足解消に伴い、フルサイズミラーレスカメラへの本格移行の波が加速することが予想されている。また、カメラを本格的な趣味にしたり、映像関連の仕事をしたりする人も年々増加傾向にあり、より専門性を求めて量販店から専門店に流れ込む動きもあるようだ。中古品市場についても、新製品の発売に伴って世代前のモデルが中古品として販売されるため、しばらく好調な市場環境が続く見通しである。
(2) 時計市場
日本国内の輸入腕時計市場(2022年)は、コロナ禍によるインバウンド需要(免税売上)の低迷や高級腕時計の世界的な価格相場の下落のなかで、価格を下げてでも販売を行う動きが強かったこともあり、7,381億円(前年比26%増)の規模に拡大した(一般社団法人 日本時計協会 「2022年1~12月 日本の時計市場規模(推定)」)。もっとも、一時的な相場変動による影響を除いても、継続して成長トレンドにあることから、今後も魅力的な市場であるとの見方に変わりはない。特にシェア約2%程度の同社にとっては、伸びしろの大きな市場と言える。同社では、2021年9月からロレックスの取り扱い日本一を目指す方針を打ち出し、戦略的な在庫投資を行ってきた。2021年12月末にはロレックスRの取扱いで国内最大級にまで拡大し、さらなるラインナップの拡充を図ってきたが、その積極姿勢が相場下落の影響を受ける格好となり一時的な苦戦を強いられた。ただ、2023年に入ってからは市場価格が下げ止まり、価格変動も安定してきた。
2. 中期経営計画
同社は、毎年、向こう3ヶ年の中期経営計画を更新(ローリング)しており、2023年5月に新たな中期経営計画を公表した。引き続き、新たなテクノロジーの活用によりECに注力する方針であり、主軸となる「カメラ事業」のさらなる成長と「時計事業」の回復からの拡大、越境ECによるグローバル展開の活性化などに取り組む。特に、1) AI活用による利益率の改善、2)スリムな経営による販管費比率の低減により、売上高の成長以上に利益成長を重視しており、1) については、AIMDのバージョンアップによるカメラ中古品の回転率向上に加え、「時計事業」についても時計MDをサポートするAIシステムの構築により適切な仕入・在庫投資の為の「仕組み化」を推進する。2)については、取引量の拡大に伴って一部テクノロジーに係る費用負担が増加するものの、システム導入とデータ基盤の強化を通じた業務効率化により、固定費の抑制と変動費の低減につなげていく計画である。さらには、生産性や業務効率改善のためのIT投資により、2026年3月期までに1人当たり売上高1.25倍を実現し、それらの結果、最終年度となる2026年3月期の目標として、売上高63,141百万円(3年間の年平均成長率11.4%)、営業利益4,827百万円(営業利益率7.6%)を目指していく。
3. 2024年3月期の取り組みと進捗、今後の方針
2024年3月期の取り組みについては、期初時点で1) AIMDのバージョンアップ(カメラ事業)、2) 時計MDサポートAIシステムの構築(時計事業)、3) 時計のオンライン買取見積の強化(時計事業)、4) LINE・YouTubeコンテンツの強化(全事業)の4つの施策を掲げており、そのうち開発中の2) を除いて、すでに一定の成果をあげることができている。
また、下期以降の方針として、AIやデータを駆使した商品仕入れによるビジネス拡大に向け、テクノロジーと在庫への投資継続を改めて打ち出しており、情報システム本部の強化や基幹システムのリプレイスに加え、上記2) の時計MDサポートAIシステムの構築※による適切な仕入・在庫投資の為の「仕組み化」などにも取り組む考えだ。
※金融工学的アプローチによりMDの意思決定を支援するシステム。時計の価格変動を商品別に分析し、騰落トレンドを推定、タイムリーに把握することで、時計事業の利益向上、在庫水準の適正化につなげていく。
4. SDGsへの取り組み
投資家からの関心も高いSDGs(持続可能な開発目標)については、これまで同様、「価値ある大切な商品の新たな創造事業」と「働きやすい職場づくり」を通じて、社会課題の解決に向けた取り組みを自らの企業価値向上につなげていく方針である。特に、「価値ある大切な商品の新たな創造事業」については具体的な取り組みの1つとして、商品の梱包材や名刺など、使用する紙は環境に配慮したものに変更した。また、2022年はTCFD※1に準拠した環境開示のほか、CDP質問書※2への回答も開始するなど情報開示の充実を図るとともに、2022年7月には(一社)障がい者自立推進機構※3とオフィシャルパートナー契約を結び、障がい者アーティストを支援する「パラリンアート」の活動にも参画した。2023年に入ってからも、国連グローバル・コンパクトへの署名や温室効果ガス排出量の削減目標引き上げ※4などを実施した。
※1 企業に気候変動がもたらす財務的影響の把握、開示を促すために、金融安定理事会(FSB)によって設立された組織であり、2017年6月に情報開示のあり方に関する提言をまとめた最終報告書公表している。
※2 ESG投資を行う機関投資家やサプライヤーエンゲージメントに熱心な大手購買企業の要請に基づき、企業の環境情報を得るために送付されるもの。
※3 障がい者アーティストの経済的な自立を目的として、アート作品(絵画・デザイン等)を利用してもらう活動を行っている。
※4 Scope2の排出量目標(2030年)を2020年比27%削減から実質ゼロへ引き上げた。
5. 中長期的な注目点
弊社でも、AIの活用や様々な価値の追求により、特定分野でさらにプレゼンスを高め、利益成長を重視していく戦略には合理性があると評価している。戦略的に取り組んできた「時計事業」については、想定外の相場変動による影響を受けたものの、これをきっかけとして、先を進む「カメラ事業」と同様、AIやテクノロジーの活用が導入され、ビジネスモデルの精度を高めることができれば、他社との差別化を図るうえでも大きな転機となる可能性があり、今後の進化のプロセスに期待したい。また、アップサイド(上乗せ要因)として注目されるのは、M&Aや事業提携を含む、海外への本格展開、ならびに新たな収益源の創出にある。すでにテストマーケティング的に取り組み、「時計事業」を中心に認知度が上がってきた海外展開については、利用者から高い評価を受けており、国内と同様、海外(現地)での買取の仕組みを確立することで新たな成長の軸となる可能性は大きい。特に、一定の顧客基盤を持つ現地企業との連携により、同社の成功モデルと融合することができれば具現性はさらに高まるものと期待できる。さらに新たな収益源の創出(例えば、情報力及び会員基盤を活かした有料サービスの導入やメディア事業への展開等)についても、ロイヤリティ(熱量)が高く、質・量ともに充実した会員基盤をはじめ、愛好者にとって魅力的なコンテンツ情報が集まる仕組みを、いかに収益化に結び付けていくのかがカギを握ると見ており、外部資源の活用を含め、同社ならではのビジネスモデルの確立に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《SO》
提供:フィスコ