シュッピン Research Memo(5):2024年3月期上期売上高は過去最高。「時計事業」も回復傾向(2)
■決算概要
4. 四半期業績とKPIの推移
(1) 四半期業績の推移
シュッピン<3179>の2021年3月期からの四半期推移を見ると、コロナ禍の影響により2021年3月期第1四半期に大きく落ち込んだものの、第2四半期からは「巣ごもり需要」による追い風や各施策の効果もあり、EC売上高が好調に推移し、コロナ禍前を上回る水準に伸びてきた。2022年3月期も、コロナ禍の影響が続くなかで、EC売上高が順調に拡大したほか、戦略的な商品ラインナップの拡充により「時計事業」の免税売上も大きく貢献し、第4四半期は過去最高水準(四半期ベース)を更新した。2023年3月期は、中国におけるロックダウンの影響などを受けて免税売上が低迷したことに加え、世界的な価格相場の下落により「時計事業」が落ち込むも、「カメラ事業」は引き続き拡大基調にあり、全体ではEC売上高を中心に高い水準を維持している。2024年3月期に入ってからも「カメラ事業」が伸び続けるとともに、「時計事業」も回復傾向にあり、EC売上高は第2四半期単体では初めて90億円を超えた。
(2) Web会員数
2023年9月末のWeb会員数は64万名を突破し、643,499名(前期末比23,506名増)と順調に伸び続けている。コロナ禍に伴う外出制限などもきっかけとなり、手頃で身近な趣味としてカメラを始める人が増えたことや、これまでのEC強化策が軌道に乗り、同社ブランドや運営サイトの認知度が高まってきたことが背景にあると考えられる。世代別の構成比を見ると、年齢層は幅広いが、10代~30代の割合は40.3%を占め、InstagramなどのSNSの普及により、10代~30代の女性比率は23.3%と他年代と比べて高く、新たなターゲット層となっている。また、若い世代の構成比が増加しているなかでも、利用平均単価は維持されているところも特筆すべき傾向と言える。
(3) 購入会員数とアクティブ率
購入会員数とアクティブ率についても、新規会員数が純増するなか、引き続き高い水準を維持している。「欲しいリスト登録数」※1や「入荷お知らせメール登録数」も順調に伸びており、それらのOne to One マーケティング施策もアクティブ率を高い水準で維持する要因になっているようだ。特に、「入荷お知らせメール」については、メールやアプリだけでなく、2022年5月からはLINEでのお知らせ機能を開始し、配信数が大幅に増加※2したほか、One to One マーケティングとAIMD、さらにはAIコンテンツレコメンドとの掛け合わせにより、リクエスト配信数※3も堅調に推移しており、これらも取引機会の拡大に大きく寄与している。また、動画配信を中心としたコンテンツの拡充にも注力しており、これまで獲得できていなかった若年層視聴者の獲得も進んでいるようだ※4。
※1 「欲しいリスト」の登録商品数は直近で6~7万件/月と増加傾向にあり、2023年9月末には2,119,627件(前期末比141,235件増)に拡大した。
※2 「入荷お知らせメール」の登録数については134,292件(前期末比10,899件増)と13万人を突破するとともに、月平均配信数は40万件を超えてきた。特にLINEでの配信数は1年強で10倍以上に増加した。
※3 スマートフォン向けに月平均500万配信を実現している。上記の「入荷お知らせメール」配信と合わせると四半期1,600万件の配信数となり、来店客数換算で約350店の実店舗に相当する情報発信力及び顧客接点を生み出していることになる。
※4 「コンテンツクリエイト部」を新設し、映像制作の実務経験を持つ人材を複数名配置した。今後は映像コンテンツの制作・配信にも力を入れていく方針である。
(4) 中古カメラ買取額
中古カメラ買取額についても、これまでのAI顔認証システム(2020年6月)やAIMD(2021年3月)に加え、AIコンテンツレコメンドの導入(2022年3月)などEC強化を図ってきたことが奏功し、ECでの買取比率は80%近い水準で推移している。また、様々な差別化要因の1つである先取交換や下取交換も好調に推移しており、EC買取比率の底上げに寄与している。
5. 2024年3月期上期の総括
以上から、2024年3月期上期を総括すると、1) AI活用を含む各EC施策の効果発現により「カメラ事業」の成長が続き、業績全体の底上げができていること、2) 前期後半に失速した「時計事業」もしっかりと回復傾向にあること、この2点を確認できたことに集約でき、改めて同社のビジネスモデルの強さを実証するものとして評価したい。また、活動面でも、AIMDのバージョンアップや時計のオンライン買取見積強化、動画配信を中心としたコンテンツの拡充などに取り組み、各種KPIの向上につなげることができたところも、さらなる進化に向けてプラスの材料となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《SO》
提供:フィスコ