Mimaki Research Memo(6):機能性インクやヘッドの制御技術に強み
■事業概要
3. 同社の強み
ミマキエンジニアリング<6638>は、カッティングプロッタや産業用インクジェットプリンタの生産技術だけでなく、素材に応じて多種多様なインクを開発するケミカル技術や、特殊な機能性インクを安定的に吐出して美しくプリントするためのヘッドの制御技術など、複合的な技術基盤を強みとしている。
なかでもインクは、顧客それぞれの用途に応じ、「水と空気以外なら何にでもプリントできる」ことを目標に独自開発している。オリジナルインクには、SG市場向けにソルベントインクや水性顔料インク、IP 市場向けにはUV 硬化インク(強膜インク、折れ曲がるインク、伸びるインク)、TA 市場向けには水性昇華インク、酸性染料インク、反応染料インク、捺染顔料インク、分散染料インク、熱転写顔良インク(DTF専用インク)などが揃えられている。
そのなかで注目されるのが、UV硬化インクと水性昇華インクである。UV硬化インクは、UV光(紫外線)を照射すると即座に硬化・定着するインクで、出力直後にはすでに硬化しているため、納期を大幅に短縮することができる。小物の装飾から建築・工業デザインの分野まで、用途・メディアに応じた多彩なラインナップがあり、樹脂やガラス、金属など非吸収性のメディアにも印刷することができる。なお、UV硬化インクには、米国の第三者安全科学機関UL社が定める「GREENGUARD Gold」認証を取得しているものもある。水性昇華インクは、高温で瞬時に昇華してメディアに定着させることでポリエステル素材へのプリントを飛躍的に美しくしたインクで、微妙な色調のブラックカラーも豊富にラインナップしている。マシンテクノロジーとのコンビネーションによって低コストで環境負荷の小さいダイレクトな昇華プリントも実現しており、発色・画質が鮮明で美しい昇華転写プリントにも対応している。スイスに本部を置くエコテックス(R)国際共同体が定める「ECO PASSPORT(エコパスポート)」の認証を取得した水性昇華インクもある。
多種多様な素材にプリントすることができる高機能のインクレパートリーは、SG、IP、TAといった幅広い市場でインクジェットプリンタを展開するうえで、プリンタ本体の付加価値をより高めるという点で差別化要素となっている。インクはプリンタ本体が獲得した市場を土壌に売上となっていくが、消耗品ビジネスとして安定収益が見込める事業といえる。インクの売上高構成比は35%以上あり、売上総利益率はプリンタ本体と変わらないようだ(プロモーションなど営業経費を考慮すると営業利益率はやや高いと思われる)。市販用のように安いプリンタを供給して高売上総益率の消耗品で短期的に高い利益を得るのではなく、長く安定した商売につなげる考えである。
同社はインクを吐出するプリントヘッドを製造していない。顧客ニーズに応じた特殊な機能性インクを安定的に吐出して美しくプリントするには、市場から最適なヘッドを調達したほうが合理的であるという判断からだ。しかも、その結果としてマーケットインによる新製品開発も可能となる。そうなるとあらゆるヘッドに対する制御技術が重要な要素となるので、同社は様々なヘッドの制御技術を独自で開発し、基盤としてのノウハウを蓄積している。ここまで述べてきた複合的技術基盤を背景に、同社のプリンタの製造プロセスは、(1) 顧客ニーズに対応する様々な機能性インクを独自開発する、(2) 機能性インクに最適なヘッドを選択する、(3) 制御技術によりヘッドとインクを制御して高画質で高い生産性を実現する、(4) 市場に最適なプリンタを投入することで顧客とともに成長する―というフローを形成している。
同社は、SG市場で蓄積されたノウハウとフローを、IP、TA市場に展開することで成長してきた。さらに、SG、IP市場で培ったノウハウ、例えば、素材を選ばず環境に優しく少量多品種生産が可能なうえ、カラーリングが難しいと言われるホワイトに対応したUV印刷のノウハウを、3Dプリンタ事業に横展開している。3Dプリンタは、1,000万色の色表現を実現し色付きの3Dデータが容易に入手できるようになったことで新たな局面に入ってきており、今後、3Dソフトや周辺機器の充実を背景に、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用したジャンルの急成長が予測されている期待の分野である。また、FA事業を有する優位性を最大限活用して、SG、IP、TA市場におけるプリント工程の自動化を進め、デジタルオンデマンド・プリントソリューションを提供していく考えである。
ほかにも、デジタル・オンデマンド生産による受注生産、ワンストップかつ多品種少量への対応、工場のスマート化などのFA技術、「ミニ展」などグローバルでローカルな営業力も強みである。また、同社の開発体制も強みといえる。大手の参入しづらい比較的小規模で成長ポテンシャルの高い市場に素早く製品を投入することで、グローバルニッチトップの座を獲得してきたが、これは、プラットフォーム化による開発コストの低減や、製品投入までのリードタイムの短縮などを進めてきたことが背景にある。加えて、大手競合他社が大きな市場創出を狙って多額の開発コストを一気に投入するのに対し、相対的に小さい複数の市場を狙いそれぞれ売上高の7%~8%の開発費でヒットを多くするという基本的な考え方を持っていること、従業員の30%以上が開発要員という開発型企業であることなども特徴で、効率的かつ効果的な開発体制といえよう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《SO》
提供:フィスコ