中部鋼鈑 Research Memo(6): 2024年3月期は販売数量の一時的な減少などにより減益を見込む
■今後の見通し
1. 2024年3月期の業績見通し
中部鋼鈑<5461>の2024年3月期の連結業績は、売上高70,600百万円(前期比7.5%減)、営業利益10,100百万円(同17.6%減)、経常利益9,600百万円(同22.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益6,500百万円(同24.2%減)と減収減益を見込んでいる。減収要因として販売数量の減少を想定しているが、生産性向上が期待できる新電気炉への更新工事や大型クレーンの更新、圧延冷却床乗移装置の設置工事等により、夏場以降に製鋼工程で3ヶ月程度、その期間中に圧延工程も1ヶ月程度の生産休止期間が発生するためである。同社では、安定供給を行うためにスラブの備蓄をしており、厚板販売数量は2023年3月期並みを見込むものの、備蓄生産優先によって中山製鋼所向けのスラブ販売が減少するため販売数量の減少は避けられない見通しだ。また、鉄スクラップ、合金鉄等の副資材の価格は下落するものの、電力等エネルギー価格は上昇すると予測している。足元では国内価格を下回る輸入鋼材が毎月一定量流入していること等により販売価格の値下がりが見込まれ、減益を計画している。
なお、同社では2024年3月期の減価償却費は22億円程度と見通している。2024年秋の稼働を目指す新電気炉の減価償却費は年間で最大でも5億円程度を見込んでいる。新電気炉は、経済産業省の「先進的省エネルギー投資促進支援事業」の省エネ基準をクリアする計画であることから相応の補助金交付を受けることができる。加えて過去の設備投資の償却負担減少額を加味すれば、減価償却費が極端に膨らむことはなく、2024年3月期以降の減価償却費も、仮に積極的な設備投資を行ったとしても25億円前後で安定して推移すると同社は見通している。
2. 中期経営計画及び今後の成長戦略
同社は、2021年に策定した「21中期経営計画」(2021年3月期~2023年3月期)において、5つの方針として1) 循環型社会への貢献(スクラップリサイクル)、2) 成長戦略の推進、3) 持続可能な基盤整備の推進、4) ESG/SDGs課題に対する取組の強化、5) 中山製鋼所との業務提携の推進を、数値目標として販売数量70万トン、連結経常利益40億円、連結配当性向30%を掲げている。
政府は、脱炭素社会の実現を目指しており、国内企業では脱炭素化の動きが加速している。これに伴い高炉の鉄鋼大手も電気炉への投資、参入を公表している。同社では、循環型社会への貢献度を高めて競争力を強化していくため、2024年秋の稼働を目指し、既存電気炉を環境対応型高効率電気炉に更新する工事を進めている。
世界初導入となる最新鋭の電気炉では、溶解時の排熱を利用し鉄スクラップを予熱・連続装入することで、鉄資源の効率的なリサイクルと大幅な省エネルギー化が実現可能となる。電気炉電力原単位は15%低減を目指す。また、既存設備に比べ騒音・振動・粉じんの低減など工場内及び周辺の地域環境への負荷低減も見込まれる。生産性も向上するため、安定した量産プロセスの実現とコスト競争力強化が期待される。
同社では、新電気炉更新による生産能力増強を踏まえ、2024年3月期以降の計画として、取鍋精錬炉や連続鋳造設備など製鋼工程の設備増強、製鋼圧延工程の直結化等下工程の生産能力向上に向けた設備投資を検討している。また鉄スクラップや製品・半製品の備蓄・出荷ヤードを拡張し、生産能力向上に備えるとともに、原料価格の変動幅を抑制するための一定のストック強化も並行して検討を進めている。コスト競争力を高め、市場シェアを拡大する成長戦略として期待されるところである。
なお、中山製鋼所との業務提携により厚板・スラブの製造受託が拡大したと考えられ、2022年3月期の販売数量は61万トンであった。2023年3月期は新電気炉更新工事に伴う生産休止期間中に備え、中山製鋼所からの受託分を備蓄に回したことで販売数量は58万トンに減少した。2024年3月期も引き続き備蓄優先の対応となるが、2024年秋の新電気炉稼働後はスラブ受託を年間10万トン程度まで拡大する見込みである。同社によれば、従来高炉製品ばかりを利用していた大手ゼネコン等も電炉製品への関心を高めており、工場視察も増え、高炉製品との品質比較も行われているようだ。同社では、今後ゼネコン専門の営業チームを立ち上げ、高炉製品と同じJIS規格で、基本的に同様の品質で製品を提供できることをアピールしていくことを検討している。
連結経常利益では2022年3月期は55億円、2023年3月期は123億円と、中期経営計画の目標を達成してきた。連結配当性向も2022年3月期は31.4%、2023年3月期は33.5%と目標を達成した。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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提供:フィスコ