泉州電業 Research Memo(3):独立系では業界トップクラスの電線総合商社。オリジナル商品で差別化を図る(2)
■会社概要
3. 事業内容
(1) 仕入先と販売体制
泉州電業<9824>は電線の総合専門商社で、独立系では業界トップクラスである。仕入先は約250社となっており、国内の電線メーカーが中小企業を含めて約400社あるなかで、同社は半分以上のメーカーから仕入れていることになる。在庫商品アイテム数で約5万点と、国内における商品の調達力は抜きん出ている。主な仕入先は昭和電線ホールディングス<5805>、住電HSTケーブル(株)となっている。
販売体制については、国内で支店・営業所合わせて17ヶ所を有し、各支店・営業所に物流センターを併設し、営業社員200名体制で全国展開している。また、加工品の工場(外注工場を含む)を納入先の近隣に設けるなど、「必要な商品を、必要な分だけ、必要なときに届ける」というジャスト・イン・タイムのデリバリー体制及び在庫管理能力を強みとしている。在庫水準に関しては「0.8ヶ月以内」と厳しい社内規定を設けて、銅相場の変動に対応できるよう適正在庫水準を常に維持している。顧客は電材販売業者及びメーカー、電気工事会社など約3,500社に上り、最大の顧客先の売上構成比は約3%、上位10社合計でも約15%程度と、特定の顧客に対する依存度が低く、幅広い顧客と取引を行っているのが特徴である。
(2) 商品別構成比
2022年10月期の商品別の売上高構成比(単体ベース)は、電力用ケーブルが35.3%と最も大きく、次いで機器用・通信用電線が34.2%、汎用被覆線9.7%、その他電線5.1%、非電線15.7%となっている。
同社の商品別構成比を業界全体の構成比と比較すると、機器用・通信用電線及び電力用ケーブルの比率が高い。これは業界合計では比率の高い輸送用電線(主に自動車用ワイヤーハーネス)を同社では手掛けていないことによる。輸送用電線を除いた業界合計の構成比は機器用・通信用電線で約20%、電力用ケーブルで約33%となっており、電力用ケーブルは同社とほぼ同じ数値となっている一方、機器用・通信用電線は同社の構成比が高くなっており、この点が同社の特徴と言える。
(3) 業界シェア
(一社)日本電線工業会の統計データから同社の業界シェアを推計すると、電線総出荷額ベースでは4%程度と推計されるが、同社の関わる需要部門である「建設・電販部門」だけで見ると約14%(同社推定)になる。同業はメーカー系の商社が多く、独立系の上場企業は同社のみとなっている。
電線業界では現状、電力ケーブル分野における価格競争が続いており、同分野を手掛けている独立系商社にとっては厳しい状況が続いている。経営体力がなく、差別化できる商材を持っていない電線商社は、大手メーカー系商社の傘下に吸収・統合されるといった傾向が続いているようである。
(4) 特色、強み
前述のように同社は多くの種類の機器用・通信用電線を手掛けているが、なかでも自動車業界及びエレクトロニクス業界における工場の生産ラインで用いられる電線を主力としており、これは同社の特色だろう。それらはFA機器及び工作機械をつなぐケーブル、これら機器内に組み込まれる電線などである。このため同社の業績は、国内における自動車・エレクトロニクス業界を中心とした製造業の設備投資動向と相関性が高くなっている。
また同社は、この機器用・通信用電線において他社との差別化を図っている。具体的には、営業が集めてきた顧客ニーズを基にオリジナル商品を独自で、またはメーカーと共同で開発し、単なる仕入販売商社ではない付加価値商品の販売を行っている。前述のとおり、同社は加工品の拠点を顧客の近隣に展開しているが、このロケーション戦略によって顧客との接触を密にし、新製品及び生産ラインの設計段階からの情報を入手して商品開発に生かしている。こうしたオリジナル商品の特徴は、「耐久性、耐環境性(温度変化、防油、防水等)、ノイズ対策」など、顧客の多様なニーズに応えられる点である。一方でオリジナル商品に関しては在庫リスクを同社が抱えるため、粗利益率も高く設定されている。機器用・通信用電線の中でこうしたオリジナル商品の売上構成比は約3分の1程度を占めており、これも同社の特色であり強みと言えるだろう。
こうしたなかで、同社はオリジナル商品の開発で顧客との強い関係を築き上げているほか、多品種少量受注にも対応できるデリバリー体制を構築していること及び、商品ラインナップにおいて中小メーカーの特殊ケーブルなどもそろえることができるといったメーカー系列にはない強みを持っていることなどにより、今後も独立系商社のトップ企業として成長を続けていくことは十分に可能であると弊社では見ている。
(5) 銅価格の影響
同社の業績に影響を与える大きな要素として「銅価格」が挙げられる。同社が扱っている電線類の主原材料は銅であるため、電線価格(仕入・販売)は国際商品市場での銅価格にスライドする。そのため、銅価格の動きによって売上高は大きく変動するが、仕入価格も販売価格と同様に変動していくためマージンは変わらない。ただし、同社は在庫評価方法に「移動平均法」を採用していることから、銅価格が上昇する局面ではそれまでの低い原価が計上されるため利益が先に出る傾向があり、反対に下降局面ではそれまでの高い原価が計上されるため利益が少なくなる傾向がある。長期的に見ればこれらは平均化されるので、銅価格の利益への影響は微少であると言える。
一方で販売価格に関しては、銅価格の影響だけでなく競争による影響もある。特に電力用ケーブルでその傾向が強く、電力用ケーブルの粗利益率は同社商品の中でも低い水準である。ただし、電力用ケーブルに関しては顧客となる電材販売業者約1,100社が扱っており、品ぞろえとして欠かせない商品であることも事実である。また、もう1つの柱である機器用・通信用電線は設備投資動向への依存度が大きく、好不調の波が激しいこともあって、経営の安定性(リスク分散)という意味でも電力用ケーブルは同社にとって不可欠の商材となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
《NS》
提供:フィスコ