三菱総研 Research Memo(8):VCP経営・連結経営のもと、社会実装機能強化に注力(2)
■三菱総合研究所<3636>の中長期の成長戦略
(2) 基盤事業改革
成長事業への投資を継続的なものとするために収益の基盤であるリサーチ・コンサルティング事業、金融ソリューション事業における質・生産性の向上を目指すものである。VCP経営における「D:社会実装」までつなげることを意識しながらリサーチ・コンサルティング事業においては、重点分野であるヘルスケア、エネルギー、都市・モビリティ、人財、情報通信、食農などの領域で官公庁・自治体・民間企業に対して能動的な事業展開・案件形成を実施している。金融ソリューション事業では、グループ企業やパートナー企業との連携を深めつつ、金融機関が保有するデータの多面的活用、DX事業など新事業を創出することによって業績拡大を図る計画だ。基盤事業改革の成果も2022年9月期の業績に表れた。案件数で見ると1億円超えの大型案件が4倍超に増加した一方で、500万円未満の小型案件は7割減少した(いずれも2011年9月期比)。案件の大型化が進んだことによって案件数が減少するなかでも、売上と利益はそれぞれ1.7倍と4.1倍(2011年9月期比)に拡大した。また、ITサービスの利益率も8%目前まで上昇した。経営基盤強化とリソース配分見直しによる生産性向上の効果が表出した格好だ。ITサービスに関しては先述のとおり、より高付加価値化が見込める上流部分に人員を重点配置する計画であり、案件の大型化に加えて利益率が高まることが期待される。
(3) シンクタンク事業改革
VCP経営のスタート地点、同社グループの価値創造プロセスの土台である「A:研究・提言」機能をシンクタンク事業の改革を通じて強化するものである。例えば、同社ホームページに「新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言」というページを開設し、経済からカーボンニュートラルに至るまで多岐にわたる分野で中長期的な視点からの情報発信を継続している。また、研究・提言を担う人財の育成、社外ネットワークとの連携などにより、研究・提言力の強化も図っている。
さらに、今後AIがシンクタンク事業にも破壊的創造をもたらすという認識に基づき、将来的な事業展開を視野にシンクタンクDXを社内で推進し、同社のシンクタンク事業プロセスに積極的にICT・AIの活用を進めている。シンクタンク事業における創造と破壊を自ら先導し、そこから得た経験やノウハウを外部顧客に提供し始めている※。
※同社は「企画業務のDX化」全般を支援するサービスの開始を2021年6月30日に発表した。
(4) 人財・風土改革
同社グループの提供価値を生み出すための土台である人財を確保・育成していくために、働き方改革を含めた人財・風土の改革を進めている。人財戦略では、VCP経営や連結経営に適した人財ポートフォリオを構築するために新卒・中途両面で採用を強化している。また、ダイバーシティや専門性を意識した人事制度、人材育成プランの策定により、優秀な人財を惹き付け、定着させることを目指している。
働き方改革においては、リアルとリモートを併用した最適な就労環境の整備を行っている。組織風土面においては、新たに策定した経営理念や行動規準を全社に浸透させ、変革に挑戦する風土づくりに努めている。
(5) 経営システム改革
同社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためにガバナンスの向上を実現しようとするものである。具体的には、経営会議において重要事項を諮問する各種社内委員会をはじめとして審査・管理体制を一層充実させている。また、連結経営における総合的なリスク管理体制も強化し、新事業などに伴うリスクに対して迅速かつ能動的に対処する仕組みを構築している。さらに、事業活動を支える基盤システムにおいては高い頑強性を備えたインフラを整え、攻守両面で対策を実施している。
先述のとおり中期経営計画の成果は具体的に数字となって業績に結実し、一部財務目標は前倒しで達成している。中期経営計画の推進を強化する重点4分野(「人財」「研究・提言」「R&D投資」「事業基盤」)への成長投資によって、さらなる業績の拡大と企業価値の向上が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
《SI》
提供:フィスコ