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【特集】産油大国ロシアを巡る疑心暗鬼の始まり、ワグネル反乱の真相は闇の中に <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 先週末、ロシアの民間軍事会社ワグネルがロシア政府に対して武装蜂起を宣言した。ワグネル代表のプリゴジン氏はロシア南部ロストフ・ナ・ドヌーの軍事施設を制圧し、部隊を首都モスクワに向けて北上させた。モスクワに向かう主要な道路が封鎖されたほか、ロシア軍とワグネルが衝突した結果、ロシア空軍のMi-8mtpr、Mi-8、Ka-52など複数のヘリコプターがワグネルによって撃墜された。パイロットなどロシア兵の死傷者数は不明だが、ワグネル兵はロシア正規軍に重大な損害を与えた。

 その後、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介したことで、プリゴジン氏は内戦の停止で合意し、ベラルーシへ出国した。ロシア連邦保安局(FSB)はプリゴジン氏の反乱に対する捜査を終結したと発表している。武装蜂起に参加しなかったワグネル兵は希望すればロシア国防省と契約し、正式なロシア兵となる見通し。

 プリゴジン氏は以前から弾薬不足などロシア国防省に対する不満をあらわにしており、よく目につく人物だった。プリゴジン氏の声明によると、モスクワに向けた行軍はワグネル解体を阻止する目的があった。ただ、プリゴジン氏は「(ワグネル兵は)モスクワから200キロの地点に到達したが血は一滴も流れていない」と述べたが、多数の死傷者が発生したのは確実である。また、弾薬不足のワグネルがモスクワに向けて北上していれば行き詰まるのは目に見えており、無駄に血が流れることは避けられなかったと思われる。当初から武装蜂起の終わりは明らかだった。

 プーチン大統領は今回の一件について裏切り者だけは看過できないと明言したが、武装蜂起の中心人物であるプリゴジン氏は罪に問われなかった。ロシア政府は今回の内乱を水に流そうとしているものの、露国防省への不満から進軍の過程で正規兵を殺害し、ロシアを揺るがしたワグネル創設者に全くお咎めがないのは理解できない。ロシアからの退去で罪を償ったことになるのだろうか。バフムト攻略の功績があったためプリゴジン氏は現在も生存しているとの見方はあるが、納得することは難しい。

●ロシアの石油供給リスクに意識が向けば相場が上向くきっかけに

 プリゴジンの乱は世界最大級の産油国であるロシアのお芝居であるという一部の観測は成り立つかもしれない。ワグネルが反旗を翻したように、プーチン大統領の長期政権は盤石ではなく混乱の火種を抱えており、ロシアの不安定さを世界に見せつける意図があった可能性はある。同政権が政治的・経済的にロシアを完全に掌握できているのか疑問視されるならば、潜在的な石油の供給リスクに意識が向き、低迷している原油相場が上向くきっかけとなるだろう。ウクライナで軍事行動を続けるうえで、十分な石油収入を維持する必要がある。ただ、この内乱を経ても、ロシアはウクライナで軍事行動を続けるのだろうか。

 クーデターを装った大掛かりな演技が行われた可能性は否定できない一方、上述したようにワグネルにより複数のヘリが撃墜されロシア正規軍で死傷者が発生している。この撃墜報道がロシア側のフェイクであり、プリゴジン氏の一滴の血も流れていないとの発言が真実であるかもしれないが、何が真実であるのか確認できない。ウクライナ紛争の開始前から、ロシアは情報戦や認知戦で劣勢だったと思われるが、プリゴジンの乱をきっかけに反転攻勢を仕掛けようとしているのだろうか。

●疑心暗鬼の始まり

 いくら調べても真実は不明である。何が起こったのか正確に把握しているのはプーチン大統領などごく一部の人間だけだろう。ただ、プリゴジン氏の反抗によって、世界が混乱の境地に陥ったことは確実である。武装蜂起は終わったが、市場参加者はロシアの見えない部分に気を向けなければならなくなった。プーチン政権が内部から揺らぐことはありえるのだろうか。エリツィン政権時代まで資源国として鳴かず飛ばずだったロシアを復興したプーチン大統領を内側から狙うものがまた現れるのだろうか。疑心暗鬼の始まりである。ロシアが今回の混乱を利用しようとするなら、武装蜂起が流血をともなう茶番だったと答え合わせができそうだが、そうでなければロシアの産油国としての安定性について認識を改めなければならない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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