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【特集】“おしゃれな建売”の裏に、DXで業界の常識を突破~ケイアイ不

~株探プレミアム・リポート「戸建て業界-勝ち組の条件 第4回」~

登場する銘柄
ケイアイ不<3465>、飯田GHD<3291>、オープンH<3288>、アグレ都市<3467>

編集・構成/真弓重孝、取材/高山英聖(株探編集部)

第1回「リモート特需後の勝ち組になるのはどこ? 不動産業で気を吐く『戸建て』」を読む
第2回「狭小・変形の穴場開拓で急成長、持続の鍵は『脱・東京依存』~オープンH」を読む
第3回「リスクだらけの戸建て再販で独走、強さは「先行者利益の持続」~カチタス」を読む

新築戸建て住宅の建売業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)との相性が悪いと言われている。まとまった土地に複数棟を建築して販売するまで数年を要し、データが揃うまで足が長い。さらに商品の販売量も小売りなどに比べて少ない。データの蓄積にさまざまな壁があるのが理由だ。

だがその壁を突破し、建売業界で異色のDX企業の地位を確立しつつあるのが、今回紹介するケイアイスター不動産<3465>だ。同社は設計の自由度が高い注文住宅も手掛けているが、現在は土地付き建物を販売する建売住宅へのシフトを進めている。

同社によれば、戸建ての建売住宅の年間供給数では飯田グループホールディングス<3291>とオープンハウスグループ<3288>に次ぐ3番手の規模になる。

業績堅調で、今期は9期連続の2桁増収を見込む。足元の株価は21年11月の高値から43%下げているものの、コロナ前に比べれば2.5倍高い水準で、TOPIXの+13%や不動産業の▲5%を大きく上回る。

■『株探プレミアム』で確認できるケイアイ不の業績成長性の長期推移
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DXの活用で特に効果を発揮しているのが「在庫(棚卸資産)の回転率」だ。2016年3月期の1.91から21年3月期に2.33に改善している。在庫が1年間で2回以上入れ替わる計算になり、それだけ住宅開発・販売の効率が上がっていることを示している(下のグラフ)。

在庫回転率を業界最大手の飯田GHD<3291>と本シリーズに登場するオープンH<3288>とアグレ都市デザイン<3467>を加えた計4社で比較すると、ケイアイ不は16年時点では4社の中で最下位だったが、足元では飯田GHDとオープンHとの差を縮めている状況がわかる。

同社の小沼佳久・経営企画室長は「在庫回転期間の短縮を経営の重要課題として取り組んできた」と言う。

■新築建売4社の棚卸資産回転率の比較
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出所:QUICK 注:オープンHは9月期、ほか3社は3月期。銘柄名は略称

資産効率が上がると、金融機関からの評価も上がりやすくなり資金調達面で有利になる好循環が生まれる。まとまったキャッシュを常に借り入れておけば、土地の仕入れの効率が上がり規模を拡大しやすくなるからだ。

ちなみに棚卸資産以外も含めた総資産の回転率も見ると、ケイアイ不が2016年から大きく向上している状況がわかる。

■新築建売4社の総資産回転率の比較
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少ない棟数しか建てられない"不都合な土地"も積極的に仕入れ

IT化では他業種より遅れがちな不動産業界の中で、DXに積極的に取り組むケイアイ不は異色の存在だ。しかし、同社はDXの導入以外でも、特色のある取り組みをしている。

その1つは、建物が数棟しか建てられない小規模の土地の仕入れに重点を置いていることだ。さらに販売する建物も、建売住宅でありながら、注文住宅のように「1棟ごとに異なるデザイン」を志向して建築しているという。

以下、個別に戦略を見ていこう。

まず土地の仕入れから見ていくと、ケイアイ不が建物を小規模の土地を積極的に仕入れているのは、競合が少なくなるためだ。

通常、建売り業者は7~10棟が建つような規模の土地を好んで仕入れる傾向がある。1カ所で建てられる建物が多いほど、建築にまつわる手間がかからず、原価を低減しやすいからだ。

一方で、デメリットもある。全棟を売り切るまでに時間がかかり、「3年かかる場合もある」と同社の小沼室長は指摘する。これに対して、ケイアイ不が仕入れるような小規模の土地で数棟を販売する場合、1年以内で売り切ることが可能になるという。

また、小さい土地は、駅から近い利便性の高い土地を仕入れやすくなるメリットもある。好立地なら販売もしやすい。仕入れから販売までの期間が短くなれば、資産効率の向上につながる。

「注文住宅みたいなのに安い」年収200万~600万円の層にヒット

販売する建物のデザインも意識的に増やしている。完成物件を販売する建売の場合、建物の種類デザインを絞った方が建築コストを絞りやすい。だが、デザインを絞りすぎると、分譲区画に同じ建物がずらりと並んで、デザインや違いにこだわる顧客層の購買意欲を刺激しにくくなる。

こうした点を踏まえ、ケイアイ不は「注文住宅のようなデザイン性を持ちながら、価格は注文住宅より安い」というイメージを出すことにこだわった商品設計に注力する。

商品シリーズは、顧客の趣向や求めるライフスタイルなどから7種類に分かれ、そこに配色や150以上ある間取りパターンが組み合わさる。間取りについては、土地がどの道路に面しているか、競合物件がどんな特徴を打ち出しているかなど周辺環境を考慮して設計する。工法は、デザイン・設計がしやすい在来工法が主流だ。

■同社の商品シリーズの1つ『クアドリフォリオ』の外観と内装(右)
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注:外観は中央の平屋

建物のデザインを増やすと、絞った場合より建築コストが膨らむリスクが生まれる。にもかかわらず、同社が7種類の商品シリーズを用意しているのは、販売を地元の不動産仲介会社に委託していることがある。

競合の住宅に比べて魅力に乏しい商品だと、委託先の営業力や販売スキルに依存することになりやすい。また商品が魅力的でなければ在庫として積み上がり、在庫処分で販売価格を引き下げ、収益性を落とすことになりかねない。

分譲価格は2500万~3000万円。展開エリアは関東地方が中心で、市場平均よりもやや低い水準だ。東日本不動産流通機構のデータによれば、関東全域の新築戸建ての成約価格は平均3119万円(2021年)。同社の戸建ては平均より100万~600万円安い計算になる。

この価格帯は、購入者が月々支払うことになる住宅ローン返済額が、同じ地域で賃貸住宅に住んだ場合の家賃相場を下回るように設定したものだ。戸建て取得にためらいやすい年収200万~600万円の層から引き合いを増やしている。

コスト負担などのネックをDXで解決

同じ敷地で建てられる建物が少ない上に、建物のデザインや間取りを増やすことは、建築面や販売面で管理が複雑になり、コストが膨らみやすくなる。こうしたネックを解消するのが、同社が推進してきたDXだ。

主な流れは、
①業務プロセスを細分化して管理、
②データを基に課題を抽出し、工程ごとに適切なITシステム導入

――の2段階になる。

同社は、業務効率化のシステムが浸透していない時代から、エクセルなどを活用して工程ごとにかかる日数などをデータ化し、工程の短縮化やコスト削減に地道に取り組んできた。その根幹には「創業者である塙圭二社長がデータにこだわってきた」(小沼室長)ことがある。

※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。



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