【特集】“脱炭素戦略”陰の主役を追え!「蓄電池関連株」新たなる成長シナリオ <株探トップ特集>
経産省が公表した新エネルギー基本計画の原案では再生可能エネの導入拡大が示された。ただ、発電量が天候に左右されやすく、有効活用するためには需給をコントロールできる蓄電池の整備が欠かせない。
―再生可能エネ普及拡大のカギ、需給調整ニーズ追い風に市場拡大へ―
経済産業省は21日に総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会を開き、国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す新しいエネルギー基本計画の原案を公表した。このなかで、再生可能エネルギーについて「2050年における主力電源として最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組む」ことが明記されたが、有効活用するには需給をコントロールできる対策が欠かせない。再生可能エネは天候によって発電量が左右されるため現在は火力発電でその分を調整しているが、二酸化炭素(CO2)の排出削減には「蓄電池」の更なる普及が重要となる。
●経産省、新エネ計画原案を公表
原案では、30年度の電源構成を再生可能エネが36~38%(現行目標は22~24%)、原子力が20~22%(現行目標を据え置き)、水素・アンモニアが1%(同ゼロ)、火力が41%(同56%)とし、再生可能エネの内訳は太陽光が約15%、水力が約10%、風力が約6%、バイオマスが約5%、地熱が約1%と想定されている。こうした目標の背景には、菅義偉首相が20年10月に温室効果ガスの排出量を50年までに実質ゼロにすると宣言し、今年4月に30年度の排出量を13年度に比べて46%削減する目標を掲げたことがあり、これを実現するためには国内のCO2排出量の約40%を占める電力部門がカギを握るからだ。
ただ、再生可能エネの比率を引き上げるには解決しなければならない課題があり、そのひとつが出力変動に対応するための調整力の確保で、電力需給の動向によって蓄電・放電できる蓄電池を整備する必要がある。現状では蓄電システムの導入コストが他国に比べて高止まりしていることが普及拡大のネックとなっているが、政府は補助金などの支援策で価格低減を推進し、業務・産業用蓄電システムの1キロワット時当たりのコストを19年度の約24万円から30年度には6万円に、家庭向けは19万円弱から7万円に引き下げる計画。また、製造設備への投資促進のため、家庭用及び業務・産業用の合計で30年に累計約24ギガワット時(19年度累計の約10倍)となる導入見通しを設定し、産業界と共有するとしている。今後は企業の取り組みが一段と活発化することが予想され、関連銘柄から目が離せない。
●開発に乗り出した昭文社HD
昭文社ホールディングス <9475> は6月、子会社のマップルを中心にヘッドスプリング(東京都品川区)と蓄電システムの共同開発や関連製品を軸とした各種ソリューション事業で協業すると発表した。再生可能エネの利活用や電気自動車(EV)の普及が進み、省エネ・創エネ・蓄エネを実現する製品が求められるなか、ヘッドスプリングが持つ次世代パワー半導体を活用した高周波スイッチング技術を適用し、低価格で小型・高効率な蓄電システムを共同開発するとしている。
ファイバーゲート <9450> は5月、室蘭工業大学と再生可能エネ有効利用システムの開発に関して共同研究契約を締結した。再生可能エネ生産システムの開発・販売・運用などを手掛ける新会社を設立し、30年には集合住宅で3万棟以上への導入を目指すほか、リユース蓄電池/制御システム開発の実証実験なども行うとしている。同社は商業施設や集合住宅を対象とした通信サービスを手掛けており、既存事業との相乗効果につなげたい考えだ。
三洋化成工業 <4471> の持ち分法適用会社であるAPBは5月、全樹脂電池を生産する第1工場「APB福井センター武生工場」の開所式を行った。同社によると全樹脂電池の量産工場は世界初で、本格稼働は10月を予定。同電池は高い異常時信頼性とエネルギー密度が特長で、用途としては定置用蓄電池や各種モビリティー向けなどを想定している。
●古河池、FDKなどにも注目
このほか、古河電気工業 <5801> と古河電池 <6937> が昨年に共同開発した次世代型蓄電池「バイポーラ型蓄電池」の注目度も依然として高い。これは再生可能エネを大量導入する時代に向けた電力貯蔵用蓄電池で、メガワット級まで容量を増大することが可能なため、変動要素の多い再生可能エネ発電の仕組みを支えることができるとされる。電力貯蔵用リチウムイオン蓄電池に比べて安全性とコスト面に優れているといい、22年度からの製品出荷開始を予定している。
FDK <6955> [東証2]は大規模蓄電池用次世代電池のひとつである水素/空気二次電池の研究に取り組んでおり、昨年11月には10アンペア時の積層可能な製品を開発。同開発品は、電解液に水溶液性のアルカリ電解液を使用するため燃焼性が低く、大型化しても安全性が高い点に加え、正極活物質に空気(酸素)を用いることから、正極容量は無制限であり、高エネルギー密度と高安全性を兼ね備えているため、同開発品を用いた蓄電池システムは従来の蓄電池システムをよりコンパクト化することができる。22年度には1.2キロワット時の蓄電モジュールでフィールド試験を開始する予定だ。
日本ガイシ <5333> は、メガワット級の電力貯蔵システム「NAS電池」を展開しており、大容量・高エネルギー密度・長寿命が特長。また、今年に名古屋工業大学と設立した革新的環境イノベーション研究所では、同社のセラミック技術を生かすことができるテーマとして、電子機器やEVの省エネ化に欠かせない次世代パワー半導体用ウエハー、再生可能エネの活用に不可欠な高性能蓄電池向けの高イオン伝導性セラミック固体電解質やセパレーターなどの研究を行うという。
また、バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池「レドックスフロー電池」を手掛ける住友電気工業 <5802> 、リチウムイオン蓄電システムを展開する東芝 <6502> にも注目したい。加えて、家庭用蓄電システムを取り扱うグリムス <3150> 、正興電機製作所 <6653> 、エヌエフホールディングス <6864> [JQ]、ニチコン <6996> などのビジネス機会も広がりそうだ。
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