【特集】ドラフト Research Memo(4):設計デザインを起点とする事業活動(2)
ドラフト <日足> 「株探」多機能チャートより
■事業概要
2. 対象領域別事業
(1) 対象領域別売上高構成比
ドラフト<5070>は、企画・デザイン・設計・デザインビルド事業の単一セグメントであるため、セグメント別情報の公表はない。ただし、2018年3月期以降、対象領域別売上高の内訳が開示されている。対象領域別売上高構成比の過去4期における推移は、オフィスが71.1%→67.6%→66.5%→63.8%、商業施設が14.8%→10.0%→5.4%→3.7%、都市開発・環境設計・その他が14.1%→22.4%→28.1%→32.4%であった。2020年12月期の対象領域別売上高の前年同期比増減率は、オフィスが21.7%増、商業施設が14.0%減、都市開発・環境設計・その他が77.5%増となった。オフィスは売上高構成比が低下しているが、金額は増加傾向にある。また、都市開発・環境設計・その他が大きく伸びており、商業施設は、金額・構成比がともに縮小傾向にある。
以下に、同社の3つの領域について説明する。
(2) オフィス
同社の顧客先は、不動産関連企業、一般企業、オリジナルプロダクト等の販売代理店である。オフィス空間の顧客先であるウォンテッドリー<3991>は業容拡大により従業員数が急増しており、オフィスの増床を続けている。AbemaTVなどのメディア事業などを手掛けるサイバーエージェント<4751>向けでは、約3,000人が働く「Abema Towers(アベマタワーズ)」のオフィスを手掛けた。同社ブランドは、急成長する新興企業の経営者の間で知名度が高い。
同社自身も3度の移転を経て、2016年に本社オフィスを渋谷区神宮前(表参道)へ開設した。標榜するユーザーエクスペリエンスの向上を具現化しており、本社はクライアントへのショールームを兼ねている。
a) アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)
同社の提案するオフィス空間のデザインには、ABWの設計思想が取り入れられている。ABWは、オランダのVeldhoen+Companyにより提唱された働き方の概念で、仕事内容に合わせて自由に場所を選び、より生産性の高い働き方を実現する設計思想になる。ABWでは、「高集中」「コワーク」「TV電話」「リチャージ」など10タイプの働き方を定義し、それぞれに最適な環境づくりを目指す。同社のオリジナルプロダクトは、「対話」「高集中」「アイデア出し」などの働き方に対応している。
働き方改革の労働生産性向上に向けた取り組みにより、定型業務などのルーティーンワークがRPAやAIに代替され、職種や業種にかかわらずクリエイティブな作業に適したワークプレイスが求められるようになる。新型コロナウイルス感染症対策として3密回避が求められており、オフィス空間も従来の詰め込み型から、今後は同社が提案するようなクリエイティブな業務に適したデザインに変更されることが予想される。
b) オリジナルプロダクトブランド「201°」
同社グループのデザインに調和しつつ、ABWといった新しい働き方に対応したオリジナルプロダクトの企画・販売を行っている。2017年に販売を開始したブランド名は、「201°」(NIHYAKU-ICHI-DO)。人の平均的な視野と言われる200度に1度の視点を加えることで、もっと自由な視点から物づくりをしたいという考えに基づく。簡単に集中スペースを創り出せるブースや、カジュアルな打ち合わせに最適なミーティングベンチを含む全18種類が発売されている。どんな空間にも馴染むベーシックな色合いと、素材の質感やディテールの繊細さが人気を集めている。
2018年に、米国を代表するデザイン雑誌「Interior Design」が主催する国際的なデザイン賞である「The Best of Year Award」において、同ブランドの集中ブース「COOM」がContract Desk Categoryにおいて最優秀賞を受賞した。
c) 海外受賞
上記以外にも、ウォンテッドリーのオフィスが、米国の国際デザインアワード協会が主催する国際的なデザインアワード「IDA Design Award 2015」においてHonorable Mentionを受賞。また、同オフィスは、米Herman Millerが主催するアジア太平洋地域の優れたオフィスを表彰する「Liveable Office Award 2016」においてスモール&ミディアムビジネス部門の大賞に輝いた。さらに、2017年には、NYで毎年開催されるデザイン分野を網羅するコンペティション「Spark Award」にて、同社が設計したディップ<2379>本社オフィスがブロンズ賞を受賞した。
(3) 商業施設
同社のプロジェクトでは、商業施設も海外Awardを受賞している。「IDA Design Award 2015」において、「EARTH coiffure beaute藤枝店」がHonorable Mentionを受賞した。同賞には、ウォンテッドリーオフィスと同時に、2つのプロジェクトが受賞したことになる。2016年にドイツで開催された建築・インテリアの世界大会「World Architecture Festival / INSIDE」のリテール部門には「Zoff MART自由が丘店」が入選した。ミレニアム層をターゲットとするアパレルブランド「STYLE & PLAY GREAT YARD」の表参道店では、若年層への展開を課題としていた老舗スポーツチェーンの新ブランドとして、店舗設計だけでなく音楽、映像、イベントなど包括的なクリエイティブアプローチにより、SNSやソーシャルメディアで話題となった。
(4) 都市開発・環境設計・その他
環境設計とは、オフィスビルディング、商業施設等のエントランス・ロビー・エレベーターホール・周辺植栽等共用スペース、または建物各階の共通デザインコンセプトの立案、設計及びデザインビルド等の業務を指す。環境設計の良し悪しが当該建築物のブランドイメージを左右することとなる。都市開発は、街区開発やそれに関わる建築設計における基本コンセプトの立案、具体的デザインの制作、設計及び個別建物の内外装工事等の業務になる。
ここ数年、同社には建築デザインや複合施設の環境設計など「街のランドマークとなる建築物をデザインしてほしい」というような依頼が増えている。東京都心は言うに及ばず、名古屋や福岡などの主要都市、スマートシティ構想の中心地である千葉県・柏の葉などの多彩なプロジェクトに関わっている。同社では、「次世代に必要な都市とはなにか」を問い直し、デベロッパーと協業した新しい都市の価値提案をしている。
同社の先進的な取り組みが業界で認知され、不動産大手の三井不動産<8801>、三菱地所<8802>、東急不動産(東急不動産ホールディングス<3289>の子会社)、東京建物<8804>など大手デベロッパーとの協働に発展している。
国土交通省のプロジェクトである柏の葉スマートシティのオフィスビル「KOIL TERRACE」では、同社は環境設計を請け負った。壁一面を本棚にしたアトリウムを一般開放し、利用者が減る土日祝日には地域の人々の憩いとなる空間をデザインしている。常識にとらわれない、変化と成長を続ける同社ならではの発想とデザインとなる。東京駅周辺の開発プロジェクトでは、2020年に完成した「丸の内テラス」の中心施設の企画立案から内装設計までを手掛けている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
《NB》
提供:フィスコ