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【特集】発行カウントダウン、「おカネ」の新カテゴリー”デジタル通貨”で変わる世界 <株探トップ特集>

中国で発行準備が進むデジタル人民元への危機感から、米欧はじめ世界でデジタル通貨への取り組みが本格化している。日本も同様で、今後はこれまで以上に話題に上りそうだ。

―日本でも30社連合が発行に向けた取り組み本格化し22年に共通基盤の実用化を目指す―

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって、非接触の決済方法であるキャッシュレス決済が身近になった。レジではクレジットカード決済の端末が目立つようになり、以前はカードの使用の際にサインや暗証番号の入力を求める店も多かったが、最近は少額決済ではカードを差し込むだけの形態が増えてきた。カード自体も抜き差しは利用客が自身で行い、店員との接触は極力減ってきている。また、スマートフォンを利用したQRコードによる決済も、今では一般的にみられるようになった。

 こうした消費者サイドの動きと軌を一にするように、国や企業の間では「デジタル通貨」への関心が高まっている。日本だけではなく、世界的にも発行に向けた準備が進められており、今後大きなテーマとして関心を集めそうだ。

●価格の安定や法令順守などの要件満たす

 デジタル通貨とは、ビットコインをはじめとした仮想通貨(暗号資産)同様にブロックチェーン技術をベースとしながら、ユーザー同士が取引の承認を行う暗号資産とは異なり、法定通貨そのものをデジタル化し、価格の安定や法令順守などの要件を満たしたものをいう。特に、中央銀行が発行するデジタル通貨は「CBDC」と呼ばれ、現金と並ぶ決済手段に位置づけられている新しいカテゴリーの「おカネ」だ。

 現在、各国政府や民間企業の間で発行に向けた取り組みが進められており、既にカンボジアやバハマなどの新興国がデジタル通貨を発行、スウェーデンなども発行準備を進めている。また、昨年に話題となった米フェイスブック社が準備を進める「Libra(リブラ)」もデジタル通貨の一つだ。

 そのリブラは昨年6月の計画発表時に世界中の金融規制当局から警戒されたこともあり、今年4月には、それまでのバスケット構造のステーブル(安定)コインを導入する計画から、各国の法定通貨に連動した複数のステーブルコインを導入する方向へ方針転換した。2020年内にもローンチする方向は据え置いたが、現在のところ、詳細なスタート時期は明らかになっていない。

●中国の動きに危機感

 ここにきてデジタル通貨が大きな関心を集めるようになった背景には、中国の動きがある。

 中国は14年にデジタル通貨研究所を設立して以降、ブロックチェーンをはじめとする暗号資産関連技術を研究してきた。他国が新型コロナウイルス対策に奔走するなかにあっても実証実験を重ねており、10月中旬には深センで市民5万人にCBDCである「デジタル人民元」が配られ、スーパーや飲食店など約3400店舗で利用された。他に蘇州、雄安、成都でも実証実験を行っており、22年の北京冬季五輪までの発行を目指すとしている。

 中国がデジタル人民元の発行準備を進めていることに危機感を覚えた米国では、パウエルFRB議長が今年6月、「デジタル通貨に対して積極的な研究を進める」と宣言した。既存の通貨体制を守ることが前提の米国にとって、先に技術や制度設計の国際標準を握られることは不利になる懸念があるためだ。また、欧州中央銀行(ECB)も21年にCBDC発行可否を判断すると明らかにしている。

●デジタル通貨フォーラムの動向に注目

 世界の中央銀行がデジタル通貨を発行すれば、電子決済取引でのデジタル通貨の利用は当たり前となる。日本でも7月に閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)にデジタル通貨を「各国と連携しつつ検討する」と明記しており、日銀はECBや英イングランド銀行など海外6中銀と共同で研究を開始している。また、今年6月には日銀もオブザーバーとして加わったデジタル通貨勉強会が発足しており、計画では21年4月から実証実験を開始し、22年にも共通基盤の実用化を目指すという。

 関連銘柄として注目されるのは、インターネットイニシアティブ <3774> だ。同社は18年1月にデジタル通貨の取引・決済を担うディーカレットを設立。このディーカレットが事務局となって前述の勉強会が発足し、更に「デジタル通貨フォーラム」が設立された。同フォーラムには3メガバンクのほかセブン銀行 <8410> や、通信系では日本電信電話 <9432> グループやKDDI <9433> 、交通系ではJR東日本 <9020> が参加し、更に野村ホールディングス <8604> や関西電力 <9503> 、シグマクシス <6088> など30社以上が名を連ねている。同フォーラムではデジタル通貨のメインバンクを目指して新たな決済プラットフォームの開発を進めていることから、動向には注目だ。

●電子地域通貨に関連した銘柄などにも関心

 また、電子地域通貨に関連した企業にも注目だろう。

 アイリッジ <3917> [東証M]は子会社を通じて電子地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy(マネーイージー)」を展開しており、これを導入した岐阜県の飛騨高山地域で利用可能な「さるぼぼコイン」は全国的にも有名だ。また、千葉県木更津市のデジタル地域通貨「アクアコイン」、東京都世田谷区のデジタル商品券・地域通貨「せたがやPay」(21年2月提供開始)などにも採用されており、金融機関や行政との連携についても独自の実績を積み重ねている。

 チェンジ <3962> は、子会社のトラストバンクが、自治体向け地域通貨プラットフォームサービス「chiica(チーカ)」を展開しており、静岡県富士市の「ふじペイ」、愛媛県新居浜市の「新居浜あかがねポイント」などで採用されている。このほか、「NISEKO Pay(ニセコペイ)」のプラットフォームを手掛けたSBIホールディングス <8473> や、北海道厚沢部町で地域通貨を活用した次世代交通×エネルギーの実証実験を行ったTIS <3626> などにも注目したい。

 更に、金融機関向けシステム開発に強みを持つインタートレード <3747> [東証2]やアイエックス・ナレッジ <9753> [JQ]、日銀決済管理システムの開発を手掛けるコンピューターマネージメント <4491> [JQ]なども関連銘柄に挙げられよう。

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