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【特集】低位株ほど上値余地は大きい? ⇒ 名目株価のイリュージョン効果

大槻奈那の「だからあなたは損をする~
          心理バイアスの罠にはまらない技」~第10回


大槻奈那(Nana Otsuki)
マネックス証券・執行役員チーフアナリスト
大槻奈那東京大学卒業。英ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務しつつ、一橋大学大学院・経営管理研究科(一橋ビジネススクール)の博士課程に在籍。ロンドン証券取引所アドバイザリーグループ・メンバー。財務省財政制度等審議会委員、規制改革推進会議委員。最近の趣味は落語鑑賞と旅行、そして不動産実査で宅地建物取引士の資格も保有する。

前回記事「チャートで目立つ動きに惑わされてしまうのはなぜ? ⇒ セイリアンス理論」を読む

米大統領選挙を通過や新型コロナワクチン開発期待で、株式市場は大いにリスクオンの流れですね。日経平均株価は、11月17日に終値で1991年5月以来の約29年ぶりに2万6000円を上回りました。

「26000」なんて、ちょっと前のダウ平均の話かと思ってしまう数字ですし、一生見ることはないと思っていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

こうなると、まだまだ上値を追いたくなりますが、皆さんは、株価を予想するとき、どのくらいの上値を予想していますか?

個人投資家のアップサイド予想では、平均の騰落率が46%に

『株探』兄弟サイトの『みんなの株式』の株価予想を参照すると、2007年のサービス開始から昨年までの約12年間で、みなさんの株価のアップサイド予想の平均騰落率を見ると、概ね46%になります。結構、昔から強気だったのですね。

では、下記のような同業の3銘柄の株価を予想するとします。その場合、みなさんはどの株式の上値を最も高く予想すると思いますか?

■株価の例
銘柄 株価 予想株価
A 1574円 ?円
B 268円 ?円
C 1272円 ?円

「そんなぁ、株価だけ見せられても、利益の水準とか会社の規模とも違うだろうし……」 というご不満はごもっともです。

ところが、そういう要素を取り除いて検証しても、実は人は、一般に「低位の株の方が高く上がるんじゃないか」という予想を立てる傾向があります。

これを、米オハイオ州立大学のジャスティン・ビルー教授と米フロリダ大学のバオリアン・ワング教授などは、「名目株価のイリュージョン」と呼び、株価の表面的な値が小さい株式ほど、人は大きなリターンを期待しやすい、ということを実証しました(記事最後参照)。

同じ20%アップでも、1000→1200よりも100→120の方が想像しやすい

例えば、1株100円の株式が120円に上昇するほうが、1000円の株式が1200円に上昇するシナリオよりも想像しやすい、というわけです。

因みに、いわゆる「値がさ株」というのは、一単元当りの取引に必要な金額が大きいものを指します。が、そこには、最低売買単位が関わるわけで、ここで言う1株当りの価格が高い株式とは、最低売買単位に関わらず、とにかく株価として表示される1株当りの株価が高いものを指します。

前述の例では、銘柄のB>C>Aの順で、高い株価を予想しがちである、というわけです。皆さんはいかがでしたでしょうか?

実は先のAとBとCは実際にある銘柄で、Aがオリックス<8591>、Bがアイフル<8515>、Cがクレディセゾン<8253>になります。

たまたまかもしれませんが足元の証券アナリスト予想も、強気の度合いがアイフル>クレディセゾン>オリックスとなっています(下の表の右、予想変化率を参照)。

■実際の株価の例
銘柄 銘柄名〈コード〉 株価 アナリスト
予想
予想
変化率
A オリックス<8591> 1574円 1650円 4.8%
B アイフル<8515> 268円 340円 26.9%
C クレディセゾン<8253> 1272円 1453円 14.2%
出所:『株探』『みんなの株式』。注:11月17日終値時点。予想変化率は(アナリスト予想÷株価-1)×100

株式併合で額面が大きくなると、アップサイド予想も渋くなる?

この例だと、銘柄の特性がまちまちなので、今度は、同じ株式が株式併合で額面が大きくなった場合に、アナリストの予想が変化するのかを確認してみましょう。

ここでは、過去株式併合を発表した銘柄を抽出し、この銘柄に対するアナリスト予想を、株式併合前と併合後の各3年間でどの程度変わったかをチェックしました。毎年、10月1日に株式併合する銘柄が多いため、これらの銘柄を使います。

下のグラフがその結果です。

■株式併合前後のアナリスト予想の強気度合い【タイトル】
出所:ブルームバーグ。年の下は対象銘柄の数

2016年度までは、株式併合する前の1株当りの価格が小さかった頃の方が、アナリストがアップサイドを大きく予想する傾向が伺えます。

例えば、2016年度では、株式併合をする前には、アナリストは各銘柄の株価について平均で13.5%の上昇を見込んでいましたが、株式併合後は12.2%のアップサイドしか予想していません。

2015年度も同様に、併合前は10.4%が、併合後は6.1%のアップサイド予想となっています。株価の絶対値が大きくなったことによる"名目株価のイリュージョン"効果で予想が控えめになったのかもしれません。

なお、2017年度はやや逆の傾向が見えますが、これは、2017年中間期以降の株価の方が景気や株価の上昇傾向が強くなったことが関係しているかと思われます。この辺りは、もっと詳細に見るべきところでしょう。

アナリストが株価を予想する時には、所属会社から、必ずパーセンテージで管理されます。つまり、Aアナリストは「カバー銘柄全体の平均で何%の上昇を見込んでいて強気すぎないか」とか、「市場コンセンサスと何%ポイント乖離している予想をしているのか」などです。

こうした状況からは、株価の絶対値には左右されにくいはずです。それでもやはり、株価の絶対値に影響されているとしたら、人間の弱さを感じて興味深いところです。

ましてや誰からも予想を管理されていない個人投資家の皆さんは、こうした株価の絶対値イリュージョンには注意すべきでしょう

名目株価のイリュージョンを逆手に取るには

株式を併合したからといって、実際の企業の業績には関係がないはずです。なのに、名目株価のイリュージョンで市場コンセンサス予想が控えめになっていれば、業績発表がポジティブ・サプライズになりやすく、むやみに強気な予想が出ている銘柄よりも上昇しやすいはずです。

では、最近株式併合された株式や、株価の絶対値が大きい銘柄の現状をいくつか見てみましょう。昨年度以降の株式併合と株価の大きな銘柄ランキングは以下の通りです。



 

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