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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―米大統領選と株式市場-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第45回 米大統領選と株式市場

●厳しい情勢のトランプ大統領

 11月3日に投票日を迎える米大統領選の最後のテレビ討論が行われました。9月29日の第1回討論ではトランプ大統領が傍若無人の振る舞いで実質的な討論が成り立ちませんでした。その後、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したとされ、リモート方式での討論が計画されましたが、トランプ大統領が拒否して中止になりました。そして、最後の討論が10月22日に南部テネシー州のナッシュビルで開催されたのです。第1回とは打って変わり、秩序ある討論が実現しました。「トランプ大統領もやればできる」との驚きが米国市民に与えられたのではないでしょうか。

 各種世論調査はバイデン候補の優勢を伝えています。米国大統領選は州ごとに勝者を決め、人口比で割り当てられた選挙人を総取りする方式で行われます。選挙のたびに勝敗が入れ替わるスイング・ステート=激戦州が勝敗を分ける決め手になります。2016年の大統領選挙では当時のトランプ候補が激戦州に総力を結集して、軒並み勝利を勝ち取り、事前予想を覆して大統領の地位をもぎ取りました。しかし、今回の選挙では、前回勝利した重要州の多くでトランプ劣勢が伝えられています。

 世論調査を取りまとめているファイブサーティエイトの最新調査では、前回トランプが勝利した重要州の6つでトランプ勝利確率が5割を下回っています。これら6州でトランプが敗北すると獲得選挙人数はトランプ205対バイデン333になります。

●想定される選挙後の混乱

 トランプ大統領が劣勢の6州のうち、トランプ勝利確率が30%台の2州で逆転しても選挙人数は235対307にしかならず、さらに勝利確率20%台の1州で逆転しても選挙人数は264対278でバイデン候補が勝利してしまいます。トランプ大統領が勝利するには、これら3州に加えて勝利確率10%台の2州のいずれかでも勝利することが必要になります。

 ただ、トランプ大統領は2016年の選挙で事前予想を覆して勝利した実績を有しているため、なお選挙結果に予断を持つことができない情勢になっています。

 より大きな問題は、バイデン票の多くが郵便投票によるものになると見込まれていることです。郵便投票の集計には何日もかかると見られています。また、郵便投票における選挙不正発生の余地があることから、トランプ大統領敗北の結果が提示される場合、トランプ大統領が不正選挙を裁判所に申し立てる可能性が高いと見られています。

 また、トランプ大統領が不正選挙の余地の大きさを指摘していることは、トランプ陣営に不正選挙を実行するインセンティブを付与する現実を暗示しています。公正な選挙が行われるのか、選挙結果を双方が素直に受け入れるのか。選挙投票日以降に顕在化する問題が山積していることに留意しなければなりません。

 トランプ大統領が裁判所に提訴する場合には最高裁がどのような判断を示すのかが重要になります。この点を踏まえてトランプ大統領は死去したギンズバーグ判事の後任を大統領選前に就任させることに意欲を示しています。

●堅調株価の背景

 現在、議会上院は共和党、下院は民主党が多数を握っています。最高裁判事の決定権限は上院が握っているのですが、今回の選挙では多数の共和党議員が改選期を迎えるため、上院の行動が批判を浴びると共和党が上院過半数を失う可能性が高まります。議会は追加経済対策の論議も進めており、これらの重要政策論議が上下両院の議員選挙の状況と深く関連し合って錯綜した状況が生まれています。

 共和党が主権者の批判を浴びる行動を示せば、大統領職を民主党に奪われるだけでなく、上下両院の過半数議席も民主党に付与することになりかねないのです。これらの複雑な要因が絡み合い、最高裁判事の任命、追加経済対策の決定が投票日までの最重要焦点になる情勢です。

 追加経済対策で与野党合意が成立すれば株式市場はこれを好感すると見込まれます。ただし、これが当面の好材料出尽くしと受け止められる可能性もあるでしょう。

 内外株価は本年1月末から3月までの暴落後、堅調推移を続けてきました。各国株価は3割から5割の急騰を演じてコロナショック前の水準に接近しています。堅調株価の第1の要因は感染拡大鈍化と巨大財政政策発動ですが、もうひとつの重大要因を見落とすことができません。量的な金融緩和が現実化しているのです。

 これまでの金融緩和政策ではベースマネーが増えてもマネーストックが増えない状況が続いていました。しかし、今回はマネーストックの急激な拡大が実現しているのです。

●過剰流動性バブルの終焉

 1980年代後半の日本でマネーストックが激増し、この過剰流動性が不動産や株式の真正バブルを生み出しました。ガルブレイスが指摘するように、バブル生成に必要不可欠な要因が金融の支援なのですが、今回はマネーストックの急増が観察されており、これが株価押し上げの重要要因として作用していると考えられるのです。

 日本の上場企業の経常利益は2019年度と2020年度にそれぞれ2割程度の減少が実現、あるいは見込まれています。企業利益の水準は2年間で4割も減少してしまう状況にあります。それにもかかわらず、株価が堅調に推移している現実は、過剰流動性の供給を抜きに考えることができません。

 そうなると、この過剰流動性の供給がいつまで続くのか、そして、経済の回復がどの程度のスピードで実現するのかが重要ということになります。FRBは9月のFOMCで2023年末までゼロ金利政策を維持する方向性を示しました。これから3年間以上も超金融緩和政策が維持されるという見通しです。

 しかし、FRBの金利見通しは突然豹変するという特性を有しています。FOMCの見通しを鵜呑みにすると、とんでもない間違いを犯すことがあり得ることを知っておかねばなりません。米国の追加経済対策決定は株価押し上げ要因として作用するものと考えられますが、過剰流動性バブルが永遠に続くと考えることは大きな誤りと言わなければなりません。バブルが終焉する転換点がどのようなプロセスで発生するのかを考え始める時期に差し掛かっています。

(2020年10月23日記/次回は11月14日配信予定)

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