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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―波乱相場の変化を読み取る-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第32回 波乱相場の変化を読み取る

●五輪強行姿勢の過ち

 ジェットコースターのような相場変動が続いています。1月末に始動した世界的な株価調整ですが、主因は コロナウイルスの感染拡大です。1月末から2月初にかけて中国の春節休暇がありました。この間に中国の感染拡大が顕著になりました。筆者は1月25日付のブログ記事に東京五輪開催が困難になるとの見通しを記述しました。しかし、安倍晋三首相、小池百合子東京都知事、森喜朗東京五輪組織委会長は7月24日の五輪開催意向を2月下旬まで維持し続けました。この1カ月の対応の誤りが今後の日本に重大な影響を与えることになると思います。

 3月24日に五輪開催延期が正式に決まり、これを契機に安倍内閣の政策運営が急変しました。しかし、直前の3月19日専門家会議提言公表後の安倍内閣対応は真逆でした。安倍内閣は全国小中学校の一斉再開を宣言し、コロナ対策の緩和を示唆したのです。3月20~22日の3連休に市民の対応が緩んだとの指摘がありますが、その基本原因は安倍内閣の感染対策緩和にありました。ところが、3月24日に五輪延期が正式に決まりました。すると、途端に日本における感染確認者数が急増し始めたのです。

 日本は世界の常識に逆行して、コロナウイルス感染を確認する検査を著しく抑止しています。検査をしなければ感染者数として計上しなくて済みますから、感染者数を少なく見せるために検査を抑止する方針が定められたのだと思います。しかし、五輪開催延期が決定されてしまったので、その必要性は低下することになりました。

●トランプ大統領の豹変

 在日米国大使館は日本に滞在する米国人に帰国を勧告しました。理由は広範な検査を実施しないという日本政府の決定により日本の正確な感染率を評価できないというものです。検査が行われないために多数の感染者が放置される状況が生み出されており、これが日本での感染爆発の主因になることが警戒されています。安倍内閣はいまなお検査抑制姿勢を維持していますが、抑制された検査体制の下でも感染確認者数が急増し始めました。この現実を受けて安倍内閣は4月7日に緊急事態宣言発出に追い込まれるとともに、事業規模108兆円の緊急経済対策が決定されました。

 株式市場では1月末からグローバルな株価急落が生じましたが、2月中旬にいったんは反発しました。コロナウイルスの影響に対する楽観論が広がったためです。ところが、2月25日に米国CDC(疾病対策センター)幹部が米国内での感染拡大を明確に予言したのを境に本格的な株価急落が再始動しました。 NYダウの下落率は38.4%に、 日経平均株価の下落率は32.2%に達しました。NYダウの下落幅は1万1355ドルに達し、トランプ大統領選出前の株価水準を下回りました。

 この状況を放置すればトランプ大統領の再選可能性が低下します。大統領再選のためなら何でもやるのがトランプ流です。2月下旬までコロナ楽観論を述べていたトランプ大統領のスタンスが急変しました。トランプ大統領を君子だと思う人は少ないでしょうが、トランプ大統領が豹変したのは事実です。

●日米の落差

 NYダウは4月9日に一時2万4000ドルを回復し、下落幅の半値戻しを達成しました。FRBは3月3日と3月15日に緊急利下げを決定してFFレートを1.50~1.75%水準から一気に0.0~0.25%の水準に引き下げました。0.25%刻みなら6回の利下げを演出できる利幅をたった2回の利下げで使い切ってしまいました。

 これとセットで策定されたのが2兆ドルを超す経済対策でした。トランプ大統領が大型経済対策を表明したのが3月9日。3週間も経過しない3月27日には議会が経済対策を可決、成立させました。株式市場はボーイング社の経営不安を警戒していましたが、大企業への資金支援も対策に盛り込まれて不安心理が後退しました。

 一気呵成の政策対応が実行されて株式市場が猛烈な反応を示したのです。これに加えてもうひとつ重要な変化が観察されていました。コロナウイルス感染問題に重要な変化の兆候が観察され始めたのです。

 日経平均株価はNYダウ急反発に連動して急反発しました。3分の1戻しを達成して半値戻しも視界に入りました。日本株価の変動要因としてNYダウは依然として重要な位置を占めています。

 安倍内閣も米国にならって大型経済対策を4月7日に決定しました。安倍首相は108兆円の事業規模がGDPの2割を超えるとアピールしています。しかし、日本の108兆円対策は空洞だらけで消費税コロナ不況を吹き飛ばす馬力を内蔵していません。同時に緊急事態宣言による感染防止策も中途半端なものになっています。

●大きい日本リスク

 世界各国はコロナ対策の基本に「検査と隔離」を置いています。徹底的な検査で感染者を明らかにして隔離する。さらに、感染拡大を遮断するために大胆な都市封鎖措置も採用しています。その結果として重要な変化の兆候が観察され始めているのです。

 ところが日本は、この基本を無視して「クラスター対策」という手法に固執しています。クラスター(小規模な集団感染)を確認したら感染者を追跡して封じるという手法です。モグラ叩きのイメージですが、最近になって感染者の多数が感染経路不明に転じています。モグラが無限に顔を出す状況に移行しており、クラスター対策の破綻が明白になっているのです。

 検査を抑制している日本では軽症感染者が完全に放置されているために、この感染者が急激に感染を拡大させている疑いが濃厚です。その感染拡大が院内感染や介護施設等での感染につながると重大な事態が生じることになります。

 経済対策の数値は今回を含む3回の対策を合算したもので、新たに編成される一般会計補正予算規模は16.7兆円に過ぎません。しかも、国民を支える予算は少なく、官庁の利権予算が半分以上を占めています。

 世界の金融市場には明確な変化の兆候が観察されていますが、日本の感染拡大、日本経済の悪化は、まったく油断できない状況に陥っています。有効な投資戦略構築のためには、こうした内外情勢の正確な捕捉が必要不可欠になっています。

(2020年4月10日記/次回は4月25日配信予定)

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