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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―新型コロナウイルスと株式市場

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第28回 新型コロナウイルスと株式市場

●波乱含みの株式市場

 筆者が発行している会員制レポートでは1月23日執筆号で株価調整の可能性を警告しました。株価循環変動を判断する指標から、株価の買われ過ぎのシグナルが発せられていたこと、米中貿易交渉の好材料が第一段階合意署名でいったんは出尽くしになったこと、そして、 新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されたためです。

 実際に日経平均株価では5%強の株価調整が生じましたが、 NYダウの反発に連動して、日本株価も大きく値を戻しました。典型的な高値波乱の様相が示されています。新型コロナウイルスの感染拡大は中国で著しく、2月14日時点で感染者数は約6万4000人、死者は1380人に達しています。中国での感染は発生源と見られる武漢市にとどまっていません。日本では武漢市がある湖北省からの人の移動を禁止しましたが、中国の他地域からの訪日を容認しており、感染者が多数、日本国内に移動した可能性が高いのです。

 安倍内閣は横浜に帰港したクルーズ船の乗員・乗客を下船させず、ウイルス侵入を水際で遮断する意思を示しましたが、その一方で中国各地からの人の移動を許容しており、感染阻止に向けての対応がちぐはぐです。

 クルーズ船内での感染拡大を踏まえると、新型コロナウイルスの感染力は極めて強いと考えられますが、致死率はインフルエンザの致死率を若干上回る程度と考えられており、金融市場は問題をどのように消化するのかで逡巡しているように見えます。

●日本における感染拡大リスク

 中国当局から感染が早晩ピークを迎えて、今春には収束に向かうとの楽観的見通しが示されました。株式市場では過剰なリスク回避は不要であるとの主張が幅を利かして、株価の急反発が生じているように見えますが、感染拡大の帰趨を判定するのは時期尚早であると思われます。

 安倍内閣がウイルス感染を検査するPCR検査対応を渋ってきたため、感染の疑いが指摘されながら、PCR検査を受けることができなかった人が多数存在しています。それらの潜在的な感染予備者が、実際に感染していた事実が五月雨式に明らかになりつつあります。新型コロナウイルス感染の大きな特徴は、症状のない感染者が多数存在することです。空港で問診による検疫を行っても、感染者が素通りで入国してきた可能性が高いのです。

 今後、日本において感染拡大が確認されると、金融市場の受け止め方が、厳しいものに転じる可能性があります。日本経済は昨年10月の消費税率引き上げによって強い下方圧力を受けています。内閣府が2月7日に発表した昨年12月の景気動向指数速報値は、景気現状を示す一致指数(CI)が前月比横ばいの94.7でした。前年同期比7.3%減少で、リーマン危機期以来の下落率になりました。指数から自動的に決定される景気基調判断は5ヵ月連続で「悪化」となっています。

 景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」判断の長期化はリーマン危機前後の2008年6月~09年4月の11ヵ月連続以来。日本経済はすでに景気後退局面に移行している可能性が極めて高いのです。

●注目されるGDP統計

 2月17日午前8時50分に、昨年10-12月期GDP速報が発表されます。消費税増税の影響がどのように表れるか注目されます。本年1-3月期も景気の実勢は極めて悪いと考えられます。日本を訪問する外国人旅行者の約半分が中国と韓国からです。安倍内閣の韓国敵視政策によって韓国からの訪日客が激減しています。ここに新型コロナウイルスの影響が加わり、中国からの訪日客も激減しているのです。

 観光産業だけでなく、インバウンド消費に依存する製造業、流通業に与える影響は大きいといえます。また、中国はグローバルなサプライチェーンの要の役割を担っており、中国の経済活動の停滞が日本経済に与える影響も無視できません。

  上海総合指数は春節の休暇に入る前に下落傾向を示していました。春節休暇中に問題が拡大したため、休暇明けの上海総合指数は急落しました。ただし、これまでのところ、節目の2638ポイントを下回っていません。

 中国政策当局は中国経済への影響を最小限にとどめるためにあらゆる政策対応を講じつつあると見られますが、中国経済の悪化がどの程度進行するのか。慎重な見極めが必要になります。

 他方、NYダウは下落後に切り返して史上最高値を記録しました。米国では新型コロナウイルスよりもインフルエンザの影響の方が大きいのです。経済指標も堅調で米国独歩高の様相を示しています。3万ドルの大台が視界に入り始めています。

●大統領選に重要な変化

 トランプ大統領は11月大統領選での再選を目指しますが、再選は盤石ではありません。2018年中間選挙上院選において、大統領選挙での激戦州で相次いで敗北を喫したからです。トランプ大統領にとっては元副大統領のバイデン氏が民主党候補に指名されることが望ましかったはずです。

 しかし、指名レースの先頭を走っていたバイデン氏が急速に失速しつつあります。2月3日アイオワ、2月11日ニューハンプシャーの序盤2州の指名争いでバイデン氏が脱落する様相を強めました。ウクライナ疑惑によるトランプ大統領弾劾裁判の影響がバイデン氏を直撃した恰好です。

 急浮上したのは38歳の新鋭、ブティジェッジ氏です。私が主宰しているTRI政経塾では昨年6月に最も注目すべき民主党候補として同氏を紹介しました。民主党候補は左派からサンダース氏とウォーレン女史、中道からバイデン氏、ブティジェッジ氏、クロブシャー女史が有力候補として名乗りを上げています。中道、左派がそれぞれに候補者を一本化することによって、最終的な指名候補が絞られてきます。

 中道のブティジェッジ氏、クロブシャー女史のいずれかに一本化されると、トランプ大統領は極めて厳しい選挙戦を迫られることになるでしょう。トランプ大統領再選を前提とする先読みだけでは、本年の金融市場の洞察には不十分であると考えられます。

(2020年2月14日 記/次回は2月29日配信予定)

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