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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―米中緩和と消費税不況のはざま

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第25回 米中緩和と消費税不況のはざま

●米中・FRB・消費税相場

 2019年も残すところわずかになりました。 日経平均株価は年初の2万円水準から見れば2割高の水準で取引を終えようとしていますが、昨年10-12月期に2割の下落を示したので、1年かけて昨年10月の水準にまで値を戻しただけです。ザラバ高値は昨年10月2日の2万4448円で、これがバブル崩壊後27年ぶりの高値水準でした。この年末で、バブル頂点の史上最高値記録から丸30年の時間が経過します。高値は3万8915円でした。27年ぶりの高値ではあったのですが、ピークから4割も低いのです。日本経済超低迷の30年間が浮かび上がります。

 昨年10月の高値、年末の安値、本年末の高値を形成した主要因は三つでした。米中貿易戦争、FRB利上げ、日本消費税増税です。振り返って整理しますと、株価変動は理路整然としています。昨年10-12月期は三つの要因が株価下落を促す方向に足並みを揃えました。安倍首相が消費税率10%を具体的に指示したのが10月15日でした。ファーウェイ副社長がカナダで逮捕され、FRBが昨年4度目の利上げを断行するとともに2019年にさらに二度利上げする見通しを示しました。この三つが重なって株価の中規模調整が発生したのです。

 2019年は株価急落局面でFRBのパウエル議長が二度、株価下落を上昇波動に転換させました。1月4日に政策転換を示唆し、6月4日には利下げ断行を示唆したのです。実際にパウエル議長は本年7月、9月、10月の三連続利下げを取り仕切りました。その上で12月FOMCでは利下げ打ち切りを鮮明に打ち出しました。

●ヒートアップした米中貿易戦争

 2019年相場変動の中核要因は米中貿易戦争でした。5月の連休まで、米中貿易戦争には雪解けムードが広がり、このまま米中協議が妥結に向かうかに思われました。しかし、事態は急変しました。5月5日にトランプ大統領が制裁関税大幅拡大の方針を打ち出して雪解けムードが一変したのです。米中閣僚級協議直前のトランプ提案はトランプ大統領が得意とする駆け引きであったと思われます。

 安倍首相との交渉感覚がトランプ大統領にしみこんでいたのかも知れません。強く出れば中国がひれ伏すと判断していたのでしょうが結果は異なりました。中国は交渉を打ち切ることは慎重に回避しましたが、米国の過大な要求は受け入れられないことを明示しました。この結果、株価が反落したのです。

 この株価下落を救済したのが6月4日のパウエル発言です。パウエル議長は「適切に行動する」と述べて、実際に7月31日FOMCで利下げを決定しました。昨年1、2月には金融市場から強く警戒されたパウエル氏ですが、就任2年間の行動は見事というしかありません。トランプ大統領の罵声を浴びながら、これほど平穏無事に政策を運営する技量を備えた中央銀行マンはなかなか見当たりません。米国政策当局の層の厚さは抜きん出ています。

 年後半は金融政策が緩和に転じたので金融政策はブレーキになりませんでした。金融政策に代わって市場変動の中核に躍り出たのが米中貿易戦争です。6月4日のパウエル発言で反発した株価を押し下げたのは再びトランプ大統領でした。8月1日に制裁関税第4弾発動方針を表明したのです。米中間での制裁関税率引き上げ合戦が過熱する様相が示され、金融市場は米中決裂リスクを意識し始めました。

●9月5日が分水嶺に

 潮流転換点となったのは9月5日です。決裂が懸念された米中協議再開の日程が公表されました。その後、紆余曲折がありましたが、ついに12月13日、米中間の第一段階合意が成立しました。12月15日発動の制裁関税適用が見送られるとともに、米国が9月1日に発動した制裁関税の税率が引き下げられたのです。

 米中貿易戦争勃発後、初めて両国の攻撃対応が拡大から縮小に転じました。この変化を生み出す契機になったのが9月5日の交渉日程公表で、金融市場は9月5日を境に潮流を変化させています。

 米国の長期金利は昨年10月にピークを記録して、これ以降、下落波動に転じていました。その長期金利が9月5日を境に反転しました。連動して米ドルも反転上昇し、金価格は反転下落しました。株価は反発に転じました。

 注意深く観察しないと9月5日の転換点など認識することができません。しかし、金融市場はすべての情報を総合的に判断して変動を形成しているのです。その金融市場の動向変化によって、世の中で起きていることを金融市場がどのように理解しているのかを読み取ることができます。金融変動分析の醍醐味はこうしたところにあると言えるでしょう。

 これらの変化を反映してNYダウは史上最高値を更新しています。他方、日経平均株価も9月5日以降は上値抵抗ラインを上方に突破しました。米中貿易戦争が方向転換したインパクトがいかに大きいのかが窺われます。

●消費税増税不況の深度を測る

 それでも日経平均株価は昨年10月の高値を抜けることができずにいます。昨年10月高値をはっきりとクリアできれば、日本株価も堅調トレンドに転換したと判断できるのですが、その直前で足踏みしています。日経平均株価が2万4000円水準で腰折れしてしまうと、株価の三尊天井が形成されてしまい、株価下落トレンド入りが示唆されてしまいます。日本株価は非常に微妙な位置にあります。

 日本株価が上方に抜け切れないのは、消費税増税が日本経済を悪化させているためです。消費をするたびに消費金額の10%ものお金が召し上げられてしまうのです。消費をすると懲罰が与えられる意味で、消費税は「消費懲罰税」と呼ぶべきです。そうでなくても冷えている個人消費が冷凍状態に移行することは想像に難くありません。

 2月中旬に10-12月期のGDP成長率が発表されますが、それまでは消費税増税に伴う日本経済悪化の程度を探る市場変動が持続する可能性が高いと思われます。1997年、2014年に日本経済は消費税増税で厳しい経済停滞に追い込まれていますので、今回も大きな影響が生じることは避けて通れないでしょう。

 しかし、他方で米中対立が緩やかながらにでも緩和されてゆくなら、その影響は大きなものになるでしょう。FRBは7月、9月、10月のFOMCで三回連続の利下げを断行し、12月FOMCで利下げ終了と今後の再利上げ可能性を示しました。極めて俊敏な対応です。

 ただし、米国の物価が落ち着いているため、しばらくはインフレなき成長を持続できる環境が生まれています。これが世界経済を回復させる重要な効果を発揮することになるでしょう。トランプ大統領が突然何を始めるか分からないとのリスクは残存し続け、日本景気後退というリスクも存在しますが、世界経済の回復可能性が2020年金融市場変動を考察する上での重要視点になる点を見落とせません。

(2019年12月27日 記/次回は2020年1月11日配信予定)

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