【特集】商品価格もAIが仕切る、「ダイナミックプライシング」関連株が高騰する日 <株探トップ特集>
商品、市況、天候、販売状況などに関するビッグデータをAIで分析し需要予測、電子棚札で自動的に価格調整する「ダイナミックプライシング」が普及し始めた。関連株が注目される日は近い。
―チケットなど状況に応じリアルタイムで適正価格を提示、日本でも普及期突入へ―
「ダイナミックプライシング」の導入が徐々に広がりつつある。神奈川県を地盤とする家電量販店大手のノジマ <7419> は10月18日、パナソニック <6752> の「電子棚札システム」を全184店舗に導入完了したと発表した。これはPOSデータと価格表示を連携させ、店頭の棚札の価格表示を正確かつスピーディーに更新するもので、需給や競合状況で価格を逐一変更する「ダイナミックプライシング」に対応した。また、ビックカメラ <3048> も電子棚札の導入を進めており、20年度中にも全店で導入する方針。今後もこうした動きは広がりをみせることが予想され、関連銘柄のビジネスチャンスも拡大しそうだ。
●ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングとは商品、市況、天候、個人の嗜好、販売状況などに関するビッグデータを、人工知能(AI)を用いて迅速に分析し、そこで得られた需要の予測をもとに、価格の上げ下げを自動的かつ柔軟に変更する仕組みのこと。例えばレジャー業界では、繁忙期と平日などでは価格が異なることが一般的だが、これに天候や競合相手の価格設定などを加味して価格を設定する。従来は、過去の実績と担当者の勘に頼る場合が多かったが、AIなどを利用することで即時に膨大な情報を集め、価格設定できるようになり、チケット販売など多様な分野で導入する例が増えている。
ダイナミックプライシング先進国のアメリカでは、スポーツ観戦チケットに一般的に導入されている。例えば野球の試合では、チームが優勝争いをしていたり、人気投手が登板する際には価格を高めに設定。反対にチームの状態が悪い時や雨天の場合などは価格を下げるといったことを柔軟に行っており、開催日や当日の天候、チームの調子までが価格に影響している。
日本でも、ユー・エス・ジェイ(大阪市此花区)が今年から運営するユニバーサル・スタジオ・ジャパンでチケット価格にダイナミックプライシングを導入しているほか、サッカーJリーグもチケット価格に導入するケースが増えている。
小売業界では、Amazonをはじめ、EC業界で徐々に導入が広がりつつある。一方、リアル店舗では前述のノジマが、100店舗以上を展開する小売大手としては国内初の導入といわれている。今年2月には、経済産業省が主導し、ウエルシアホールディングス <3141> やツルハホールディングス <3391> などが一部店舗で電子タグを用いてダイナミックプライシングの実証実験を行っており、国の後押しもあることから、更に普及が広がりそうだ。
●社会課題の解決にも期待
ダイナミックプライシングは消費者にとって、需要が落ちる時期に商品を購入すれば、その分出費を抑えることができるメリットがある。一方で、今まで定価で購入していた商品価格が高騰するデメリットもあり、前述のUSJでは6910円からの大人1日入場券が9200円となる日もある。商品やサービスの質はそのままに価格だけが上がることになり、消費者の不満につながる可能性もある。
それでも普及が進む背景には、需要に合わせて価格に弾力を持たせることで、企業にとって収益の最大化が期待できることが挙げられる。需要の高まりとともに価格を上げれば、その分、利益を上げることができる。一方で、需要に応じて価格を下げられることで購入者が増えれば、在庫を減らすことができる。例えばスーパーマーケットで、閉店時間間際の割引シールをデジタル化し、賞味期限に応じてリアルタイムで価格を変動させられれば、フードロスの解消につなげることができ、社会課題である大量廃棄問題の解決にも役立つことになる。自動で価格を変動させるので、人手不足解消にも効果が期待されている。
●ECサポート企業に注目
普及が進むダイナミックプライシングだが、関連する企業には、データをもとに最適価格を算出する仕組みを手掛ける企業と価格を即時に変更する仕組みを手掛ける企業、それらをワンストップで提供する企業とさまざまある。本格的な普及がこれからのため、ワンストップでサービスを提供する国内企業はまだ少ないものの、凸版印刷 <7911> やBEENOS <3328> などが出資するメトロエンジン(東京都港区)、Zホールディングス <4689> や三井物産 <8031> 、ぴあ <4337> 、エイベックス <7860> が出資するダイナミックプラス(東京都千代田区)などがシェアを伸ばしている。
一方、価格をリアルタイムで変更する仕組みを手掛ける企業はECサポートの一環として行われ、足もと業績が好調な企業も多い。
Hamee <3134> は、複数ECサイトへの商品登録や価格などの更新作業を支援する「ネクストエンジン」を展開している。9月11日に発表した第1四半期(5-7月)連結決算は、営業利益が前年同期比64%増の3億8400万円と大幅増益で着地。特にネクストエンジンは前年同期比14%増となり、業績拡大を牽引した。
ブランジスタ <6176> [東証M]は、「まとまるEC店長」で、複数モールに出品中の商品情報を更新する。同社の足もとは電子雑誌事業、ECサポートサービス事業ともに堅調に推移しており、8月6日には19年9月期連結業績予想を営業利益で3億5000万円から4億5000万円(前の期2億3300万円の赤字)に上方修正した。また、11月14日に発表予定の20年9月期業績見通しにも期待が持てる。
アイル <3854> も「CROSS MALL(クロスモール)」で、複数ネットショップの在庫自動更新、商品一括登録などを支援している。9月6日に発表した19年7月期連結決算は、クロスモールなどCROSS事業が牽引し営業利益9億5100万円(前の期比81%増)と大幅増益を達成。20年7月期も営業利益12億円(同26%増)と高成長継続を見込む。
このほか、アイリッジ <3917> [東証M]は9月、コスモ石油(東京都港区)が8月に提供を開始したスマートフォンアプリ「カーライフスクエア」の開発支援を行ったと発表したが、同アプリは顧客ごとに割引率を変えるダイナミックプライシングも導入している。8月9日に発表した第1四半期(4-6月)連結決算で営業損益は1億7500万円の赤字(前年同期4100万円の赤字)だったが、会社側では概ね計画通りで、営業損益は第2四半期以降に改善見込みとしており、11月14日に予定されている決算発表へ期待がかかる。
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