【特集】衝撃のサウジ施設攻撃! 揺れる原油相場と世界株式市場の行方 <株探トップ特集>
サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、多大な打撃を被った。これを受けWTI原油価格は急騰し、一時4カ月ぶりの高値をつけている。世界経済、そして株式市場への影響について取材した。
―現状はリスクオフの条件揃わず、米・イラン軍事衝突となれば急騰必至に―
14日にサウジアラビアの石油関連施設が攻撃を受け、世界の石油供給量の5%に相当する生産が打撃を受けた。これに伴い、16日の原油相場は急騰し NYダウは下落した。3連休明けの17日の東京市場では、原油高による影響に関心が集中した。しかし、高値波乱の展開を予想する見方とは裏腹に、この日の株式相場は堅調に推移。日経平均株価は小幅ながら10連騰を達成した。今回のサウジアラビアの石油関連施設攻撃を市場はどう分析したのか。今後の中東情勢と株式相場の見通しを探った。
●サウジ攻撃で世界5%相当の原油が打撃、WTIは一時4ヵ月ぶり高値
サウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコの石油施設が14日、無人機による攻撃を受け、日量570万バレルの生産が停止した。これはサウジアラビアの生産能力の約半分にあたり世界の石油供給量の5%に相当する。イエメンの親イラン武装勢力フーシ派が犯行声明を出したが、トランプ米大統領は「我々は犯人を知っている」とツイッターで述べ、イランの関与と報復の可能性をにおわせた。原油需給の引き締まりと中東情勢の緊迫化を受け、16日の原油先物相場はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)価格が一時約4ヵ月ぶりの高値となる1バレル=63ドル台に急伸した。同日のNYダウは前週末比142ドル安と反落した。ただ、WTI価格の終値は前週末比8.05ドル高の62.90ドルだった。
●日経平均は100円超下落後に値を戻す、為替も円高進まず
この原油相場の波乱を受け、連休明け17日の東京市場は朝方軟調にスタートした。日経平均株価は寄り付きに100円超下落する場面があったが、売り一巡後は値を戻しプラス圏に浮上。結局、前週末比13円高の10連騰で引けた。「サウジ情勢の緊迫化を受けてもマーケットはリスクオフ姿勢とはなっていない」とキャピタル・パートナーズ証券の倉持宏朗チーフマーケットアナリストは言う。「株式市場での買い戻しの動きは強いうえに、 為替市場でも円高は進んでいない」と同氏は指摘する。リスクオフ時に円は安全通貨として買いが膨らむが、この日は一時1ドル=108円30銭台に乗せ、むしろ円安が進行している。
●ボルトン解任で市場には安心感、FOMC重視でNYダウ最高値も
この為替市場の動向に対して、上田ハーローの山内俊哉執行役員は「トランプ大統領はイランの関与を示唆しているが、現在の状況証拠だけでは攻撃に踏み切るわけにはいかない。先日、強硬派のボルトン氏を大統領補佐官から解任したばかりであり、トランプ大統領は戦争に踏み切ることは嫌っていることも分かった。この点をみて、マーケットはリスクオフの円高には向かっていないのだろう」と指摘する。更に、今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%の利下げの可能性が高いが「FOMC前で積極的に動きにくい面もある」と山内氏は言う。言い換えれば、市場は今回のサウジ石油施設攻撃に対してはFOMCを上回るだけの材料として受け止めていない様子だ。このため、FOMCを視野にNYダウの最高値を更新するとのシナリオは不変とみる声は多い。
●消費国は原油備蓄を整備し産油国は在庫抱える、需給面から安心感も
更に、原油需給の面からも上値を押さえる要因が指摘されている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は「足もとで産油国は原油在庫を抱えているほか、消費国は原油備蓄を行っている。このため、急に原油が不足することはないという安心感がある」とみている。この点が、1970年から80年代初頭のオイルショック時とは違う点だという。また、トランプ米大統領が必要な場合、戦略石油備蓄(SPR)を放出すると発表したことも市場の安心感を誘った。更に、米国はシェールオイルの増産により世界最大の産油国となった。「米国にとって原油高は必ずしも悪いことではない」(アナリスト)ことも相場の安心材料との見方も少なくない。
●イラン関与が明確化すれば再度、波乱要因に浮上
とは言え「サウジを中心とする中東情勢リスクは決して軽視できない」との声は市場には多い。前出の芥田氏は「急激な需要の変動に対応できるサウジアラビアの重要性は改めて認識された」ことを指摘する。更にサウジアラビアの石油関連施設の攻撃にイランが関与したことが判明したり、あるいは石油施設の復旧に予想以上の時間がかかることが分かったりした場合、原油相場は一段の上値を試す可能性はある。加えて、サウジの石油施設が再度攻撃されないという保証もない。
「今回のサウジ攻撃が原油需給の改善要因になり、原油価格を押し上げたことは事実。万が一、米国とイランの軍事衝突が現実となるような事態があれば1バレル100ドル台に原油が急騰することがあってもおかしくない」と芥田氏はみている。
株探ニュース