市場ニュース

戻る
 

【市況】S&P500 月例レポート ― 1年の方向性を左右する「1月相場」 (1) ―


S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2019年1月
●株式市場は政府機関の閉鎖に無関心

 12月としては1931年(-17.48%)に次ぐ下落率を記録した2018年12月(-9.18%)に続き、年明けの2019年1月のS&P 500指数は7.87%上昇となり、1月としては1987年(13.18%上昇、ただし同年10月は-21.76%)以降で最も高い上昇率を記録し、「1月の相場動向はその年の相場の方向性と一致する」との期待感が高まりました。過去の実績によると、この格言の実現確率は71.1%です。また、ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は1月に7.17%上昇し、1981年に付けた8.01%以来の高水準となりました。

 株式市場と米国政府は互いに競い合うように、「数量化できるが、非科学的な」機能不全状態に陥っています。すなわち、市場の機能不全は経済や企業業績の方向性に確信が持てないことに起因し、政府の機能不全は党利党略を最優先にしている(あるいは、そうしなくてはならない)ことが原因のようです。

 1月の株式市場は7.87%と大きく値上がりし、2018年12月24日の底値からの上昇率は15.01%となり、弱気相場とは一線を画すと同時に、調整局面からも抜け出しました。この結果、9月の最高値からの下落率が7.73%のところまで戻って来ました。空売り筋だけが7%も上昇したことに大いに不満を感じているようですが、1月の相場に関しては「1月の動向がその年の方向性を左右する」という1929年以来脈々と受け継がれる格言があり、その実現確率は71%であることが1月の大幅上昇をなお一層喜ばしいものにしています。

 とはいえ、ここ数年を見ると格言通りの展開にならない年が多くなっています。記憶に新しいところでは、2018年は1月に5.62%上昇しましたが、通年では6.24%下落しました。2016年は1月に5.07%値下がりしたものの、年間では9.54%の上昇でした。さらに、2014年も1月は3.24%下落でしたが、終わってみればその年は11.39%上昇しました。このように見ていくと、おそらく奇数年は格言通りになるのでしょう。そして今年はすでに、奇数年にみられるような相場展開になると思われます。

 1月は2つの大きなイベントが注目されました。もちろん、他のイベントが重要でないというわけではありませんが、1つは相場に影響を与え、もう1つは材料視されませんでした。

 メディアを賑わせたものの材料視されなかったイベントは政府関連の問題で、現在「ハーフタイム」中ですが、今後は材料視される可能性があります。後方では煙が立ち上り、政治家(ローマの皇帝ネロのごとき)が時間を浪費する中、政府機関の閉鎖が続きました。ようやくトランプ大統領と議会は35日間続いた政府機関の一部閉鎖を解除することで合意しました。ただし、2018年12月22日から始まった閉鎖が完全に解除されたわけではなく、あくまで2月15日までの3週間の限定措置です。ちなみに、政府機関が2日以上閉鎖するのは今回で16回目となりますが、過去15回の平均閉鎖期間は8.2日でした。この応急措置により政府機能が再開し、連邦職員の給与が支払われ、経済指標の公表も行われることになります(新たな公表スケジュールはまもなく発表される予定)。また、大統領の一般教書演説も2月5日に実施される模様です。

 しかし、最も重要なことは、トランプ大統領が言うように、3週間後に再び政府機関が閉鎖されるか、もしくはメキシコ国境の壁の建設着手に必要な予算確保のために大統領が非常事態宣言を発令する、というような展開を回避するための政治的駆け引きの時間が確保されたことです。政府機関の再開に対するウォール街の反応はと言えば、35日間閉鎖されていた時と同様に薄いもので、話題にはなりましたが、材料視されることはありませんでした。一時的とはいえ政府機関が再開されたことで、政府は事態の打開に向けた時間的余裕を手にすることができましたが、これまでと同様に、国民に対して見せ掛けのアピールを繰り返しながら期限ぎりぎりまで交渉が続くことになるでしょう。それまでは、実体経済や党の支持基盤に向けて時折、市場の反応をうかがう行動に出ると思われます。市場関係者にとっては、公表が遅れていた経済指標が揃い始めることになり、情報の新鮮さは薄れていますが、依然として重要な意味を持っています。

 もう1つのイベントは、市場関係者が古くから重視している企業の決算発表です。発表された業績やこの時期頻繁に聞かれる言い訳(2月5日は中国の春節、トランプの一般教書演説日、さらに私の誕生日等々)に、市場は必ずしも納得していないかもしれません。そして、業績予想は過去に遡及適用できる場合にのみ利益を生むものだとしても、企業業績は分析や数量化の対象であり、売買の判断材料として欠かせないものです。

 S&P 500指数構成企業のうち、時価総額で半分以上の企業が決算発表を終えた現段階で、2018年第4四半期の業績は71.5%の企業が事前予想を若干上回りました。その理由として、企業が当初から見通しを低めに公表していたことが指摘されていますが、それでもPER信者を動揺させるほど低く見積もってはいませんでした。実際の第4四半期の利益(事前予想は前期比-5.8%)は過去最高となった第3四半期を下回りましたが、問題視されるほどではないようです。

 むしろ懸念されるのは2019年通期の予想で、現時点では前年比7.8%増ですが、2018年末時点では同9.4%増、2018年9月は同12.1%増でした。一方、PERは許容できるレンジに収まっており、株価もPERが大きくブレない水準で推移してきました(2018年第4四半期の相場は軟調でしたが、2019年1月は堅調)。目下の2019年の予想PERは16.1倍ですが、2018年末時点では14.6倍、2018年9月は16.5倍でした(第4四半期は低調、1月は良好)。EPSに市場全体の注目が集まりましたが、足元の売上高は引き続き好調で、増加基調を維持しながら過去最高を更新中です。とはいえ、一部のセグメントでは売上高の伸びの鈍化が始まったようです。

 2月は引き続き、政府の動向と決算発表(実績および予想)に注目が集まるとみられます。しかし、バレンタインデー翌日の2月15日に状況が一変する可能性があります。過去の数字をひも解くと、57.4%の確率でバレンタインデーに株価が下落しています。現時点で、ウォール街は大統領と議会が合意すると考えています。おそらく状況は好転しないものの、とにかく合意だけはすると予想しています(そう考えるのを止めた場合、株価の下落が教えてくれるはずです)。

 その後、決算発表を行う会社が減少し始めると(同時に、業績予想の下方修正も減ることを願います)、市場の関心事は、3月1日の対中貿易協議の期限(トランプ大統領はそれまでに合意できると述べていますが、交渉期限がさらに延期されるとの観測も出ています)、予算(両党とも自らの党利党略を優先する姿勢を強めるでしょう)、税還付による短期的な成長押し上げの可能性(長期的な効果はとうてい期待できないと思われます)に移る可能性があります。

 過去の実績を見ると、1月は63.3%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は4.13%、下落した月の平均下落率は3.96%、全体の平均騰落率は1.17%の上昇となっています。2月は53.3%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.34%で、全体の平均騰落率は0.02%の下落となっています(市場はこれまで52.8%の確率で上昇していますが、バレンタインデーに上昇した確率は42.6%にとどまっています)。今後のFOMCのスケジュールは、3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月18日-19日、7月30日-31日、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日となっています。

 1月の相場動向はその年の相場の行方を占う尺度として有効で、71.1%の確率で的中しています。今年1月は7.87%上昇し、1月としては1987年の13.18%上昇以来の高い上昇率となりました。ちなみに2018年は1月の5.62%上昇にもかかわらず、通年では6.24%下落しました。

※「1年の方向性を左右する『1月相場』 (2) 」へ続く

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均