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【市況】武者陵司 「米中通商合意近い、テクニカル株価調整の出口近し」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1) 米中貿易戦争の帰趨

問) この秋の相場、非常に荒い値動きでした。少し落ち着いてきたかにも見えますが、市場には米中貿易戦争が深刻化し、とてつもない危機が起きるかもしれないという潜在的恐怖がありますね。米中貿易戦争と中国経済の先行きをどう見ていらっしゃいますか?

武者) 10月4日ペンス副大統領がハドソン研究所において、非常に厳しい中国批判スピーチを行った。これまでの貿易や経済に限定していた批判の枠を超え、政治、軍事、情報、技術、あらゆる面での中国の不公正さを非難した。いよいよ米中冷戦の時代となり、国家安全保障が経済に優先する時代に入っている、との論評が強まっている。この米中冷戦の不安が、10月の世界株式急落の背景にあった。ペンススピーチの直後から10月末までに日経平均は3000円、12%ダウンと、歴史的暴落が記録された。中国に対するアメリカの敵視政策への転換がどのような結果をもたらすかが見えないから不安定である。

 しかし、米中冷戦が、当面の経済や米中通商関係を破局させるわけではない。このことが明らかになった時点で安心感が戻ってくると思われる。11月30日にブエノスアイレスでG20サミットが開催され、それに合わせてトランプ、習近平会談が計画されているが、そこで一定の合意がなされ、貿易通商の暗雲が晴れていくのではないか。米国は中国の不公正貿易慣行の是正を要求し、対中輸入品目2500億ドルに対して10%の関税を課したが、要求が満たされなければ、2019年1月からさらに関税率を25%に引き上げると、圧力をかけていた。それに対して中国は140数項目の回答を準備し、大きく譲歩せざるを得ないだろう。

 米中貿易戦争で私たちが見なければならないのは、中国とアメリカの総需要がそれによってどれだけネガティブな影響を受けるかだ。結論的に言うと、アメリカの総需要はほとんど関係ない。他方、中国は米中貿易戦争の結果、中国の工場をよそに移す企業が出てくることで設備投資は明らかにマイナスの影響を受けている。それが工作機械や半導体関連の受注に明らかに表れている。ただ、それが中国経済全体を腰折れさせるとか、総需要を大きく落として世界の金融危機の引き金を引くことにはならない。設備投資はスローダウンするが、インフラ投資や金融緩和、民間企業への金融支援策により景気は持ち直すだろう。また、中国での設備投資を抑制した企業は、ベトナムや台湾、タイなどの代替地での設備投資を始めるだろう。

 5GIoT本格化を前にして、世界のスマホの需要が20億個強で頭打ちになるというプロダクトサイクルの転換点にきている。また、半導体に関して言えば、仮想通貨のマイニングの設備の需要が大きく落ち込んだ。これら局部的問題が全般の設備投資の抑制と景気の後退につながるものではない。

問) アメリカの中国に対するスタンスは、政権の中で割れている面があるようですね。

武者) ホワイトハウス内での論争がメディアを賑わしている。ピーター・ナバロ氏など対中強硬派は、中国との合意に前向きなゴールドマン・サックス出身の元金融関係者、例えばムニューシン財務長官やヘンリー・ポールソン氏(前財務長官ゴールドマン・サックス出身)の対中融和姿勢を非難している。彼らはアメリカの国益ではなく中国の代理人のようにふるまっている、との指摘である。この強硬派が米中合意を壊してしまうのではないか、との懸念が広がっている。しかし、これは奇妙である。グリップが強いはずのトランプ大統領の足元での内輪喧嘩が堂々とメディアに出ている。これは明らかにやらせだろう。強硬派はメディアで激しい批判を展開し中国を大きく譲歩に追い込む戦略に違いない、と思われる。

(2) 米国金融政策の変化と中間選挙結果をどう見るか

問) 株価急落のもう一つの要因がアメリカの金利の上昇と言われている。アメリカの金利の上昇をどう見ていらっしゃいますか。

武者) 確かに長期金利は上がってきた。ただ、上がったとは言え3%ちょっとという金利水準はアメリカの名目経済成長率6%に比べるとまだ半分。長短金利の正の乖離も十分大きい。かつて景気が過熱し転換点になる時には長短金利が逆転し、長期金利が名目成長率を上回るところで起こった。経済の実力に対してそのコストとなる金利はまだ低い水準であり、このレベルで景気後退とか市場がベアマーケットに入ることは起こりようもないと考えられる。もっとも、長期金利上昇がアセットアロケーションの変更を通して株式市場に影響を与えたのは事実だろう。

問) 中間選挙を経てこれは今後アメリカの経済に影響すると思われますか。

武者) 選挙結果は、財政に関してポジティブな影響が考えられる。トランプは共和党なのに大きな政府の信奉者、民主党も大きな政府。これまで共和党は小さな政府の信奉者が多くて財政拡大に批判的であったが、下院が民主党多数となったことで、下院とトランプが大きな政府で合意できる素地が広がる。具体的にどこで合意できるかと言うと、おそらくインフラ投資。インフラ投資はトランプも民主党も次の選挙の手柄にしたい。これがさらなる財政赤字拡大につながる、との批判はあるが、マーケットの心配はむしろ、減税の効果が終わったら来年は景気が減速するのではという心配である。それに対し、財政支出拡大はプラスの結果をもたらすものだ。

 それからこの間の株安に連動して、金利が低下し、上昇を続けていた原油価格が大幅に下落した。これらはインフレ圧力を抑え、ビジネスのコストを抑制したことで先行きの景気拡大を延命させる効果をもたらす。原油下落は世界の景気の悪化を示唆しており株は売りだ、との論理もあるが、説得力がない。

問) 積極財政となると金利がまた上がると言われているが、3%台であるうちは大丈夫という見方でしょうか。

武者) 長期金利上昇の最も大きな原因はFRBのバランスシート圧縮。つまり、長期金利上昇も全く政策当局の手の届かないところで展開されているわけではなく、実は政策当局の裁量の中で起こっているということが重要である。トランプ政権もFRBも次の景気後退をなるべく先送りしたい。その原因となるイールドカーブの逆転を回避したいと思っている。長短金利が逆転しそうな局面においては、バランスシート圧縮のテンポを変化させて長期金利に影響を及ぼすという手立てもある。つまり、金融政策が景気の腰折れを招き株価の長期上昇の息の根を止めるというのは時期尚早の議論である。

(3) 株式長期上昇の波は終わっていない

問) それでは武者リサーチの一貫した主張である、テクニカルな株価下落要因の中身を具体的に教えて下さい。

武者) 一つはアルゴ、人工知能を使ったトレーディング。人間の裏の裏をかくAIトレーダーが相手方にいて猛威をふるい、人間の定石が全く通用しない投機市場を演出している。二つ目は、株式市場に入ってくるお金の流れが今まではボトムアップ、ファンダメンタルズ調査に基づく個別銘柄投資がメインであった。しかし、今は巨額の資金がトップダウンで入ってくる。投信の半分はインデックスとETF。ちょっとした金利の変化でアセットアロケーションが変わり巨額のお金が株式市場に入るとインデックス採用銘柄が買われるということが起こる。これらにより株式市場のボラティリティが高くなり、投機色が強まっている。

 もう一つアメリカの市場において唯一の買い手は自社株買い、ここ数年個人も家計も全部売り方であった。例えば2015年~2018年前半までの3年半累計でみると、自社株買い2兆600億ドルに対して、家計は4100億ドル、投信は3300億ドルの株式を売り越している。つまり、自社株買い自粛期間は株式需給が極端に売り越しに傾く時期であり、容易に仕掛け売りが奏功する時期といえる。相場急落の2月初め、10月初めはまさしく自粛期間の開始と照応している。となれば、自粛の終了とともに株式需給は大反転するはずである。この間急落しているのは株だけで、為替(ドル円)も金利もクレジットリスクプレミアムもほとんど反応していない。

 以上から考えると、世界株式の急落は株式市場の内部要因による乱気流が主たる要因で、金融市場全般のリスク回避ではなく、ましてファンダメンタルズに大きな理由はないと私は見ている。インデックス買いがアップル、アマゾン、アルファベットなどのインターネット・プラットフォーマーの突出した株価上昇をもたらしたのが逆回転し、インデックス売りがそれらに打撃を与えたが、今後は株式相場にセクター間のローテーションが戻ってくるだろう。

問) 10月あまりにも相場が大きく崩れたので年内は10月頭の高値まで戻らないだろうという見方が多くなってきているようですね。

武者) それはそうかもしれませんね。この間の株価の意表をついた下落、著しく高いボラティリティによりリスクテイカーは大きなダメージを受けている。だから、回復は緩やかになるという可能性もある。しかし、テクニカルで売られたものはテクニカルで買い戻されるので、著しく早い回復があるかもしれない。

 リーマンショック以降9年続いた株価上昇が終わったと見る人が多いが、本当にそうだろうか。2月と10月の2つの天井、ダブルトップでいよいよ長期上昇相場は終わったと言う人もいるが、1月高値より9月高値が高いこと、10月の安値は2月の安値を下回っていないことなど、ダブルトップの形状にはなっていない。私自身は、2015年のチャイナショックより軽い調整で終わる可能性が強いと思う。

 そうなってくると来年早々に堅調な相場が戻る可能性も十分にある。特に中国はなりふりかまわない景気対策をする。中国経済が底割れをした2015年と今とはグローバル経済のファンダメンタルズは全然違う。中国経済が低調で国際商品市況が夏場から弱くなっているが、これは今年前半の中国の政策的調整の結果。政策は180度変わっていて商品市況も転換している。中国ペシミズムが株価を大きく押し下げるのは数年先だろう。

有難うございました。

(2018年11月19日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン213号」を転載)



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